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積本くずし

翻訳者向け書評講座第2回にむけて、課題本のなかからルシア・ベルリン『掃除婦のための手引き書』を選んだ。

2019年に発売、
京都の書店のイベントでは訳者の岸本佐知子さんにサインをいただいた。
先に読んだ人はみな「とにかくすごい」と言う。
そんなにすごいんや、とサイン本を大事に持ち帰った。

年は流れて――2022年、春。
いつでも手にとれるように棚に並べていたその本をひらく時がきた。
サインペンのインクが前のページに移らないように挟んだ紙もそのまま。
わあ、サインだ、と2度目の感動。
きのう買ってきたかのような、ぴかぴかのページを繰る。

書評を書くために集中して読もうと思ってはいたが、中盤からはそれ以外のことができなくなっていた。
いま、自分はこの作品を読むべくして読んでいるのだと思った。
冷静になるまで時間がかかり、あやうく書評の締切を過ぎるところだったが。

いつか必ずくずす時がくると信じて、罪悪感に負けずに積みつづけて本当によかった。
機が熟せば、積本の方から「いまだよ」と歩み寄ってくれる。
それまで堂々と積んでいればいいのだ。

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