【テュルク世界の風景】ウファで見たバシキール語
Һаумыһығыҙ! ハウムフグズ(バシキール語で「こんにちは」)
チュヴァシ語も研究するタタール語講師 boltwatts です。今までは、チュヴァシ共和国の首都チェボクサルで見たチュヴァシ語を紹介してきました。
今回は、2015年1月に訪れたバシコルトスタン共和国の首都ウファで見たバシキール語を紹介していきたいと思います。バシコルトスタンは、タタールスタンの東隣で、これまで見て来たチュヴァシ共和国とは、タタールスタンを挟んで反対側にあります。
当時留学していたタタールスタン共和国の首都カザンから、お隣のバシコルトスタン共和国の首都ウファまでは、乗り合いバスで8時間ほど。チェボクサルまでは3時間ほどなので、結構遠いです。
ウファに着いて言語景観を観察すると、カザンに比べて民族語が併記されている看板が多いこと、民族語がロシア語の上もしくは左に書かれていることに驚きました。どうやら、そのように書く決まりになっているようです。
上の写真のような圧倒的併記は、カザンでもほとんど見られません。тауыҡ(タウック)「鶏肉」や сырҙар(スィルザル)「チーズ(複数)」に見られる ҡ [q] と ҙ [ð] は珍しい文字で、前者はバシキール語とシベリア・タタール語で、後者はなんとバシキール語でしか使われていません。
Көньяҡ автовокзал туҡталышы
(キョンヤク・ヴァグザール・トゥクタルシュ)
「南バスターミナル停留所」
バス停名も2言語表記で、しかもバシキール語が左にあります。その南バスターミナルに入ると、さらに驚きの光景が。
Барлыҡ йүнәлештәргә кассалар
(バルルック・ユネレシュテルゲ・カッサラル)
「全方面への切符売り場」
でかでかとバシキール語が。ロシア語よりもバシキール語の存在感の方が大きいことに驚きを隠せませんでした。ただ、バシキール人はバシコルトスタンで多数派ではなく、現地の人によると、ロシア人やタタール人をはじめ、このような表記に反対の人もいるようです。
Яңы йыл менән!
(ヤング・ユル・メネン)
「あけましておめでとう!」
ウファを訪れたのが正月休みの時期だったので、新年のあいさつが多くのところで見られました。
Рәхим итегеҙ!
(レヒム・イテゲズ)
「ようこそ!/いらっしゃいませ!」
タタール語では Рәхим итегез! と、最後の ҙ [ð] が з [z] になります。こんな風に、バシキール語とタタール語はとても良く似ています。
ウファの中心部には、日本人建築家の新井清一氏らが設計した「コングレス・ホール」があります。2007年にできたこの建物は、バシキール文化の要素を取り入れたデザインになっているようです。
バシコルトスタンやウファのシンボルとなっている観光名所は、中心部の公園にあるバシキール人の英雄サラワット・ユラエフの像です。彼は地元のホッケーチームの名前にもなっています。
像のあるあたりからは、眼下にベラヤ川が見渡せます。ベラヤとはロシア語で「白い」という意味ですが、凍った上に雪が積もって、その名の通り真っ白になっていました。
Башҡорт балы һәм сувенирҙары йорто
(バシュコルト・バル・ヘム・スヴェニルザル・ヨルト)
「バシキールのハチミツとお土産の家」
バシコルトスタンはハチミツで有名です。このときお世話になった日本人の留学生は、ウファで養蜂を学んでいました。
本屋の看板にもバシキール語が。バシキール語で「本」は китап(キタップ)で、後ろについている -тар(タル)は複数を表わす接尾辞です。バシキール語の複数を表わす接尾辞には8種類の形 -лар/-ләр, -дар/-дәр, -тар/-тәр, -ҙар/-ҙәр があり、どれが付くかは名詞の最後の音などによって決まります。
ウファの主な観光名所は、サラワット・ユラエフ像のほかに、やや中心部から離れたところにあるチューリップ・モスクがあります。その名の通り、チューリップをイメージして作られた美しいモスクです。
現地の友人からお別れの際にもらったお土産(バシキールのお菓子)には、バシキール語で成分表示が書いてありました。これはとてもめずらしいので、感動して写真を撮ってしまいました(ふつうはロシア語しか書いていないのです)。
2泊3日のウファ旅行を終えると、また狭いワゴン車に8時間缶詰になって、当時住んでいたタタールスタンの首都カザンに帰りました。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。次回からは、タタールスタンで見たタタール語について書こうと思います(タタール語の話しは、タタ村さんとかぶるので、後回しにしていました)。
Күрешкәнгә тиклем!
(キュレシュケンゲ・ティクレム)
「ではまた!」
(文:菱山 湧人「テュルク友の会」メンバー)