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この秋リリースの、ベテランが生み出す大人ならではの妙味とトライアルを感じる日本語ラップ

文/高木”JET”晋一郎

たかぎ”じぇっと”しんいちろう●男の墓場プロダクション/レキシネーム:門仲町一郎/モノホンHIPHOP物書(トージン認定)/サ上と中江マイメンNo.1/サイプレス上野「ジャポニカヒップホップ練習帳」構成/Amebreak「Beat Scientist」連載/R-指定(Creepy Nuts)トークイベント「Rの異常な愛情」進行/オワコンないと

ガールズ・ラップ・ユニット:lyrical schoolのhimeさんをお迎えしての昨今のヒップホップ動向記事、お読みいただけましたでしょうか? 大学生ならではの同世代やニューカマーが紹介の中心になり、フレッシュな内容になったかと思います。


そして! フレッシュなのはユースだけではない! ベテラン勢も長いキャリアならではの超刺激的な作品をバリバリっとリリースしております! というのが、この記事のテーマ。その中でも秋にリリースされた4アーティストをご紹介出来ればと。

☆KREVA 「タンポポ feat. ZORN」

tofubeats「RUN REMIX (feat. KREVA & VaVa)」やPUNPEE「夢追人 feat, KREVA」など、中堅世代との刺激的なコラボを展開してきたKREVA。しかもベテランの老獪な妙味どころか、バッチバチにスキルの高さを見せつけるある種の「大人気なさ」(特にPUNPEE曲でのボースティングのキレっぷりたるや……)はやはりKREVA! そして自身名義の作品にZORNを迎えた「タンポポ feat. ZORN」でのライミング合戦と「年少の独房/慶應を卒業/今交わるデコボコのオフロード」という掛け合いのスリリングさたるや。ZORNも逆にKREVAを迎えたZORN「One Mic feat. KREVA」 をリリースし、蜜月を感じさせます。


☆ZORN / Life Story feat. ILL-BOSSTINO

上記の曲では「年少」側のZORN。ニューアルバム「新小岩」がiTunesチャート1位を獲得し、そのアルバム収録曲や過去曲、客演曲がiTunesチャート30位の中に22曲もランクインするなど、サブスク解禁していないという事実を超えても、その注目度の高さを売上としても証明しています。そのアルバム収録曲の中でも、北のハードライマー:ILL BOSTINO(THA BLUE HARB)を迎えた「Life Story」は、そのタイトル通り、お互いに「人生」を削りながらその破片をリスナーにぶちまけ、胸を抉る快曲。「武道館の翌朝も俺は作業着」というシリアスさも、「俺の意見より嫁の機嫌」というファニーさも、どちらも人生のリアリズムに貫かれております。

☆GEEK - 居間

前作のリリースから12年ぶりという、長い長い沈黙を破ってフルアルバム「LIFESIZE III」をリリースしたGEEK。アルバム「LIFESIZE」などを通して、2000年代の日本語ラップシーンのブライテストホープとして期待を一心に受けて、GEEKのメンバーのOKIがSEEDAとともに生み出した「TERIYAKI BEEF」は、アンダーグラウンド・ヒップホップの先鋭化を象徴するような楽曲としてシーン内外から大きな注目を集めていましたが、様々な事情によって活動を休止。その間にはメンバーのSEI-ONEに脳腫瘍が発覚するなど、数奇な運命に翻弄されたグループが、その波乱を乗り越えて生み出した新作は、家庭や家族、ヒップホップ以外の仕事といった、ヒップホップ的には「しみったれた」と思われるようなトピックが中心になっています。しかし、それこそを自らのリアルとして描き出し、その上で生み出される物語と視点はまさしくライフサイズであり、ヒップホップの一言!

☆HUNGER - わ道 / WADOU

「日本語ラップはお経」だとか「秋田音頭」だとか言われてた時代から幾星霜。いまではそういった批判をするやつこそ「ダサい」という状況になり、完全に日本語ラップがポピュラリティを得た2020年です。しかし、そこにたどり着くまでには、様々な試行錯誤やトライアルがあり、その屍の上にいまの「誰でもそれなりにうまく聴かせられる事のできる日本語でのラップ」という「システム」が生まれたわけです。それに対して、HUNGERは所属するグループ:GAGLEでの「屍を超えて」でも意識的に歌い、ソロ曲「JAPPCATS」でその歴史を「人名の羅列」という形で表現しました。そして今年に入ると紹介した「わ道 / WADOU」を始めとして、和太鼓や日本の伝統音楽とラップとのコラボプロジェクトを進行。いわゆるヒップホップ的/ブラックミュージック的な裏打ちやシンコページョンするビートではなく、日本の伝統音楽の「オンで取るビート」の上で、ラップをどう聴かせるかという挑戦は、「日本語ラップ」の次の段階を想像させられる。意義深いチャレンジです!

事程左様に(強引なまとめ方)、ベテラン勢も自らたちにムチを入れるような刺激的な作品を生み出す昨今。他にもアラフォーにして突如アルバム「BEYOND THE OLD SCIENCE 」をリリースしたMousou Pagerや、ラップだけではなく、トラックメイクも自身で手掛けた「Anyways」をリリースした環ROYなど、ベテランも黙っちゃいない日本語ラップシーン秋の陣でした!

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