ナメてた中国産アニメ『羅小黒戦記』が刺さりまくったのでプレゼンさせてほしい。
「ジャパニメーション」という言葉があるくらいだから、ディズニーとかドリームワークスとか、そういった大手を除けば、少なくとも手書きのアニメなら日本に匹敵するものはないだろうと思い込んでいた。だから、『羅小黒戦記』を観るまでの私は世間知らずで、井の中の蛙だった。本当に良いものを観させてもらい、笑った、泣いた。当初は全国3館のみの上映でありながら評判が評判を呼び、やがて日本語吹き替え版が製作・公開されるに至った中国の2Dアニメ映画『羅小黒戦記〜ぼくが選ぶ未来〜』は、今年鑑賞した様々な作品を押しのけて私の心に深く刺さった、鋭利な金属の刃だった。今回は、本作の中でも3つの推しポイントを重点的に取り上げ、これから『羅小黒戦記』と出会う人たちにその素晴らしさの片りんでも知ってもらうための記事になる。先に結論から述べるなら、『羅小黒戦記』はオタク特攻がエグいので今すぐ観に行くべき、である。
①ネコチャンカワイイ
これは古事記にも書かれていることだが、生きとし生ける人類はみなネコチャンが大好きである。おキャット様はただただそこにいるだけで尊い存在だが、可愛いネコチャンが走ったりご飯を食べる様子を鑑賞するのはガンにも効くし、この世から戦争を無くすたった一つの冴えたやり方としてノーベル平和賞を受賞している。
その点で言えば、本作『羅小黒戦記』は開幕1分からすでにヤバい。やたら長い協賛クレジットを抜けたその先、緑豊かな木々に囲まれ、お昼寝をする黒いネコチャンが一匹。彼こそ、本作の主人公である小黒(シャオヘイ)なのだが、これがまぁとんでもないカワイイをスクリーンから振りまいてくる。黒くて小柄な身体に、大きなお目目のシャオヘイちゃん。お日様を浴びてまどろむ姿も、敵を見つけて「フシャーッ」と威嚇をする姿も、とにかく愛くるしい。小動物をコミカルに、可愛らしく表現する技法に長けた本作は、動物たちが余すことなくキュートで目が離せない。
そんなシャオヘイちゃん、実は6歳の少年の姿になったり、あるいは大きな化け猫にも変化できてしまう、現世を生きる黒猫の妖精。そしてシャオヘイは人間の森林開発によって住処を失い、人間嫌いになりながらも人間社会で生き延びることを余儀なくされてしまう。安住の地を求め各地を彷徨い、食べ物を盗んだり他の動物と争ったり、果ては人間に追われるという不憫な境遇を経て、ついに救いの主となる妖精・風息(フーシー)と出会う。
フーシーやその仲間たちと触れ合い、衣食住を与えられ、ようやく笑顔が戻ってきたシャオヘイ。彼はまだ子供で、大人の庇護がなければ生きていけない、本当に子猫のようにか弱い存在。シャオヘイは初めて同族である妖精と出会い、人間とは関わらずに生きる理想郷を手に入れる。その幸せも束の間、一行は突然現れた「執行人」と呼ばれる人間・無限(ムゲン)に強襲され、仲間と離れ離れになる形でシャオヘイはムゲンと行動を共にすることとなってしまう。
ところが奇妙なことに、平和を乱す敵かと思われたムゲンとシャオヘイがいつしか「師弟」の関係になっていくところが、本作の大きな魅力の一つとなっている。ムゲンはシャオヘイの妖精としての力を見抜き、その才能を伸ばすような言動をとる。シャオヘイはムゲンから脱走する力を得るためにその修行(?)を受け、日に日に妖精としての能力を強化していく。それだけでなく、ムゲンは人間社会での常識(スマホや電車)をシャオヘイに教え、シャオヘイが冒頭に抱いた人間への憎しみや憎悪を中和する役目も担っていた。妖精として、人間として、異なる二つの境界での生きる術をシャオヘイに伝授していくムゲンの姿は、やはり師匠と呼ぶに相応しい。一人と一匹の凸凹珍道中は、時折挟まるギャグも相まって楽しげで、観ているこちらも頬が緩んでしまう。
ついネコチャン状態のことばかり語ってしまったが、少年モードのシャオヘイも問答無用に可愛いのだ。ぷにっとしたお顔に大きなネコ耳、笑顔にドヤ顔に泣き顔と様々な表情を見せ、美味しいものを見つけると目をキラキラと光らせる。アニメ表現における「カワイイ」を凝縮したようなシャオヘイは、きっと誰もが好きになってしまう。
子猫と少年と化け猫。三つの姿を使い分けながら、時に善悪に悩み、自分の進みたい未来を模索するシャオヘイ。観客は彼の辿る運命を見守り、庇護してあげたくなるほどの愛くるしさを常に感じることになるだろう。まだ原語版は未見だが、吹替版にてシャオヘイの声を担当した花澤香菜さんの声質も相まって、抱きしめたくなること間違いなしだ。
シャオヘイ沼にハマった人の一例
②オタクはみんな好き!全員集合展開!
