第697回 文化財保存活用地域計画をみる その2 河内長野

1、戦略的に文化財を扱うということ

昨日書ききれなかった、歴史文化保存活用地域計画について。

去る2月14日に新たに認定を受けた3地域の計画をご紹介しています。

ぜひその1も合わせてご覧ください。

2、的を絞っていくスタイル

まず昨年認定されたばかりの日本遺産「中世に出逢えるまち/千年にわたり護られてきた中世文化遺産の宝庫」を前面に押し出しています。

題名だけではどんな文化遺産かわからないので少しご説明しますと

河内長野という場所は京の都と霊場高野山を結ぶ街道の中間に位置し、

檜尾山観心寺、天野山金剛寺の2大寺院が隆盛を極め、

その繁栄ぶりは江戸時代の絵図にも描かれている、

近代以降は戦災に遭っていないため景観も含め文化財がよく残っている、

ということらしいです。

計画の策定に先立って国からの補助を受け、文化財の総合調査を実施し、 

寺社建築298棟、古民家299棟、近代建築14棟、美術工芸(彫刻531件、絵画374件、工芸品559件)、石造物1016件の把握を行ったとのこと。

計画策定の大きなメリットの一つがこのような悉皆調査に取り組めるということなのは間違いありません。

もちろん国から補助金がでるからといって、簡単にできることではなく、

調査計画の立案や専門家と地域の方々との連絡調整など行政側が汗を書く場面も多いのですが、

着手するきっかけとしては大きな弾みとなることは間違いないでしょう。

一方、河内長野での課題として特定の分野に対する調査が不十分だったということが課題として挙げられています。

旧家に伝わる村方文書や有形・無形の民俗文化財、天然記念物など。

特に第一にあげた村方文書は全国的に見てまだまだ膨大な数の未整理の古文書が埋もれていることが予測されているので

このような機会に着手することができればなおよかったところですね。

どの旧家にどのくらいの史料があるか、というだけでも把握することが重要で、

その情報だけでも公開されれば、研究者が特定のテーマに沿った形で整理に着手することにもつながっていきます。

この調査を受けて抽出された地域の歴史文化の特徴は

①中世寺院に関わる歴史文化

②中世の合戦に関わる歴史文化

③高野詣に関わる歴史文化

④里山集落に関わる歴史文化

⑤近世・近代の生業に関わる歴史文化

とあまりインパクトはありませんが、

特色が現れるのはここから。

9つの地域の歴史文化遺産保存活用地区を設定します。

高野山へ向かい街道沿いを一つの地域として捉えるのはもちろんですが

拠点的な寺院とその寺領が広がる谷筋を一体のものとして捉えています。

さらにはかつて石清水八幡宮の荘園であった甲斐庄山郷に位置する流谷という地域や和泉国の天台宗寺院槇尾山施福寺の荘園だった滝畑地区などは

里山集落の生業・生活・風習に関連する歴史文化遺産群

としてグルーピングされています。

そしてもう一つ本計画の特徴としては

文化遺産の保存整備継承事業の実施計画が具体的

ということが挙げられるでしょうか。

令和7年度までの計画が緻密に立てられ、

例えば令和2年度には

国宝観心寺金堂内陣板壁絵四天王像保存修理事業

として壁画の剥落留めとクリーニングが行われ、

令和3年度には興禅寺の阿弥陀如来像の保存修理、

令和4年度以降には府指定文化財金剛寺総門や高向神社本殿など

老朽化の度合いに応じて順次保存修理に着手していく、

という形で今後修理が必要になる文化財が明記してあるのです。

もちろん計画通りに進むかどうかは別ですが

必要な事業だ、と計画に盛り混んで可視化することが何より大事なんですよね。

法的に認められた自治体公式の計画に載っているかどうか、は後々重要になってくることでしょう。

掲載までに関係各所との調整が大変だったことは想像に余りあります。

そして最後に触れておきたいのがパブリックコメントの回答数について

令和元年9月10日から10月10日の期間に募集していたにも関わらず、

2名から5件の意見があったにとどまるということ。

と言ってもその意見は

日本遺産に関する市民の関心が高くないので発信を
保存活用計画を推進していく人づくりの場と仕組みづくりが必要

というガチめな提言。これは関係者の意見や…

3、もう少し続きます

いかがだったでしょうか。

今回の事例では、

①地域の「売り」を明確にしたこと。

②メインステージ(高野山への参詣道と大規模寺院)だけじゃなく他の地域も保存活用区域として見出したこと

③今後の施策を具体的スケジュールとして落とし込んでいること

が特筆できるということになります。


さて、結局3回シリーズになります。

次回最後の神河町の事例を報告した後、現段階のまとめをば。

一つだけ触れておくと。

公的機関が新たな計画を策定したときに

ちゃんと公開して、ご意見をいただきましたよ

というアリバイ的な使われ方をしがちなパブリックコメントという手法。

某県のゲーム規制関係でも最近話題ですよね。

結局は有権者たる各人がもっと意識的に行政の仕事を"正しく"監視する、

ということが大事だということだと思います。


今回も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。


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