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公営団地で生まれ育った性被害者が『子どもたちは夜と遊ぶ(上)』を読んだら

※辻村深月さんの『子どもたちは夜と遊ぶ(上)』の
 ネタバレを含みます
※性犯罪に関する描写があります


『子どもたちは夜と遊ぶ(上)』あらすじ

D大学工学部に通う木村浅葱には、人には言えない秘密がある。
幼少期に母から虐待を受け、それがきっかけで双子の兄の藍が母を殺害したこと。
そして兄と引き離されて入れられた児童養護施設で、壮絶な性虐待を受けて育ったこと。

どこかにいる兄の事を想いながら生活していた浅葱は、とあるコンペがきっかけで兄と再会する。
ただし、インターネット上で。

散々だった施設の生活と、未だに加害者の男に脅されている事を浅葱が兄に話した数日後、この男が電車に撥ねられて死亡する。
浅葱はこれを藍の仕業だと確信。
双子は「世界に復讐する為、交互に人を殺めていこう」という“ゲーム”を始めていく。

幼少期の私について

私は公営団地で生まれ育った。

治安がいいとはお世辞にも言えず、自転車や一輪車を何度もパクられ、団地内の公園では常に誰かが殴り合いの喧嘩をしていた。
私もホームレスの荷物を友人と漁ってみたり、公園で派手に喧嘩したりを繰り返していた。

通っていた小学校では、両親揃っている家庭の方が少なく、一軒家に暮らしている人はクラスに1人しかいなかった。
友達の家に遊びに行ったら電気がつかなかったり、トイレの水は便の時しか流してはいけなかったり。
そういうのが当たり前だと思う環境にいた。

そんな時、団地内で性犯罪にあった。
小学校1年生の夏の時だった。

20年近くも前のことだが未だにどんな目にあったのかはっきりと覚えている。
でも当時は何をなされているのか理解できず、ただただ気持ちが悪くて怖くて恐ろしかった。

相手は自分自身をもっと興奮させるためか、卑猥な言葉を言うように強要してきた。
恐怖で言葉が出ず、震える私を見て彼はさらに言葉をかけてきた。

「ごめんねぇ、言えないよなぁ」

何が「ごめん」だ、屑が。
謝るところが筋違いだろうがと、今になって思う。

だが、幼い私はそんなことは言えない。
ただ、殺さないでと願いながら耐え忍んでいた。

そして事が終わった後に私が涙ながらに発した言葉は、
「ティッシュで拭けば大丈夫」
だった。
健気すぎるだろ。

満身創痍の私に、彼は立ち去り際こう声をかけた。
「来週も同じ時間に同じ場所に来れる?」

頭沸いてるんか??
私が警察を引き連れてきたら、一瞬でお縄だが?

まぁそんな知識も力もないことを、相手は見抜いていたんだろう。
実際私はこの事を親にも相談できなかった。
そもそも何をされたのか、具体的に説明する術がなかったからだ。

だけど一番大きな要因は、
「ルール違反をした事を咎められるのでは?」という恐怖からだった。

日本で育った人なら身に覚えがあると思うが、
「知らない人にはついていっちゃいけません」
と、学校で必ず習う。

私はこのルール破って、犯された。
だから被害のことを周囲に詳らかに話したら、”私”が糾弾されると本気で思っていたのだ。

しかもそれを証明するかのように、ズタボロで家に帰った私は母から怒られた。
こんな時間までどこをほっつき歩いていたんだ! と。

ただ私は「知らない人から追っかけられて逃げた」とだけ言った。
それでもう、終わり。


その後しばらく、頻繁にトイレに駆け込むようになった。
授業中や校外学習中も、場所や時間を選ばずトイレに行きたい。
尿意によるものなのかもよく分からず、とにかくトイレにしょっちゅう行った。
担任の先生は病気か何かを心配してくれた気がする。

あとは団地の廊下を歩いている時、天井や壁から男の人の顔が飛び出してくる妄想に囚われた。
実際にはそんなことないと理解しているのに、なぜかその考えが頭にこびりついて離れない。
その度に身を固くし、短い距離を非常にゆっくり歩いた。

さらに私の家は、夏になると家の窓や玄関を全開にし、部屋を涼しくしようとする習慣があった。
エアコン代が馬鹿にならないから、自然な風に頼っていたのだろう。
その度に玄関から男がやってくるのではないかと心配になり、汗でベタベタな手をワンピースで何度も拭った。

そんな事が、団地から引っ越すまで続いた。


大人になった私について

なんやかんやあり、中学校にあがるタイミングでこの団地から引っ越す事ができた。

さらに運がいいことに、私は勉強が得意だった。
なので勉強を続けて公立の高校に進学し、そのまま大学にも進んだ。

そこで待ち受けていたのは、凄まじいまでのカルチャーショックだった。

まず、団地生まれという人間がいない。
そして医者の息子や議員の娘が、この世に本当に存在するということを知った。
彼らは幼少期から綺麗な家で育ち、優秀な家庭教師をつけてもらい、進学してきたのだ。
着たい服やおもちゃを買ってもらい、治安の良い場所で育つから犯罪にも巻き込まれず、この上なく順風満帆な人生。

