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天才たちに学ぶ「家の中で最高にクリエイティブな仕事をする方法」(渡辺裕子)

渡辺裕子「鎌倉暮らしの偏愛洋書棚」 第4回
"Daily Rituals: How Great Minds Make Time, Find Inspiration, and Get to Work" by Mason Currey 2013年出版
天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々』 著:メイソン・カリー 訳:金原瑞人、石田文子 フィルムアート社 2014年発売

世界人口の約半数が外出制限の対象となるという未曾有の事態の中(2020年4月現在)、どうしたって気になるのは「人は家でどんな風に仕事して、どんな毎日を送っているのか?」ということだ。

いや、こんな事態でなくても、人の食べている朝ごはんとか、お弁当とかを見るのがもともと大好きで、雑誌の特集があればつい買ってしまうし、Instagramでいろいろ見てしまう。

朝起きて、最初の一杯は、コーヒーなのか紅茶なのか。どんな風に食事を調えて、お気に入りの品は何だろう。一日の終わりは誰とどんな食卓を囲むのか、と。

この本は、さまざまな天才たちの「日課」を集めた、ただそれだけの本。

登場するのは、アガサ・クリスティやバルザック、村上春樹といった小説家から、ベートーベンやモーツァルトなどの作曲家、ピカソ、マティスなどの画家、カール・マルクス、ユングやフロイトまで、多岐に亘る。ほとんどの共通点は「家の中でクリエイティブな仕事をする人たち」だということだ。

たとえばベートーベンの日課はこんな感じ。

昼にしっかりと食事をとったあと、さっそうと長い散歩に出かける。日中の残りの時間の多くがその散歩に費やされた。いつも鉛筆を一本と五線紙をニ、三枚ポケットに入れて持ち歩き、浮かんできた楽想を書きつける。日が暮れてくると、居酒屋へ寄って新聞を読んだりした。夜は友人と過ごしたり、劇場へ行くこともあったが、冬は家にいて本を読むのを好んだ。夕食はたいてい簡単なもので、スープと昼食の残りなど。食事しながらワインを楽しみ、食後はビールを飲みながらパイプを一服する。

意外に“地味”な天才たちの日常

著者は「はじめに」でこう書いている。

フランスの美食家ジャン・アンテルム・ブリア=サヴァランは「どんなものを食べているか教えてくれれば、あなたがどんな人かいいあてましょう」といった。私はこういおう。「何時に食事をして、そのあと昼寝をするかどうか教えてくれれば、あなたがどんな人かいいあてましょう」

午前中はベッドの中で過ごし、本を読んだり作品の口述筆記をさせたりしていたヴォルテール。朝6時に起きて洗顔をしてから、コーヒーとパン2、3切れの朝食をとっていたミロ。日中は寝て、夜に仕事したプルースト。

天才たちの創作プロセスというのは、決して派手なものではなく、むしろ多くの人が半径数メートルか数十メートルにこもり、自分の内面と対峙し、気の遠くなるような日々を重ね、その中で、朝食の支度やベッドメイキングといった日常と折り合いをつけながら、たまに楽しみながら、数十年かけて、偉大な何かを残してきたのだと思う。

200名近い天才たちの日常が一冊にまとめられているので、一篇は1ページから3ページと読みやすい。好きな作家から、開いたページから読み始めて、眠くなったらベッドに入る。そんな日常を楽しんで、生き延びるための一冊。

執筆者プロフィール:渡辺裕子 Yuko Watanabe
2009年からグロービスでリーダーズ・カンファレンス「G1サミット」立上げに参画。事務局長としてプログラム企画・運営・社団法人運営を担当。政治家・ベンチャー経営者・大企業の社長・学者・文化人・NPOファウンダー・官僚・スポーツ選手など、8年間で約1000人のリーダーと会う。2017年夏より面白法人カヤックにて広報・事業開発を担当。鎌倉「まちの社員食堂」をプロジェクトマネジャーとして立ち上げる。寄稿記事に「ソーシャル資本論」「ヤフーが『日本のリーダーを創る』カンファレンスを始めた理由」他。

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