第1196回 名刀が集まるところとは

1、日本刀レビュー117

今回はディアゴスティーニの『週刊日本刀』117号をご紹介します。

ちなみに前回はこちら。

2、蛍と科学

巻頭の【日本刀ファイル】は信房。

古備前派から古一文字派の過渡期に位置付けられている刀工で

鎌倉時代初期の御番鍛冶にも名を連ねています。

小牧長久手の戦いで活躍した酒井忠次に徳川家康が下賜し、

孫の忠勝が庄内藩主となってから代々受け継がれていたようです。

現在では致道博物館に収蔵されています。

【刀剣人物伝】は京極高次。

妹の竜子が豊臣秀吉の側室になったために出世したからと「蛍大名」と揶揄された、ちょっとかわいそうな人物です。

刀剣のエピソードとしては秀吉の形見分けで吉光の短刀を贈られたり、京極正宗と呼ばれることになる短刀も下賜されています。

豊臣秀次からは樋口藤四郎の短刀を拝領しています。

さらに豊臣秀頼からはニッカリ青江、

美濃国の武将で文化人としても知られた長谷川守知からは郷義弘の短刀を贈られるなど名刀との縁は続きます、

また和泉守兼定の薙刀、鬼夜叉も所持していたとのこと。

続く【日本刀匠伝】では長船長光の子とも言われる名工、真光が紹介されています。

第108号の【日本刀ファイル】でも紹介された太刀が国宝に指定されている代表作。

その技量の高さの割りに残存作が少ないことの理由として、

先代の長光の在銘作が多いことから、実際には真光の手になるものも同一工房の作品として「長光」を刻んでいたのではないか、という推定をしています。

最後に【美とテクノロジー】と題して、金沢工業大学で科学的に設計した新作日本刀について紹介しています。

名誉学長を務める石川憲一氏が研究代表者となって科学研究費基盤研究Cの「日本刀の「美」の科学的解明とそれに基づく新しい作刀評価・設計法の提案と実証」採択を受けて実施された事業。

本誌で「科研費」について触れられることになるとは全く想定外でした。

また本事業は長野県坂城町との協定を結んで行ったもので

「ものづくりのまちの産業振興に関すること」として「坂城町鉄の展示館」の企画運営も協力することが盛り込まれていたとのこと。

従来の刀職技術が感覚的な側面を持って伝承されてきたことを課題とし。

科学的な解明が目標とされたわけです。

大きくは3つの視点が提示され

①姿:押形に変わる形状設計

②地鉄:素材の要素分析と鍛錬指針

③技:匠の技術を科学的に解明

ということのようです。

といいつつも専門家へのアンケートやインタビューで頻出する単語の抽出など、一部は文系学問的な科学。

①に関しては統一的な基準に基づいた各部の寸法測定、

②については柾目、板目などの地鉄に関する観察項目を設けて評価するもの

今後はAI=人口知能による新たな分析を通じて作刀と実証が行われる予定であることが付記されています。

遠くない将来「名工」のビクデータを有するAIが登場して、人よりも優れた刀を作る時代がくるのでしょうか。

3、反発が原動力

いかがだったでしょうか。

本号はやっぱり京極高次ですね。

閨閥の力で立身出世したと揶揄されたからこそ

名刀を集めて武士らしい評価基準を高めようとしているようにも見えますし、

関ヶ原の合戦で一世一代の大勝負を仕掛けるあたりも人間味を感じます。

大軍相手に善戦しつつも最後は開城降伏。

結果として本戦に参加させない足止めを行ったとして評価されるわけですから

人生の結果は最後までわからないものですね。


本日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。


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