見出し画像

THE FIVE SENSES【感想】③

インアン
Hearingより
自律感覚絶頂反応

うれしーと君が発する口角がちゃんと上がっているのが分かる
うれしーの「しー」はCでありこの形と口角の上がり具合がマッチしている。耳から伝わる音を口角で表現する見事に。

本当は聴くというより嗅いでいるビクター犬は音の匂いを
Victor蓄音機を聴く犬は音の匂いを嗅ぐという発想。確かにあの首の傾げ方鼻から音を聴いている様だ。なるほど。

ASMR触れてもくれなくてただ完璧な抱擁がある

タイトルにあるようにASMRは自律感覚絶頂反応。心地よい脳がゾクゾクする。聴覚によるASMRは背中へのピンポイントらしい。となると‥バックハグしかも脳内で。

寝息だけサプリメントのように摂る
この前後のつながりを考えると主体は寝息を立てている誰かに触れずに背中を見つめている姿が浮かぶ。

気づかないふりで洗濯物を干す(ね、ずっと聞いていたい鼻歌)
これどっちだろうか?続いているととると鼻歌を歌っているのが主体なんじゃないかな?と思う。寝息を聞きながら鼻歌を歌っている主体と寝息を立てている愛しいひととのハーモーニー

ぴったりと君を聴くとき遠浅の珊瑚に潜む巻き貝になる
もうずっと主体は寝息を立てている君をいろんな角度から感じている。その表現として遠浅の珊瑚に潜む巻き貝になる主体。想像すると背を向けた君の背中に耳を当てる。のだが実際は触れてはいないのだと思う。その方が感覚絶頂反応を捉えることができそう。

耳栓をしないで潜る馬鹿だろうまるで宇宙に二人っきりで
水の中に潜った時の感覚。耳の中が陰圧になる感覚。主体の脳内で広がる宇宙が計り知れない二人だけの世界。馬鹿だろう。凄く馬鹿。もちろん良い意味で。

ぷちぷちと生まれてはぷちぷちと死ぬ
ぷちぷちはクセになる音。いつまでもぷちぷち弾いていたい。ここで持ってきたのは何か意図があるはず。

いつからか句点が増えて降る雨をビニール傘にすべらせている
ぷちぷちの雨がまだ降ってしまう。ビニール傘にすべる雨粒と重なる。句点が増えて降る雨‥なんだか分からないが不穏な空気が感じられる。

聴いているのに聴こえない夜きっと致死量だったモスキート音
どうやら2人の関係に暗雲が、すれ違ってゆく夜の表現だろうか?モスキート音で表すのが巧み。

歪んでいるほうが綺麗なものがある たとえば君の正しい喘ぎ
この並びはとても好き。単独一首としていちばん好きな歌。甘美で妖艶なのに正しく綺麗

咀嚼音がなくても砂肝を愛せるの?
砂肝を咀嚼する音は砂肝が好きなものにはたまらない。セットだろう。だが咀嚼音だけを捉えると不快な音として感じる人はいる。ここでもすれ違いが生まれそう。だから愛せるの?のクエッションマークが生きてくる。

何度目のシャンプーだろう姦しく続く井戸端会議 シャワー
主体が消し去りたい音をシャンプーで流しているのだろう。シャワーの音で消し去りたいのに姦しく続く井戸端会議は終わらない。ここでの井戸端会議は主体の心の声自問自答が騒々しいのではないだろうか。

思い出せそう思い出せそう黙祷 君の知らない店の有線
君の知らない店の有線は君とは関係ない主体の記憶 思い出したら君を消せそう黙祷=無音

わたしたち言葉じゃなくて音を聴く渚 番の巻き貝を飼う
わたしたちは君以外の未来を見据えているのではないか?言葉じゃない音を聴く渚 番の巻貝を探し求める渚 いつか番の巻貝になるために

全体を通して連作としての物語の起承転結が優れていると思った。割とサクサクと読み込める作品で音からここまで物語ができるのか。と感嘆している。

夜月雨さんの反応

脳内をぐちゃぐちゃにする信号、ことば、あるいは君の声 小さな死
脳内をぐちゃぐちゃにする信号は耳から伝わるもの。ことばだったりあるいは君の声だったり‥小さな死はモスキート音をパチンと叩いた音

一首でこの物語の音を消した。無音。終幕。

さあ。次は‥手に渡るバトン。
続きはtouch。お楽しみに。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?