『羅小黒戦記』のテーマは、自然保護とか環境保全とか、あるいはファンタジーとアドベンチャーの融合だとか、様々な切り口から語ることができる。それはそれとして、『羅小黒戦記』はアクションシーンもスゴイことになっている。まずはこの動画を観てほしい。
縦横無尽に飛び回るキャラクターと、それを追うカメラワーク。それぞれの位置関係を見落としそうになるも、作画の凄まじさと迫力は誰もが認めるところだろう。本作、こちらがシャオヘイの可愛らしさとか師弟関係の尊さにうっとりしていると、「目を覚ませ」と言わんばかりに超絶作画のアクションシーンで殴ってくるので、本当に油断ならない。唐突にTRIGGER作品を観ているようなテンションに揺り戻されてしまう。
この動画で分かる通り、本作に登場する妖精たちはそれぞれ固有の能力を持っており、木や火、氷を操るものから、「領界」「金」「強奪」といった特殊属性の概念まで飛び出すため、本作は異能バトルアクションというジャンルをも兼ね備えている。しかもそれらを扱う彼らが「人間の形をしながらも人間とは本質的に異なる」存在であることから、本作にはマイノリティと迫害の要素が見え隠れする。さらにその対立項が「人間との共存派VS妖精だけで生きる派」とくれば、思い起こされるのは『X-MEN』の、とくに初期の映画シリーズだ。しかもムゲンの能力は金属を操るというもので、どうしてもマグニートーを連想してしまう。そんな彼が一体どちらの派閥なのか、という点にも着目していただき、アメコミ映画ファンにも本作がお薦めである理由をまだまだ書いていきたい。
「ネイチャー系アニメだと思ったら実はX-MENだった」な中盤までを経て、さらに驚きべきは本作、終盤にかけてさらなるジャンル移行にツイストをかけてくる。とある能力を悪用され、人間界が飲み込まれようとしたその時、全国各地から集められた異能系妖精が集合!人間と妖精入り乱れての最終決戦だ!!と言わんばかりの大スペクタクルが展開され、ここへ来てまさかの「アベンジャーズ」へと大胆なジャンル移行を華麗に決めてしまうのである。
しかも驚くべきことに、ここに集合したキャラクターのほとんどを観客の私たちは知らないのである。事前に紹介があったわけでもない、名前が呼ばれるのもごくわずかなのに、短い出番ながらも固有能力によって個性付けられたキャラクターが矢継ぎ早に登場し、しかも全員こぞって「満を持して感」だけはとてつもないので、目の前で起きてることがクロスオーバー的な何かなのだろうと脳内補完し、勝手に盛り上がることができる。MCUを履修した我々はついに「観たことのないユニバースを幻視する」能力に目覚めていることを本作で自覚し、エンドゲームめいた全員集合に涙を流すのである。そしてその先のラストバトルがどうなっているかは、ぜひ皆さんの目で確認してほしい。オタクが好きな展開しかありません。
オタク、シリアスな二次創作を勝手に作りがち
③櫻井孝宏
日本に生まれたオタクなら、櫻井孝宏の声を聴けば色んなものが屹立してしまうことは誰しも共通の現象だと思うが、本作を観て思うのは「フーシー役に櫻井孝宏をキャスティングした人、冬のボーナスめちゃくちゃ増額されていてほしい」である。
このツイートに全てを込めてしまった感もあるのだが、フーシーという人に魅入られてしまうのも、CV:櫻井孝宏によるところが大きいと思うのは私だけではあるまい。シャオヘイに手を差し伸べる救世主でありながら、しかしその一方で……という顛末。シャオヘイが人間のことを学び、その価値観が変わっていく中でフーシーという人そのものの評価が善悪の境で揺れ動く。そんな重厚さを持つ本作のドラマを牽引する存在としての彼に生を与えたのが、我らが櫻井孝宏御大なのだ。
今さらこれを読むまでもなく鑑賞済みな気もするが、「理想的な櫻井孝宏の起用例」としての『羅小黒戦記』、劇場の音響で聴くことのできる幸せを享受するためにも、櫻井孝宏のファンは死に装束を着て参列すべきなのだ。あの世にも優しい声音の「おいで」を聴いて、安らかに逝ってこそオタクの本懐である。
なんでもいいから全人類観てくれ
以上3つに絞って本作の魅力を抽出してみたが、それで語りつくせるような浅い作品では決してない。風景作画の美しさ、動物の愛くるしさ、キャラクターたちの個性とギャグのセンス、自然や迫害への問題意識等々、どこをとっても質が良く品がある。ジブリを筆頭に日本アニメへのリスペクトを感じるし、日本語吹き替えもあってかすんなり作品に没入できるのは本当にありがたい。どこを切り取っても隙がないゆえに、老若男女万人に薦められる良作として道徳の授業で使われてほしいとさえ思える。
嬉しいことに、この映画シリーズは全三部作が予定されているとのことで、シャオヘイたちにまた会えると思うと、それだけで涙が零れそうになってしまう。それほどまでに大切な一本になったことを添えて、今回のプレゼンを閉じよう。繰り返すが、猫とアメコミと櫻井孝宏が好きなオタクは、今すぐ映画館に行ってくれ。以上です。
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