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「生き残ったアンネ・フランク」が語る、誰も奪えない「選択」の自由(植田かもめ)

植田かもめの「いま世界にいる本たち」第28回
"The Choice: A true story of hope"(選択:希望に関する真実の物語)
by Edith Eger(エディス・エガー)  2017年9月出版
2021年春 日本語版刊行予定 パンローリング株式会社

本書"The Choice"は、臨床心理学者でありアウシュビッツ強制収容所の生存者であるエディス・エガーの自伝である。ビル・ゲイツが、コロナ禍のこの夏に読むべき本のひとつとして挙げている。数奇な運命をたどった彼女の半生は、困難な時代を生きるレッスンを与えてくれるかもしれないからだ。

人はトラウマをどう克服するか

1927年にハンガリーで生まれた彼女は、弱冠17歳のときにアウシュビッツの強制収容所に連行され、両親と生き別れる。同じ年代、同じ時期に強制収容所での生活を経験しているため、本書の序文では彼女を「生き残ったアンネ・フランク」とも称している。

本書では強制収容所での生活が詳細に語られる。そして、彼女が奇跡的に生き残った経緯は、偶然としか呼びようのないものだ。

戦後に彼女は結婚して米国に移住し、大学で心理学を学ぶ。一方で、自身は過去のトラウマに苦しめられる。子どもたちにも自分の過去を明かせず、「なぜ自分が生き残ったのか」と自問する時期が続いた。

それでも彼女は心理学者としてのキャリアを築き、一般の家庭での臨床や退役軍人向けの講演など様々な場面を通じて、現在も活動を続けている。本書で彼女は「個人の苦しみに序列はない」(there is no hierarchy of suffering)と語る。他人からはどんなに馬鹿げたことに見えても、本人にとって重要ならば、その苦しみを割り引く必要はないと彼女は語る。

彼女が自らのトラウマを克服した経緯は本書で語られるが、転機のひとつとしてV.E.フランクルの『夜と霧』(英題はMan's Search for Meaning=人生の意味の探求)を読んだことを挙げている。なお、アウシュヴィッツ強制収容所について綴られた同書を読み始めるのは、彼女にとって勇気を要する作業だったようだ。同書を通じて彼女は、どんなに困難な状況にあっても、人間にはそれにどう反応するかを「選択」する自由が残されていることを学ぶ。これが本書のメッセージでありタイトルの由来にもなっているので、別の作品も紹介しながら詳しく説明しよう。

苦しみは避けられなくとも、「被害者でいる」かどうかは選べる

本書とは全く異なる作品なのだが、ヤマシタトモコの『違国日記』というマンガがある。

両親を事故で失った女子高校生と、小説家である叔母の同居を描いた作品だ。親戚の間をたらい回しにされた少女を引き取ると決めた叔母は「わたしはあなたを愛せるかどうかはわからない。でも、わたしは決してあなたを踏みにじらない」と語る。

他人から踏みにじられた人間がどう生きるか、または、いつでも他人に踏みにじられてしまうような社会をどう生きるかを同作はテーマとしている。そして、時代も背景も異なるが、これはエディス・エガーの本書とも共通したテーマだと思うのだ。

なぜなら、エガーは本書の中で何度も「被害者でいること」(victimhood)とは何なのかを考えているからだ。

エガーは言う。苦しみは避けられないが、被害者でいるかどうかは選べる。そして、被害者"になる"ことと、被害者"でいる"ことは異なる(Suffering is universal. But victimhood is optional. There is a difference between victimization and victimhood)。

人は誰でも、できるならば苦しみを避けて生きていきたい。けれども、誰もが知っている通り、自分に降りかかる困難を全てコントロールすることはできない。

それでも、その困難にどう反応するかだけは、自分で選択できるのだ。過去は変えられないが、過去にどう反応するかは選べる。「あなたの心の中にあるものは、誰も奪えない」(no one can take away from what you've put in your mind)と、自らの母が繰り返し教えてくれたとエガーは本書で述懐する。

エディス・エガー著"The Choice"は2018年8月に発売された一冊。

執筆者プロフィール:植田かもめ
ブログ「未翻訳ブックレビュー」管理人。ジャンル問わず原書の書評を展開。他に、雑誌サイゾー取材協力など。ツイッターはこちら
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