第35回歌壇賞候補作品を読む「ナイトフィッシュ」②
劇薬を受け入れるとき人はみな凪いだ港の桟橋にいる
心臓を動かすために注入される劇薬。三途の川から引き戻される瞬間、この世とあの世の桟橋にいるのだろう。凪いだ港とされる静かな時間と緊迫した状況のアンバランスが絶妙。
目の乾いた金魚のようだ幽明のあわいを赤色灯は泳いで
生と死の境目をゆく救急車の赤色灯を赤い金魚の目が乾いているさまと重ねこの世とあの世の境界線を泳いでいると表現している。
雨風に掘り起こされて国道へはみ出すほどに山茶花揺れる
流れから読むと主体は救急車の車内から