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印税生活を考える。

セブンイレブンに行ったら
聴き覚えのある曲がかかっていた。
よくある有線のイージーリスニング。
ん? と思った。
そうだ、オレの大好きなスタイルカウンシルの
『My ever changing moods』だ!
80,年代初頭に全世界で大ヒットした曲である。
この曲のMVはポール・ウェラーとミック・タルボットが、
二人でイギリス郊外の並木路を自転車で走るという内容だった。
それを真似して、
学生時代、友達と二人で
横並びでチャリを走らせ、
歌いながらスーパーに買い出しに行ったものである。
大好きな曲なので今でも聴いたり口ずさんだりする。
とてもオシャレな曲だ。

そんな曲がインストのイージーリスニングに加工され、
極東の島国のコンビニのスピーカーから流れている。
これはすごいことだ。
きっとポール・ウェラーとミック・タルボットには、
10円くらいの印税がチャリンと入るのだろう。
ポール・ウェラーはスーパースターで、
ファッション・リーダーでモッズの神様だ。
10円がチャリンと入ったところで、
その明細書などは彼の手許に届く前にゴミ箱行きだ。
とはいえ、チリも積もればなんとやらである。

要するに「印税生活」とはこういうもなのである。
自分のあずかり知らぬところで、
二次使用、三次使用、百次使用されても、
なんらかのお金がチャリンと懐に入る。

世界的に大ヒットを飛ばすと、
一生食っていける。
もうポール・マッカートニーや
ミック・ジャガー、
エルトン・ジョンなんかは300年くらい贅沢な暮らしができるくらいの
印税生活だ。
もちろん、ポール・ウェラーもこの先200年くらい困らない。
世界のスーパースターはコンビニでバイトなどしなくてもいいのだ。
うらやましい。

ここで大事なのは、
ヒット曲を連発することではない。
「一発屋」でいいから、
ドカーンと当てることだ。
例えば、
70年代後半に全世界で大ヒットした
The NACKの『マイ・シャローナ』がそれだ。
もう空前絶後の人気だったが、それっきり。
でも、21世紀の今も、
あちこちでよくかかる。
その度に彼らに印税が入る。

音楽の世界ではよくあることだ。
たとえ、人気が廃れようとも、
全世界で売れてしまえば、
バイトをする必要がない。

本やアートの世界では、
なかなかそれがうまくいかない。
作家でも書き続けないと、
印税生活にはほど遠い。
それでもたまーにいる。
本の一発屋で、
オレがなんと言っても「この人」と思っているのは、
『ドラキュラ』の作者
ブラム・ストーカーである。
これはすごい。
絵に描いたような一発屋。
ブラムはドラキュラのあと、
少し書いたりしたけれど、
まったく売れずに飲んだくれて死んだ。
しかし、ブラム・ストーカーが死んだあとでも、
『ドラキュラ』は売れ続け、
何度も出版されたり映画になったりと、
今でも怪奇物の代表格である。
『ドラキュラ』の印税がどうだったのかは知らない。

とにかく印税収入とは、
「ストック型」の収益であり、
野心家たちは、
それを目指して、
ああでもないこうでもないと作品を作り続けるわけだ。

いいなあ、印税生活。
オレとてまだあきらめたわけではない。
一発屋で結構なので、
スマッシュヒットを飛ばして、
老後の安定を求めたい気持ちでいっぱいである。
ただ、やっぱり本だけでは印税生活はままならない。
やっぱり、音楽である、なんつっても。

高校一年の時に
「オレはロックのスーパースターになる」と言って
親を口説きレスポールを手に入れた。
しかし、毎日毎日練習しても一向に上達しなかった。
文化祭くらいは出たけどね。

大学の馬術部の先輩の父上が、
レコード会社の偉い人だったので、
先輩も交えて、
デタラメな即席バンドをつくり、
練習もしないで、
一発録りでデモテープを作った。
作詞作曲はもちろんオレである。
なんせスーパースターになって印税生活を目指していたわけだから。
録音した次の日に先輩にそのテープを
父上経由でレコード会社のディレクターに渡してもらった。
1か月くらいして、
お返事をいただいた。
手紙で。
そこには
「君は才能がないので、音楽はあきらめた方がいい」と書いてあった。
全国のロックスターを夢見る若者から沢山のデモテープが届くのだろうが、
いちいち手紙で返事など書かないだろう。
でも、オレのは偉い人経由だから、
丁寧に手紙をくれたのだと思う。
特にがっかりはしなかった。
オレがディレクターだったとしても、
同じことを書くだろう。
というより、
「やめたほうがいい」と書いて、
若者を真っ当な社会人にしてあげるというのは、
とても優しいことである。
オレは世の中というものを舐めていた。

では、才能のある人と組んでバンドをやればいいのではないか、
とも思ったけれど、
オレは集団行動が苦手なので、
それもなかなか難しかった。

このようにして、
オレの音楽で印税生活をするという野望はいったん頓挫した。

その後、社会人になり、
フリーランスの編集・ライターになって、
また印税生活を夢見るようになった。
作る本、作る本がすべて
軽く10万部越えすると本気で思っていた。
まあ、結果は印税生活をできていないわけだから、
お察ししてほしい。
オレはまたしても世の中を舐めていた。

こうなったら、
初心にかえり、
一曲だけ書いて、
誰か有名な人に歌ってもらいながら、
小説でも書くかな。

そそ、とにかく何かやんないことには、
印税生活にはならない訳だから、何かやろう。
何をやるかはおいおい考えよう。

ああ、思いついた。
印税生活への道のりを、
ありのままに曲にしたり書き物にしたりするのはどうか。
それは売れるのか。

ダラダラと長々とつまらぬことを書いてしまった。
ぐちょぐちょと考えがまとまらないので、
また、セブンイレブンに行ってみよう。
とりあえずは。


よろしければチャリンとしていただけたら、この上ない喜びです。何卒、何卒!