吾妻利秋
おりにかなう助け 『徒然草』のことば。 「そのとき、あなたはここを読んでください」
現代語訳 この徒然草上・下二巻は吉田先生が、暇な毎日に、だらだらしながら人生の黄昏に向かって、心に浮かんだ妄想を書き写したものである。最近、堺市の儒学者・三宅…
現代語訳 八歳の私は父に、「お父ちゃん。仏様とはどんなものなの」と聞いた。父は、「人間が仏になったのだよ」と答えた。続けて私は、「どんな方法で人は仏になるの」…
現代語訳 人が性懲りもなく苦楽の間を逡巡するのは、ひとえに苦しいことから逃れて楽をしたいからである。楽とは何かを求め執着することだ。執着への欲求はきりがない。…
現代語訳 月が円を描くのは一瞬である。この欠けること光の如し。気にしない人は、一晩でこれ程までに変化する月の姿に気がつかないだろう。病気もまた満月と同じである…
現代語訳 人目を避けて恋路を走り、仕掛けられたトラップを突破し、暗闇の中、逢瀬を求めて性懲りもなく恋人のもとへと馳せ参じてこそ、男の恋心は本物になり、忘れられ…
現代語訳 十五夜と十三夜は牡羊座が輝いている。その頃は空気が澄んでいるから月を観賞するのにもってこいだ。 原文 注釈 婁宿 ― 古代中国の天文学で、黄道に近い…
現代語訳 随身の中原近友が自慢話だと断って書いた、七つの箇条書きがある。全て馬術の事で、くだらない話だ。そう言えば、私にも自慢話が七つある。 一つ。大勢で花…
現代語訳 道具箱の蓋の上に物を置く際には、縦に向けたり横に向けたり、物によってそれぞれだ。巻物は、溝に向かって縦に置き、組木の間から紐を通して結ぶ。硯も縦に置…
現代語訳 京都の亀岡にも出雲がある。出雲大社の分霊を祀った立派な神社だ。志田の何とかという人の領土で、秋になると、「出雲にお参り下さい。そばがきをご馳走します…
現代語訳 主人がある家には、他人が勝手に入って来ない。主人のない家には通りすがりの人がドカドカ押し入る。また、人の気配が無いので、狐や梟のような野生動物も我が…
現代語訳 何かを尋ねる人に、「まさか知らないわけがない、真に受けて本当のことを言うのも馬鹿馬鹿しい」と思うからだろうか、相手を惑わす答え方をするのは悪いことだ…
現代語訳 何事でも失敗を避けるためには、いつでも誠実の二文字を忘れずに、人を差別せず、礼儀正しく、口数は控え目でいるに越したことはない。男でも女でも、老人でも…
現代語訳 人間は何事も知らず、出来ず、馬鹿のふりをしたほうが良い。ある賢そうな子供がいた。父親がいる前で人と話すので中国の史書から話題を引いていた。利口には見…
現代語訳 園の別当入道は、二人といない料理人である。ある人の家で見事な鯉が出てきたので、誰もが皆、別当入道の包丁さばきを見たいと思ったが、軽々しくお願いするの…
現代語訳 五条の皇居には妖怪が巣くっていた。二条為世が話すには、皇居に上がることを許された男たちが黒戸の間で碁に耽っていると、簾を上げて覗き込む者がある。「誰…
現代語訳 名匠は少々切れ味の悪い小刀を使うという。妙観が観音を彫った小刀は切れ味が鈍い。 原文 注釈 妙観 ― 大阪府箕面市にある勝尾寺の観音像と四天王像を彫…
2023年12月19日 07:56
現代語訳 この徒然草上・下二巻は吉田先生が、暇な毎日に、だらだらしながら人生の黄昏に向かって、心に浮かんだ妄想を書き写したものである。最近、堺市の儒学者・三宅寄斎がこたつで脚を伸ばしながら、老子の虚しさを話し、荘子の自然を説明し、暇な日には、二、三人の弟子に対して、徒然草の講義を行った。それでは飽きたらず、後に、徒然草を書き写して、印刷屋に注文し版下を作り、その二、三人の弟子にくれてやった。そ
