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2024年6月の記事一覧

『探偵と助手の事件簿~街の通り魔と消えた教師』第三話

「校長先生!? 救急車は呼びましたか?」「今、電話しました。すぐ来てくれると」

 机に突っ伏している校長の頭部からは血が流れており、意識はないようだ。啓志の問いかけには近くにいた青いツナギを着た事務員が答える。
 騒がしいわけではないが騒ついている空間。宮越が野次馬を見渡して言った。

「すみません、警察のものです。落ち着いて、少し離れてください」

 胸ポケットから取り出された身分証を見て、教

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『探偵と助手の事件簿~街の通り魔と消えた教師』第四話

 その日の夜。啓志は自室のベッドに制服を着たまま横になっていた。
 あの後向かった二社でも来校した人物の所属を確認できた。お昼の後の一服を楽しんでいるお姉様方に声をかけて聞き出してみたり、本人が戻ってくるまで会社の入り口近くで待ってみたり。一社目の反省を活かして、正攻法ではない攻め方でミッションをこなしていったようだ。
 残すは夕姫との通話でも話していた隣県の住所のみ。会社名は書いていないが、個人

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『探偵と助手の事件簿~街の通り魔と消えた教師』第五話

 慌てて準備をする夕姫。急いではいたが左後髪の寝癖だけはどうしても許せず、整えているうちに更に時間が経過してしまっていた。
 そこに飛び込んでくるスマホの通知音。靴下を履いているタイミングだったので、制服の右ポケットから淡いピンク色のそれを机の上に雑に取り出したが、差出人の名前を見て思わず、あっ、と声が出る。そもそも雑に取り出した上に慌てたものだから、机から滑り落ちそうになるスマホ。ディスプレイと

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『探偵と助手の事件簿~街の通り魔と消えた教師』第六話

 啓志たちが薪条南に帰ってきたのは、夕方六時を回った頃。途中で三島から宮越に運転手が代わっていたことを知ったのは、薪条南警察署の前で起こされた時だった。そういう細かい所で気を遣えるのが、宮越の良いところなのかもしれない。もっとも、それは二つの立場を持つ者の処世術の一つなのかもしれないが。
 ともあれ、為さぬ善より為す偽善である。正しいと思うことを続けていけば、気持ちなんて意外と後からついてくるもの

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『探偵と助手の事件簿~街の通り魔と消えた教師』第七話

 夕姫の報告は、概ねメールで確認した通りだったが真下が校長に詰め寄ったシーンは含まれていなかったので、啓志は楽しそうにその話を聞いていた。

「なるほど。それで高橋さん含めて出禁にされてしまった、と。気持ちはわからなくはないですが、無茶しますね」
「そうなんですよ。私も知らなかったからびっくりしたし、ヒヤヒヤしながら見てました」

 啓志に無茶をしたと言われてしまう真下。彼に言えたことではないかも

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『探偵と助手の事件簿~街の通り魔と消えた教師』第八話

「まぁ、それも価値観の違いだ。まぁ、こう考えているおじさんもいるんだということを頭に入れておいてくれ」

 店主は珈琲を持ってきた盆を提げて、カウンター内に戻って行った。高い志を持って公安に飛び込んだ若者にとっては、なかなか難しいことかもしれない。それでも店主の思いはそれとなく伝わったようで、先に三島が、少し遅れて藤堂が頭を深々と下げて感謝を口にした。
 店主は手を横に振りながら店の入り口には外出

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『探偵と助手の事件簿~街の通り魔と消えた教師』第九話

 同日。夕暮れ時。薪条南署前には校長逮捕の一報を受けたマスコミが集まっていた。会見を予定していなかった薪条南署としては早急にお引き取り願いたいところではあったが、親しみやすい警察を掲げている手前門前払いもできない。副署長が玄関でまとめて質問に答えることになった。

「逮捕は薪条南高校校長、高田 正臣(タカダ マサオミ)。六十二歳。容疑は横領と文書偽装です。二年前の九月、十月に行われた不明瞭な会計を

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『探偵と助手の事件簿~街の通り魔と消えた教師』第十話

『おい! 探偵!』

 啓志が考えていると、携帯から宮越の声が聞こえてきた。そういえばまだ通話状態だったと気づいた啓志は、そっと通話終了のボタンを押そうとした。

『今、切ろうとしただろ! わかるぞ! なんとなく!』

 啓志は周りを見回す。当然なのだが監視カメラはない。ここ数日のうちに啓志の行動パターンを洞察できる特殊能力でも備わったのだろうか。宮越を見ていると、人間の可能性というものを感じざる

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