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面白さを増していく『風都探偵』、原作の魅力を改めて伝えたい。

 近頃、月曜の朝が辛い。いつも寝不足で、仕事に身が入らないでいる。それもこれも、アニメ『風都探偵』が面白すぎるからだ。

 日曜24時に最新話が配信というのは流石に夜ふかしが過ぎるし、かといってじゃあ後回しにすればいいじゃないかという気もするのだが、結局ソワソワしてU-NEXTを開いてしまう。そんな日々が続き、目の下のくまは一向に晴れない。

 TVシリーズや劇場版のその先を描く正統続編にして、媒体を漫画に移しての新たな『W』は、原典の拡張性の高さを証明するかの如く広がりを見せ、放送終了後もスピンオフや小説版が展開されてきた作品史にも違和感なく溶け込み、今なお『W』が現行作品であることを痛烈に意識させてくれる。街の人々と鳴海探偵事務所の面々が今でも「風都」に生きてそこにいるという実感を、ページをめくる度に、あるいはアニメを観る度に、与えてくれる。

 かつて『風都探偵』のことを語る記事を書いたことがあったが、それも2019年、ビギンズナイトを描く第6集が発刊されたばかりの頃だ。そして今やアニメ化を果たし、コミックスは13集を数えるまでに、本作は長く長く愛されている。今回は、アニメ化をきっかけに『風都探偵』に触れた人や、アニメのその後が気になる方へのプレゼンを心がけながら、上掲の拙作のアップデートを試みるものである。主に3つの観点から本作ならではの魅力を掘り下げ、かつ探偵物語の面白さを削ぐネタバレを含まないように注意しつつ、語ってみたいと思う。単行本を揃えるか否かを迷う諸氏の背中を押せたなら、何よりである。

①拡張されるw/漫画であるがゆえに

 まず何と言っても、本作の特徴は「漫画」であることだ。これはすなわち、キャストの都合や予算といった懐事情、あるいは表現規制に左右されない「新しいW」が描ける、ということ。

一方、漫画媒体ならではの表現がたくさん織り込まれている点も見逃せない。日曜朝のTV番組では不可能な女性の裸体の描写であったり、技術的・予算的にもハードルの高い巨大ドーパントが街を破壊する表現があったりと、実写作品を撮る上での様々な制約から解き放たれた媒体ゆえに可能な表現で、『W』に新たなスパイスを加えているのだ。また、TVシリーズではあえて有耶無耶にされてはいたが、ドーパント犯罪では時に死人が出ることもあり、そういった一面から逃げずに描けるからこそミステリーとして今一歩深い表現が可能となっている。その証左としてコミック3集では「豪雪に閉ざされた洋館での殺人事件」というミステリー王道の題材が選ばれ、仮面ライダーというジャンルとそれが自然に融合した本エピソードはコミックならではの発明と言っていいだろう。

『風都探偵』を読めば、いつでもあの街の風を感じられる

 アニメ版では省略、あるいはソフトな表現に改変されてはいるが、原作の『風都探偵』ではときめのセクシーな場面だったり、わりと凄惨な殺され方をされる被害者の画だったりがわりと多く登場する。ときめは原作でも今なお謎多き美女であり、かつ多くの登場人物が彼女に魅入られ近づいてくる中で、少々アダルトな表現が飛び出すこともある。あるいは、超常の力を有するドーパントによる犯罪において、人間はあまりに無力であることも、繰り返し描かれる。雪山の事件での串刺し死体しかり、スクリームによってバラバラにされた死体しかり。これに関しては直接的なゴア描写はなく読みやすい表現に抑えられているが、大本が日曜朝の子ども向け番組である以上、大量の出血や殺人・欠損表現などは描けなかった。その表現規制から解き放たれた瞬間、ドーパント犯罪の恐ろしさがよりショッキングなものとして描写されているのは、漫画という媒体によって成し遂げられた"拡張”である。

 Vシネマ『仮面ライダーアクセル』では風都の夜の街に根付くスリの集団が描かれたことや、『FOREVER AtoZ』における暴徒と化した市民のように、風都とそこに住む人々は決してクリーンというわけではない。人間がいれば当然、私欲のために行動したり、許されざる犯罪に手を染める者もいる。そういった邪心に入り込む、ガイアメモリという魔性の小箱。寺田克也氏が本作のために生み出したドーパントたちは、これまでの映像作品では登場しなかった個性や能力を纏い、そしてそれに魅入られた犯人もまた、ねじ曲がった動機を抱き犯行を繰り返す。

