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いろいろ悩みましたが、、【 #愛読書で自己紹介 】

 新年に入りふと思い立ち、少し前から note を始めているのですが、読書系の記事を辿っているうち、面白そうな企画「#愛読書で自己紹介」を拝見したので便乗させていただこうかな、と。

正直、3人・3冊に絞り込むのはどうにも悩ましかったのですが、、今回はこちらの3作品にしてみました。


『桜宵』(北森鴻)

 三軒茶屋の路地裏に静かにたたずむ「香菜里屋」というバーを舞台とした連作短編集です。中でも特に印象に残っているのが「桜宵」の一編、「御衣黄」と呼ばれる、その名が示すように「黄色い桜」が題材となっている物語、春が訪れる都度、読み返したくなります。
 その御衣黄桜を軸に、かすかな痛みを伴いつつしっとりと、物語は紡がれていきます。一片の花びらから始まる、一組の男女の交流と、それを取り巻く人々の想い、そして一つの贈り物。最後は、どこか春の夜を思わせるような温かさに包まれる、そんな一編でした。ちなみに、御衣とは貴人の纏う服装で、その際に高貴な色の一つとして使用された「萌葱色」が由来でもあるそうです。
 そうそう、著者の北森鴻さんは他の作品も含め、色々とお酒や食べ物の描写が出てくるのですが、どれもこれも美味しそうで、ついついお腹が鳴ってしまったりもします、、本当にこんな店があったら常連になりたいですね。やはり北森さん、早逝が惜しまれます(2010年没)。

『風のマジム』(原田マハ)

 原田マハさんだけでも何冊か候補が出てしまい、何とも悩ましかったのですが、こちらにしてみました。ちょうど家族旅行で石垣島に行ったときに出会った一冊で、沖縄での実際にあった話をベースにしている、やわらかな南風につつまれるような物語であったのが、旅行の思い出とともに刻まれています。
 主人公はとある会社の派遣社員、生まれも育ちも沖縄の伊波まじむ。彼女がふとしたきっかけで社内の新規事業ベンチャーに応募したところから、物語は動き始めます。題材となるのはサトウキビから蒸留される「ラム酒」、その中でもサトウキビの搾り汁から直接製造するアグリコール・ラムを、沖縄の名産でもあるサトウキビから作りだそうとするのが、彼女の描いた事業の軸になります。
 酒造とは全く関係のない会社で働きながらも、沖縄への想いをありったけにこめた何かを作りたい、、どうせなら自分の大事な人と一緒に飲みたいと思った「風の酒(かじぬさきや)」を。事業計画なんて見たこともなく、当然事業の収支なんて考えたこともない、そんな一介のOLが悪戦苦闘を重ねながらも、ひたすらに一途な想いを糧に一歩一歩、その歩みを重ねていきます。
 実際の出来事を下地にしているからでしょうか、妙にリアリティを感じたのを覚えています。現実には社内外の壁も法律の壁も様々な事が、もっともっと高く厳しかったのだろうと思いますけども。

おばあが言ってた『風の酒』、君が感動したほんもののラムを造れる自信がないんだったら、たとえ数字でごまかせても、この事業はうまくいかない。

出典:『風のマジム』

 これは「事業」に携わる人であれば何かしらを感じる心意気、ではないでしょうか。自分が心の底からやりたいとの「想い」、そしてやり抜く「自信」が無ければ手を出すべきではないのかな、と。当時、いろいろと考えさせられた一言でした。
 沖縄の大地とその上を駆け抜ける風に育まれたサトウキビ、そんなサトウキビから作られる酒は、文字通りに風が育てた「風の酒」なのでしょうか。そして「まじむ」とは沖縄の言葉で「真心」を意味する言葉となります。
「まじむこみてい」、真心をこめて物事とは向き合っていきたいと感じさせてくれる、そんな一冊です。
 ちなみに「グレイス・ラム社」の「COR COR(コルコル)」というラム酒のシリーズが、元ネタとなった「風の酒」になります。奇遇にも地元の酒屋さんで扱っていて、折々でいただいております。ラム酒というと度数も高い強いお酒のイメージですが、飲み口は柔らかく爽やかで、ついつい飲みすぎてしまうことも。オンライン販売もしているようですので、ご興味を持たれたら是非、検索してみてください。