住む世界が違うと諦めればいいのに、私は諦めず、彼等に嫉妬した。
そして仲良く振る舞いつつも、内心で軽蔑もした。

あなた達がここにいるのは、本当にあなた自身の努力なのか?
もし私と同じように、風呂トイレ一緒の団地で、不良どもと一緒に廃れた生活をしてもここまで這い上がってこれるのか?
何より、性犯罪に巻き込まれて自尊心をへし折られても自力で対処できるのか?
……いや、無理でしょ、温室育ちの人間には。

常々そう馬鹿にして、でもそれを悟られないように上手く人間関係を構築し、絶対に自分が貧しい幼少期を過ごしていたことを悟らせないように努めた。

特に性犯罪に巻き込まれたことは、死んでもバレたくなかった。
人生の最大の汚点であり、恥だ。



そんな時、パパ活というものが流行り出した。
中年男性とデートする代わりに、お金をもらう。

愚かなバイトだと最初は思った。
だけど次の瞬間、こう思ってしまったのだ。

「幼少期に受けた犯罪って相当賠償金もらえるよな? でも今更見ず知らずの犯人なんて捕まえられる訳ないし、人に言いたくないし…
あっ!! 世の中に対する復讐の一環でパパ活して、じじいから金ふんだくってブランド物買って、周りの友人と同じ生活水準しよ!!!」

短絡的すぎる。
あまりにも短絡的すぎるのに、パパ活を本当に始めてしまった。
しかもこれが上手くいって、初めて会う男に寿司屋でご馳走になり、1万円も貰ってしまった。

だけどしばらくして、急に冷めてしまった。
こんなことをしても過去は変わらないし、実家が太い人間は私がおじさんと会ってる間も楽しく過ごしてるんだろうし。

そう思ったらどうしようもなく、やるせなくなったのだ。
そうしてまじめに就職活動をして、今では財閥系企業に勤めている。
完全に、貧困層からは脱出する事ができた。

だけどそれでも、過去は私を縛る。
未だに買い物をする時に「これは本当に買って後悔しないか?」と考え、口座を見ては貯蓄がないと焦る。
暇さえあればお金の計算をしているし、セキュリティが頑丈なタワマンのHPをずっと見ている。

もう二度と貧しい思いはしたくない。
治安の悪いところには住みたくない。
そしてそういった環境下で起こる性犯罪に、絶対に巻き込まれたくない。

そう、強く願っている。

木村浅葱について思うこと

さて、そんな私が木村浅葱に出会ってしまった。

読み終えた瞬間の感想は、
「浅葱!!!! わかる!!!!!
 とりあえず飲み行こ??」
だった。

母親から虐待は受けていないし、殺人事件にも関与していない。
だけど幼少期を貧しく過ごし、性犯罪者にいいように何度も扱われた経験は全く一緒だ。
そして大学生になって世界が広がり、自分は頭がいいと驕っているところも全く一緒。
もしかしたら私と浅葱と藍の三人で三つ子だったのかもしらんね?と勘違いしてしまいそうになる程だ。

だから正直、浅葱たちの殺人を応援してしまう。
いいぞもっとやれと感じてしまう。

倫理的に誤っていると分かるのだが、そんなことはどうだっていいと思うほど、私は木村浅葱に惹かれている。
今まで散々な目に遭ってきたんだから、別にいいじゃんね〜?って浅葱と居酒屋で愚痴りたい。
絶対にビール美味しく飲めるって!

そんなわけで、私は浅葱を指針にしてしまうのだ。
浅葱が藍を指針にしてしまうのと同じ。


だから彼が今後、どうなっていくのかが気になってしょうがない。
このまま世間への復讐として殺人ゲームを兄と続けていくのか、それとも途中で放棄するのか。

私は先述した通り、彼らの行いを真っ当なものとして見てしまっている。
だけどもし浅葱がこのゲームを止める事ができたら、私も過去に対する精算ができるかもしれない。
そんな重苦しい期待だとか希望だとかを、木村浅葱に背負わしている。

未だに夜中に急に叫んで自分の声で起きたりすることを、いい加減やめたいんだよ。
頼む、浅葱、なんとかしてくれ…!!!


辻村深月さんはこんな読み方をしている読者がいるなんて、想定していらっしゃらないかもしれない。
面倒臭い読者だなぁと、自分でも思っています。


下巻への考察

ここからは、この本に対する考察について。

下巻も読み終わった人からすると鼻で笑っちゃうかもしれないけど、現時点での私の推理や疑問点はこんな感じ。

  • 冒頭で目を刺されたのは月子?(ぼくのメジャースプーンで、秋山先生のゼミ生が血塗れで倒れてたって描写があったはず)

  • そもそも藍は存在せずに、虐待に苦しむ浅葱が生み出したイマジナリーお兄ちゃんとか?

  • ↑だとしたら、ネット上のiは月子が騙ってる? 正体がバレて、激怒した浅葱に刺された?

  • 紫乃の名前が青と赤を足しているあたり、彼女も相当怪しい…(それにしては登場シーンが少ない?)

  • 白根さんは名前の通り、何色にでも染まってしまうような性格=浅葱側に加担する可能性もあるのでは?

  • 聖くんは殺されてないで、本当に誘拐されただけでは?

書き出してみると、なかなか纏まっていない…
とにかく浅葱に対して思い入れを強く読んでしまったから、ミステリーとして読めていなかったのかもしれない。


とにかく下巻でどんな状態になっても、私は木村浅葱を応援し続けます。

それでは、下巻を読みに行ってきます。

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