 悲しきかな、ガイアメモリと仮面ライダーの闘いにまだ終わりが訪れることはないようだが、ユニークな特性を持つドーパントが毎エピソードごとに登場し、その能力を解き明かすことを主軸に物語が進行していく手触りは正しく『W』であるし、実写で表現するにはわりとハードルの高いドーパントが揃っているからこそ、「風都探偵のアニメ化」は大正解なのだ。無論、桐山漣&菅田将暉による再演が観たいという気持ちもよくわかる。だが、『風都探偵』はしっかりと『W』の真髄を受け継ぎつつ、新たな表現でその世界観を拡張している、今がその真っ最中。個人的な所感を言うのならば、最も敬愛する作品に、当時の作り手が新たな色を加えて、それは違和感も矛盾もなくただただ「納得」をぶつけられているという奇跡のような体感を、どうか味わっていただきたい。

②深掘りされるs/数年越しの過去と実在

 『風都探偵』は主にときめという新キャラクターと、彼女の消えてしまった記憶と根深い関係のある"”、そして"裏風都”との闘いが描かれる。そして、そんなときめと浅からぬ因縁が示唆されているのが、我らが愛すべきハーフボイルド、左翔太郎その人である。

 アニメでも開示された情報だが、ときめと適合するメモリとは、運命の切り札ことジョーカーメモリだった。メモリと人は惹かれ合うように、メモリの持ち主同士も数奇な運命で結ばれるシチュエーションの多い本作において、ときめは翔太郎の助手として活動し、フィリップに継ぐ新たな相棒としての位置を確立していくに至る。

 かつて左翔太郎には師匠がいた。その人こそ鳴海荘吉/仮面ライダースカルであり、翔太郎とフィリップの運命を決定づけた真のハードボイルドの体現者。本作のコミックス第6集はあのビギンズナイトを翔太郎がときめに語って聞かせるという展開が用意されており、映画『MOVIE大戦2010』を忠実に漫画に落とし込んでいる一方で、フィリップの目線で語られる当時の出来事や心情など、今作で明かされた情報も多い。かつての過ちを悔い、己の罪を数えた翔太郎が仮面ライダーとして街を救い、そして今はときめにとっての「師匠」となっている。このこと事態が、ファンにとっては落涙モノなのだ。ときめに探偵のイロハを説く翔太郎の姿には、彼のこれまでの激闘を経た上での成長を感じさせてくれて、正統続編として申し分ない喜びを感じてしまう(それでいて、未だにハーフボイルドな一面を隠せないのも翔ちゃんらしい)。

 ところで、このビギンズナイトを振り返るのに併せて、翔太郎が荘吉に弟子入りするまでの経緯が描き下ろされているのも、コミック第6集の目玉となっている。『MOVIE大戦CORE』で描かれた、幼き津村真里奈と共に、荘吉とスパイダー・ドーパントの闘いに遭遇するメリッサのステージでの一件で荘吉に心酔した翔太郎は、鳴海探偵事務所を訪れるのだが……というエピソードが付け足されているのだが、マツを自ら殺してしまった荘吉が再びスカルに変身しガイアメモリと闘う覚悟を決め、翔太郎を弟子として受け入れ、そしてあのビギンズナイトの夜を迎える……という完璧なる「補完」がなされていて、作品にさらなる奥行きを与えてくれる。本作を漫画だから、と食わず嫌いしている方にこそ、「6巻まで読んでくれ!!」と声を大にして言いたい。

 それだけに留まらず、実は本作、左翔太郎の掘り下げがわりと多い、という特徴を孕んでもいるのである。TVシリーズや劇場版では、フィリップ=来人の物語や照井竜の復讐劇が手厚く描かれたのに比べ、実のところ翔太郎の過去というものはあまりクローズアップされることがなかった。そのこと自体が作品として「不足」だったわけでもなく、高い完成度を誇るからこそ気にならなかったのだけれど、『風都探偵』はそこに少しずつメスを入れていく。

 刃野警部との出会いや自室の初解禁にも「おぉ!」と唸るものがあったが、コミックス第12集では彼の家庭事情とヤンチャな学生時代の一端が明かされ、そしてフィリップの前の相棒、とも言うべき人物が依頼人として登場する。その事件で明かされる財団Xの影と裏風都幹部の不気味な真実、そして迎える顛末も含めて実に「興味深い」物語であり、たとえ半熟だったとしても翔太郎の譲れない想いが犯人へとたどり着くまでのドラマや、それを見守るフィリップや照井、亜樹子やときめたちのアンサンブルも、見応え充分だ。左翔太郎のパーソナリティをじっくり煮詰めていく『風都探偵』によって、彼の魅力に再発見できるのも、ファンにとってたまらない読書体験になるだろう。

