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あいみょんの“歌”のすごさを思い知る3曲【TV Bros.10月号連動企画】

8月24日に発売されるTV Bros.10月号では、あいみょんを50ページにわたってご紹介! 本誌連動企画として、あいみょんの楽曲についてのコラムをお送りします。


文/小松香里

こまつ・かおり●編集者/ライター。2019年8月、ロッキング・オンから独立。音楽・映画・アート関連の記事を中心に幅広く携わる。

サードアルバム『おいしいパスタがあると聞いて』を9月9日(水)にリリースするあいみょん。そもそもアコースティックギターと歌という弾き語りを基調にしたシンガーソングライターであるわけだが、やはりその凄みが一番表れているのが“歌”。数々の名曲の中でも、特にあいみょんの歌の力を思い知る3曲をピックアップ。

メジャーデビューシングル『生きていたんだよな』の3曲目に収められている「君がいない夜を越えられやしない」。歌に寄り添った、たおやか且つシンフォニックなアンサンブルアレンジ。特に2Bの「好きすぎる事が嫌になる 嫌われることを恐れてる」から、サビの「もう君がいない夜を越えられやしない 目を閉じるのは簡単だけどさ」に移行する時の、吐息と間も含めてすべてが芸術的な域に達したような、どうしようもない狂おしさの高まりといったら。
あいみょんの曲の中でも特に、人と人とのフィジカルなふれあいを歌った曲で、7月5日に行われた無観客配信ライブで、久々にライブで歌われたことも記憶に新しい。大切な人に思うように会えない、そんな苦難の中、あいみょん自身もファンと会えないという状況に向き合うこととなってしまった。ライブではこの曲を歌った後、「これが最初で最後の無観客ライブにしたいと心から思います」と吐露していた。聴き手の存在を直接感じられてこそ、生と生のコミュニケ―ションが発生するからこそ、あいみょんのライブは成立する──そんな、アーティストとしての根幹を痛感したシーンだったが、「君がいない夜を越えられやしない」で歌われている、肌の生々しい温もりと強い喪失感が、ライブ中のあいみょんの心に揺さぶりをかけたようにも思えた。

「マリーゴールド」も収録され、大ヒットしたセカンドアルバム『瞬間的シックスセンス』。その7曲目に収められ、あいみょんのパートは弾き語りの一発録り音源が使われている「恋をしたから」。「忘れられないものなどなくて 譲りきれない思い出ばかりで いい加減に諦めなさいなんて 簡単に言わないで」と、歯止めのきかない恋心を諭すような歌から始まる。1秒1秒熱が帯びていき、ギターの1音1音が、すべての間が、ひたすら切なさを高めるために機能し、2Aから2Bの間で聴ける、「ああ~」という声にならない声に、この恋の沼ぶりが集約されているような雄弁さ。フルートが一筋の救いのように温かく奏でられつつ、Dメロで切なさはピークを迎え、その高まりきった切なさを大事に染み渡らせるような歌で曲は終わる。
あいみょんがインタビューで太宰治の『斜陽』に登場する「人間は恋と革命のために生まれてきたのだ」という言葉をあげていたこともあり、その根源的なメッセージも含めて、とても重要な曲。


そしてやはり、最新シングル「裸の心」も外せない。「バラードはヒットしづらい」という風潮を認識したうえで、あいみょん自らシングルリリースを希望したほど手ごたえがあった曲だ。
虚勢や虚飾をボロボロとはがれ落とすかのような静謐なピアノが奏でられ、間髪入れずに「いったいこのままいつまで 1人でいるつもりだろう だんだん自分を憎んだり 誰かを羨んだり」と歌われると、すべてを見透かされたような、身ぐるみ剥がされた感情になる。たくさんの情景が走馬灯のように去来しつつ、一呼吸入れてからのサビの「この恋が実りますように」という歌には、何か神聖な祈りが唱えられたような普遍性が宿っていて、そこからどんどん浄化されていくような感覚に。深い孤独と苦悩が歌われつつ、圧倒的な包容力が爆発している歌の力がすごい。


あいみょんはストリーミング文化から生まれたスターではあるが、それはたまたまそういう時代だったからであって、この歌があれば、プラットフォームがどこであれ、多くの人に支持されるアーティストであろう。

ちなみに、『おいしいパスタがあると聞いて』の初回限定盤には、あいみょんが音楽制作の拠点としているPOTATO STUDIOのダイニングルームでレコーディングされた10曲入りの弾き語りCDがついていて、「裸の心」をはじめ、全編あいみょんの歌のすごさを思い知る1枚となっている。


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