2023年12月19日 07:48
現代語訳 八歳の私は父に、「お父ちゃん。仏様とはどんなものなの」と聞いた。父は、「人間が仏になったのだよ」と答えた。続けて私は、「どんな方法で人は仏になるの」と聞いた。父は、「仏の教え学んでなるんだ」と答えた。続けて私は、「その仏に教えた仏は、誰から仏の教えを学んだんですか」と聞いた。父は、「前の仏の教えを学んで仏になったのだよ」と答えた。続けて私は、「それでは最初に教えた仏は、どんな仏だった
2023年12月19日 07:43
現代語訳 人が性懲りもなく苦楽の間を逡巡するのは、ひとえに苦しいことから逃れて楽をしたいからである。楽とは何かを求め執着することだ。執着への欲求はきりがない。その欲求は第一に名誉である。名誉には二種類ある。一つは社会的名誉で、もう一つは学問や芸術の誉れである。二つ目は性欲で、三つ目に食欲がある。他にも欲求はあるが、この三つに比べればたかが知れている。こうした欲求は自然の摂理と逆さまで、多くは大
2023年12月19日 07:38
現代語訳 月が円を描くのは一瞬である。この欠けること光の如し。気にしない人は、一晩でこれ程までに変化する月の姿に気がつかないだろう。病気もまた満月と同じである。今の病状が続くのではない、死の瞬間が近づいてくるのだ。しかし、まだ病気の進行が遅く死にそうもない頃は、「こんな日がいつまでも続けばいい」と思いながら暮らしている。そして、元気なうちに多くのことを成し遂げて、落ち着いてから死に向かい合おう
2023年12月18日 10:14
現代語訳 人目を避けて恋路を走り、仕掛けられたトラップを突破し、暗闇の中、逢瀬を求めて性懲りもなく恋人のもとへと馳せ参じてこそ、男の恋心は本物になり、忘れられない想い出にも昇華する。反対に、家族公認の見合い結婚をしたら、ただ間が悪いだけだ。 生活に行き詰まった貧乏人の娘が、親の年ほど離れた老人僧侶や、得体の知れない田舎者の財産に目がくらみ、「貰ってくださるのなら」と呟けば、いつだって世話焼
2023年12月18日 10:07
現代語訳 十五夜と十三夜は牡羊座が輝いている。その頃は空気が澄んでいるから月を観賞するのにもってこいだ。原文注釈婁宿 ― 古代中国の天文学で、黄道に近い二十八星座を基準に月や太陽の位置を示した。これを二十八宿と呼び、「婁宿」は、その一つ。
2023年12月18日 10:01
現代語訳 随身の中原近友が自慢話だと断って書いた、七つの箇条書きがある。全て馬術の事で、くだらない話だ。そう言えば、私にも自慢話が七つある。 一つ。大勢で花見に行ったときの事である。最勝光院の近くで馬に乗る男がいた。それを見て、「もう一度馬を走らせたら、馬が転んで落馬するでしょう。見てご覧なさい」と言って立ち止まった。再び馬が走ると、やはり引き倒してしまい、騎手は泥濘に墜落した。私の予言が
2023年12月18日 09:34
現代語訳 道具箱の蓋の上に物を置く際には、縦に向けたり横に向けたり、物によってそれぞれだ。巻物は、溝に向かって縦に置き、組木の間から紐を通して結ぶ。硯も縦に置くと筆が転がらなくて良い」と三条実重が言っていた。 勘解由小路家の歴代の能書家達は、間違っても硯を縦置きにしなかった。決まって横置きにしていた。原文注釈柳筥 ― 柳の組木細工で作った箱。二つの足を台に付け、蓋には、烏帽子、
2023年12月18日 09:28