『深夜特急(全3部作)』(沢木耕太郎)

「旅」というと何をイメージされるでしょうか、私は「人生」なんて言葉が浮かんできます。そのきっかけになったのは、おそらくこちらの一冊(というかシリーズ)。
 初めて読んだのは大学生の頃(確か10代)。その後もまるで自分の足跡を描きなおすかのように、折々の節目で読み返しています。概要はというと、、ご存知の方も多いと思いますので恐縮ですが、著者・沢木耕太郎さんが26歳の時にふとした思いつきで始めた、インドからロンドンまで乗合バスを乗り継いでいった旅のエッセイとなります。
 第1部、インドからロンドンまでといいながら、、何故か香港(返還前)とマカオ、そしてマレー半島からシンガポールを経て、スタート地点となるインドに行くまでの記録。「旅」が始まっていく最中に、人と人のつながりが浮き彫りになっていく様子に誘われてみたりも。そして、いつ読んでも香港とマカオの「熱」が、時代を越えて伝わってきます。
 人生は旅のようなものと残したのは松尾芭蕉もでしたか。それになぞらえるのであれば、旅の始まりは常に「青春」という若さを与えてくれるのでしょう。香港での熱を絶対として、何処に行っても求めるような斜に構えた様子が、でもどこか不安定で、大きな目的を見失ってしまいそうな危うさも。そんな危うさに自身のソレを重ねながらも「熱い夏」へと進んでいきます。
 第2部、インドとネパールから始まるエピソード。私は特定の宗教を信じてるわけではないですが、文化的側面での興味は津々。無常、輪廻、ガンジス河、そして「死」について、考えさせられます。今でも思い出すのは、90歳で大往生した祖父の線香番をしているときに、奇しくもこの一冊と共に一晩を過ごしたこと。不思議と柔らな空気に包まれながら、いつの間にか寝入っていました。
 そんなインドでの「死」の頚木に別れを告げ「絹の道」へと突入していきます。それまでとは一転したパキスタンでの「クレイジー・エクスプレス」の躍動感のある描写に、なんとはなしに今までの鬱屈への反動を感じとったりも。そこには香港の時とは異なる、ある種の責任感を伴った「熱意」を見出せるような、、責任があるからこそ自省の念も強まるのでしょうか。人生にあてはめるなら「30代」、季節になぞらえるならば「晩夏から初秋」、どこか白い透明感とともに印象に残っています。
 第3部、いよいよオリエントからオヂデントへと歩みを進めていきます。トルコからギリシャ、そして地中海へと移り行くに伴い、文章の色彩もどこか変わっているような。そう、金属のような硬質の輝きを持つラスター彩から、どこか軽さを感じる地中海の青に、なんて。でも若さを伴った軽さと感じないのは、経験則に裏付けされた「壮年」の旅へとその性質が変わっているからでしょう、、旅人自身も。
 地中海に入り、イタリアからフランス、スペイン、ポルトガルを経て、ロンドンへと旅は続きます。しかし、終わりが見えた旅はたどり着く事が目的となっていくのか、どこか生き急いだ風に旅は進んでいきます。まるで終の棲家を求める老年期のごとくに、、であるならば、たどり着いた後は何処に行くことになるのか。
 そして、冬の訪れをも想起させるような流れから出てきたのは旅涯てだけではなく、その次を感じさせる言葉でした。

「ワレ到着セズ」

出典:『深夜特急』

到達したロンドンから発信されたこの言葉、読む都度に自分自身の感じ方も異なっています。旅は人生のようで、人生もまた、旅のようなもの。その旅涯ての先に在るものは、さて。
 そういえば、大沢たかおさんのドキュメンタリー仕立てのドラマもありました。確か、毎年1部づつ映像化されていて、楽しみにして観ていた覚えがあります。もう20年以上昔なんですね、、年を取るわけです(10年以上前ですが、DVDも購入した記憶があります)。
 今年は息子がちょうど大学受験の年、無事に合格出来たら薦めてみようと考えています、学生のうちに手に取ってみてはどうか、と。

以上となります、山根あきらさん、ありがとうございました!

【2024.3.31 追記】
実際の本棚は断捨離中ですが、こちらを読書メモ的に。。

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