 そして、翔太郎のドラマに間違いなく食い込んでくるのが、ときめの過去とこれからにあるのは間違いないだろう。同じメモリに惹かれ、師匠と弟子という関係を築くに至った二人が、どのような結末を迎えるのか。風都には悪女が多い、とはファンの間でも有名な言い伝えだけれど、彼女に限ってはそんなことがないようにと、今から震えて待つしか無いのである。

③新たなるf/アニメが続いてほしい理由

 回を追うごとに激化してゆく、裏風都との闘い。奇想天外なメモリが続々と登場するからこそ、それらとの闘いは常に苦戦を強いられる。

 ただし、強くなっているのはドーパントだけではない。翔太郎とフィリップもまたミュージアムとの闘いを経て成長し、ダブルとしての能力も増している。そしてその結果、彼らは新たなメモリチェンジを実現させるまでに至るのだ。

 すでにSNSなどで目にした方もいるかもしれないが、ここでは画像などを貼ることはせず、ご自身の目で確かめていただきたい。キーワードは「ファングメモリ」である。

 メモリそのものが自律行動し、フィリップの窮地を何度も救ってきたファング。しかし、エクストリームを超える攻撃能力を持つ反動としてのその凶暴性から、翔太郎とジョーカーメモリとの組み合わせでしか制御できないとして、ファンの間で二次創作的に語られてきたファング×他のメモリの組み合わせ。それがなんと、公式の正統続編を謳う本作で登場するというのだから、発表当時は界隈が湧いたものだった。

 ゆえに、その姿を拝めるのは現状『風都探偵』のみであり、映像化はなされていない。だからこそ、現在放送中のアニメ版のシーズン2を望む声が多いのは(これまでの話数の完成度が高いこともさることながら)「あのフォームを映像化してほしい」という風都市民のアツい想いがあるからだ。映像映えするであろう活躍もそうだし、アニメ化をきっかけに立体商品化の道も開けるだろう。

 まだ見ぬ新しいWの姿。翔太郎とフィリップの絆の進化がもたらす最高のコラボレーションは、アニメ2期が制作されるとしたら一番の目玉になるはずだ。そして、その夢を後押しするのはファンの応援、身も蓋もないことを言えば『風都探偵』というコンテンツの人気や評判であり、それを支えるのが我々やこの文章にたどり着いた皆さんに出来ることである

 ひとえに、コミックスというのは「巻数が増えるほど、手を付けるハードルが上がる」ものだと思っている。私が『ワンピース』や『BLEACH』を薦められても一向に表紙をめくることがなかったのがその証拠で、何か強烈なフックが無い限り何十巻何百巻と続く物語に入水しようというモチベーションは、そうそう産まれない。

 するとどうだろうか。『風都探偵』は22年10月現在の最新刊は13巻。一気に購入すればわりとな金額にはなるかもしれないが、少なくともまだ「追いつきやすい」部類に入ると思う。それに、近頃は電子書籍ストアでのクーポンや割引も盛んだし、レンタルサイトも存在する。それらの手段を使って作品に触れるのも、個人的には「アリ」だと思っている。

 初報を知った時こそ驚愕したが、第1話が掲載されたスピリッツを購入し、我慢できず満員の中央線車両の中で本誌を開いた私の脳裏に、あの頃と同じ風と「W-B-X ~W-Boiled Extreme~」のTVsizeのイントロが流れてきて、人知れず涙したことがあった。Wの続編が、考えうる限り最高の布陣によって紡がれ、その世界観が再び躍動する息吹を感じられる。その喜び、感動、動揺。そして今回のアニメ化に伴う映像のクオリティや椛島洋介監督を筆頭とするスタッフのこだわりにキャストの名演、『W』にゆかりのあるアーティストによる主題歌や挿入歌が「愛」という形をまとってこちらの心に届き、もはや「ここまでしていただいていいんですか!?」という気持ちでいっぱいである。

 どうか、その想いを皆さんと共有したい。断言するが、漫画といえど『風都探偵』は正真正銘の『W』の血を受け継ぐ作品であり、あなたの食わず嫌いは必ずメモリブレイクされる。10年も前の作品が、リブートでもリメイクでもなく、続編として完璧な道を走っているという現行の奇跡を、どうか味わってほしい。かつて『エンドゲーム』を見届けた時のように、確かな充実感と感動が、あなたの胸を打つだろうから。

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