現代語訳 京都の亀岡にも出雲がある。出雲大社の分霊を祀った立派な神社だ。志田の何とかという人の領土で、秋になると、「出雲にお参り下さい。そばがきをご馳走します」と言って、聖海上人の他、大勢を連れ出して、めいめい拝み、その信仰心は相当なものだった。 神前にある魔除けの獅子と狛犬が後ろを向いて背中合わせに立っていたので、聖海上人は非常に感動した。「何と素晴らしいお姿か。この獅子の立ち方は尋常で
2023年12月18日 09:19
現代語訳 主人がある家には、他人が勝手に入って来ない。主人のない家には通りすがりの人がドカドカ押し入る。また、人の気配が無いので、狐や梟のような野生動物も我が物顔で棲み着く。「こだま」などという「もののけ」が出現するのも当然だろう。 同じく、鏡には色や形がないから、全ての物体を映像にする。もし鏡に色や形があれば、何も反射しないだろう。 大気は空っぽで、何でも吸い取る。我々の心も、幾つも
2023年12月18日 09:14
現代語訳 何かを尋ねる人に、「まさか知らないわけがない、真に受けて本当のことを言うのも馬鹿馬鹿しい」と思うからだろうか、相手を惑わす答え方をするのは悪いことだ。相手は、知っていることでも、もっと知りたいと思って尋ねているのかも知れない。また、本当に知らない人がいないとは断言できない。だから、屁理屈をこねずに正確に答えれば、信頼を得られるであろう。 まだ誰も知らない事件を自分だけ聞きつけて、
2023年12月18日 09:09
現代語訳 何事でも失敗を避けるためには、いつでも誠実の二文字を忘れずに、人を差別せず、礼儀正しく、口数は控え目でいるに越したことはない。男でも女でも、老人でも青二才でも同じ事である。ことさら美男子で言葉遣いが綺麗なら、忘れがたい魅力になろう。 様々な過失は、熟練した気で得意になったり、出世した気で調子に乗って人をおちょくるから犯すのだ。原文
2023年12月18日 09:04
現代語訳 人間は何事も知らず、出来ず、馬鹿のふりをしたほうが良い。ある賢そうな子供がいた。父親がいる前で人と話すので中国の史書から話題を引いていた。利口には見えたが、目上の人の前だといっても、そこまで背伸びすることもなかろうと思われた。また、ある人の家で琵琶法師の物語を聞こうと琵琶を取り寄せたら柱が一つ取れていた。「柱を作って付けなさい」と言うと、会場にいた人格者にも見えなくはない男が、「使わ
2023年12月18日 08:57
現代語訳 園の別当入道は、二人といない料理人である。ある人の家で見事な鯉が出てきたので、誰もが皆、別当入道の包丁さばきを見たいと思ったが、軽々しくお願いするのもどうかと逡巡していた。別当入道は察しの良い人物なので、「この頃、百日連続で鯉をさばいて料理の腕を磨いております。今日だけ休むわけにもいきません。是非、その鯉を調理しましょう」と言ってさばいたそうだ。場の雰囲気に馴染み、当意即妙だと、ある
2023年12月17日 08:50
現代語訳 五条の皇居には妖怪が巣くっていた。二条為世が話すには、皇居に上がることを許された男たちが黒戸の間で碁に耽っていると、簾を上げて覗き込む者がある。「誰だ」と眼光鋭く振り向けば、狐が人間を真似て、立て膝で覗いていた。「あれは狐だ」と騒がれて、あわてて逃げ去ったそうだ。 未熟な狐が化け損なったのだろう。原文注釈五条内裏 ― 五条大宮内裏。一二七〇年に焼失。藤大納言殿語
2023年12月17日 08:44
現代語訳 名匠は少々切れ味の悪い小刀を使うという。妙観が観音を彫った小刀は切れ味が鈍い。原文注釈妙観 ― 大阪府箕面市にある勝尾寺の観音像と四天王像を彫刻した僧。