少女の情念が世界を壊す『Fate/EXTRA CCC』
無数に広がる『Fate』ワールドで、筆者が最初に触れたのは『Fate/EXTRA』というゲーム。敵サーヴァントの正体を探りながら相棒となる英雄との絆を深め、硬派な運ゲーを何とか勝ち進んでいく。骨太な難易度と世界観にすっかり魅了され、そこから『Fate』沼に足を踏み入れたのは、つい先月の出来事。
そんな『EXTRA』の続編『CCC』は、前作の物語の合間に起きた事件を描く外伝。とある少女が抱く矛盾が起こした事件を「エロス」たっぷりに描いた本作は、とてもじゃないが公共の場でプレイすることは不可能、社会的な死に直結するほどに危うい内容でありながら、その背徳感込みの面白さがクセになる一作で、またしても止め時を見失ってしまった。
あらすじ
月面にて発見された地球観測器「ムーンセル・オートマトン」が創り出した霊子虚構世界「SE.RA.PH」の世界。そこでは、獲得者のあらゆる願いを叶えるとされる聖杯を巡る「聖杯戦争」が行われており、128組のマスターとサーヴァントが争い合っていた。
そんな中、主人公(性別選択・名前変更可)は保健室を任されているNPC「間桐桜」が倒れているところに出くわし、彼女を助ける。その後、謎の黒い影によって聖杯戦争の舞台である月海原学園は襲撃され、主人公も相棒となるサーヴァントの声を聞き窮地を脱する。
目覚めた主人公や他のマスターとサーヴァント、NPCたちは、聖杯戦争では使用されていない「月の裏側」の領域に迷い込んでいた。生存者たちは表側の領域への帰還のため一時休戦し、「生徒会」を発足して月の裏側からの脱出を図る。しかし彼らの前に、間桐桜によく似た少女・BBが姿を現し、生存者たちを月の裏側の領域に閉じ込めることを宣言する。
本作『CCC』は前作のシステムを継承・改善し、より遊びやすくなっている。本作では「サクラ迷宮」と呼称されるダンジョンを冒険し、マイルームでサーヴァントと交流する流れや、基本となるバトルシステムは変わらない。そのため、ゲーム内容については以下の記事をご参照いただき、変更点も併せて記載する。
前作からの変更・改善点
・難易度選択が三段階になり、オプションでいつでも変更可に
・ダンジョン内に回復ポイントが設置された
・ダンジョン内でのセーブ&敗退後のリトライ可に
・バトル中のオートコマンド、逃走が実装
・スキルポイントの割り振りの廃止
・主人公とサーヴァントの衣装を変更できる
・選択したサーヴァント毎のエンディングが実装
・四人目のサーヴァント「ギルガメッシュ」参戦
最高です。
女の子の秘密を暴く"シークレット・ガーデン"
本作にて探究する舞台は「サクラ迷宮」と呼ばれており、それらは「少女」を核とした、幾層にも分かれたダンジョンである。その迷宮内は通常では解除できないシールドが施されており、主人公らの行く手を阻むのだが、そのカギとなるのは「シークレット・ガーデン」である。
シークレット・ガーデン(SG)とは、その人物が隠していたい、けれど知ってほしい、という秘密のこと。自意識過剰や虚言癖のように、他者には知られたくはない隠し事でありながら、真に自分を理解してもらうためには開示しなければならない個性を意味している。SGを暴く事は侵略行為であり、親愛行為でもある。
プレイヤーは、迷宮の核となった少女の秘密を暴くことでダンジョンを進み、その心理の奥深くまで進んでいく。本作は、ダンジョンボスとなった少女一人につき3つの隠されたSGを暴き、最深部に待ち受けるボスを倒すことで、物語が進行していくのだ。
なお、SGを明かすとその少女の肌色多めなイラストが表示されたり、ボス戦のラストは言葉責めによって改心させ、さらにエロティックなイラストが…という点で、遊ぶ人を選ぶ作品でもある。その内容については各自検索でもしていただきたいのだが、外出先での閲覧にはご注意ください。
感想
やや理不尽な難易度も緩和され、サーヴァントとの触れ合い要素も強化されるなど、前作の難点を改善し良点を伸ばした、理想的な続編。相変わらず既読スキップは実装されなかったが、選択したサーヴァントや主人公の性別との組み合わせにより台詞も細かく変化し、ボイスも大幅に増えたため、周回時の面倒さもやや改善されている。
難易度の緩和によって遊びやすくなった反面、前作以上に人を選ぶことになったのがシナリオ面。ストーリーのほとんどが「女の子の隠しておきたい秘密を暴く」ことを要求されるため、趣向そのものがやや悪趣味とも言える。他者と分かり合うためのポジティブな行為として描写はされているものの、その都度表示されるちっぴりえっちなイラスト含め、なんかこう、悪いことしてるような気がするんですよ…。
購入当初はまだ余裕なコメントだった筆者。
そんな背徳感マシマシの本作では、前作では支給品を渡すだけのモブだった桜が、メインヒロインにまさかの昇格。聖杯戦争参加者をサポートするという役割を与えられたただのNPCが、主人公との触れ合いで生まれたとあるエラーに向き合うまでの物語。そこから産まれたモノが「キャンサー」と「エゴ」だというのだから、凄まじい。
与えられた役割をこなすだけのAIには本来生まれることのなかった感情。それを処理することが出来なかったAIは、その感情を無かったことにした。たったそれだけのことで世界は歪み、人類は滅んだ。あの人に愛されたい、独り占めしたい。秘めた心の中の欲望が、月の世界で花開く。
そうした、等身大のズルさ醜さを獲得していくAIの人間臭さが魅力的であり、全ての生きる者が抱く「欲」こそが、本作の主題に思える。愛に性に金に奉仕。己が欲を満たしたいと思う気持ちと理性を天秤にかけて日常生活を生きる我々も、タガが外れればどうなってしまうかわからない。心の奥底に芽生えた、仄暗い欲求によって迷宮に閉じ込められた主人公たちだったが、それを打ち破ったのもまた、外に出たい、誰かと一緒に生きたいという欲望だった。
その願いの切なさについては、前作プレイ済みの方なら肌で感じられたに違いない。聖杯戦争のために用意された駒であるNPCには、ヒトの姿をしていれど、人間と同じようには生きられない。それでも、大事に想う他者のために生き抜いたNPCたちへの希望を灯すエンディングが用意されており、二作通しての戦いもようやく報われたような心地を得た。前作、そしてアニメ版でも共通して描かれた通り、「生きたい」という気持ちにひたむきな登場人物たちの生き様にこそ、『EXTRA』シリーズのメッセージが込められているのかもしれない。
生と性が織りなす、エゴイスティックで淫靡な物語は幕を閉じ、ついに『EXTRA』完結と思いきや、ジャンルを3Dアクションに移しての続編がリリース済みとのこと。大好きなサーヴァントを、今度は自分の手で操作できるとなれば、心踊らずにはいられない。シリーズとの長い付き合いは、まだまだ続くようだ。
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