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再会、そして再開廷『ダンガンロンパ』の面白さに10年ぶりに撃ち抜かれる。

 あるフォロワーが言った。「スーパーダンガンロンパ2をまだ遊んだことがないのは幸福だ」と。私はその時思った。「なんで2、買わなかったんだっけ?」と。

 PSP専用ソフトとして世に出された『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生』なるゲームは、初版から少し時を置いて廉価版が発売されていた。この廉価版というのが少し変わっていて、通常版に改良を加え遊びやすさを向上させた、再販版ながらバージョンアップ版という、少し不思議な立ち位置のソフトだった。そんな廉価版「PSP the Best」が発売され、私が希望ヶ峰学園に足を踏み入れたのが2011年。いつの間にか10年も経ち、学生から社会人へとジョブチェンジした私は、こうして再入学することになった。すべては、まだ見ぬ『2』を遊ぶために。

 「超高校級の才能」を持つ高校生だけが入学を許された「希望ヶ峰学園」を舞台に、集められた生徒たちが閉鎖された学園での共同生活を余儀なくされ、外の世界に出るためには同級生を殺さねばならない、という究極の選択を迫られる。殺人が発生すると一定の捜査時間を経て「学級裁判」が開かれ、その場で殺人を犯したクロを摘発しなければならない。クロを正しく導くことができればクロだけがおしおき(処刑)、誤った判断をすればクロだけが学園を卒業し残された全員が処刑される。かくして、命がけの学園生活が始まるのであった――。

 10年ぶりのプレイということで、最終的な黒幕(超高校級の絶望)の正体、最終的に誰が生き残るか=誰が犠牲になるか、をすでに知った状態で触れることになり、まずは『2』のための前章として遊ぶ、というモチベーションだった。……はずなのに、いつしか睡眠時間を削って読みふけってしまったのは、一作目ですでに完成された「ダンロンらしさ」に魅入られてしまったからだろうか。

 逃げ道のない閉鎖空間、集められた「超高校級」の個性を持つ学生たち、「コロシアイ」と「学級裁判」によるデスゲームの面白さ、糾弾されたクロに待ち受ける「おしおき」のポップながらも俗悪な処刑シーン。そして何より「大山のぶ代が下品で下劣なワードを連発する」という一部の世代には抗いようのないセールスポイントを担うモノクマの存在。一作目にしてすでに安定したフォーマットを“発明”してしまった『ダンガンロンパ』は、それはもう無茶苦茶に面白いのだ。

 殺人が起きて、捜査をして、裁判で数多の証拠を突き付け相手の矛盾を打ち抜き、真犯人を暴き立てる。その快感が身体を埋め尽くしたところで、クロが凄惨に殺される。ここで生き残った生徒とプレイヤーは「クロを殺したのは自分たちだ」という現実に直面し、冷や水を浴びせられる。自分が生き残るためにはクロを裁かなければならない。その代わり、自分の決断が誰かの命を奪う重み、その罪悪感に苛まれるも、程よく謎を提示し求心力を保ち続けるシナリオと、奇想天外な殺人トリックを解明する興味と楽しさに心奪われ、私は同級生たちを次々と死刑台に送り込んでいった。俗悪であることに開き直った『ダンガンロンパ』の面白さに、いつしか私は気持ちよくライドしてしまったのだ。

以下、ネタバレを含みます。

エヴァンゲリオンを卒業できていないのでCV:緒方恵美が染みる。

 今回の“2週目”プレイでの気づきとして、「謎解きの難易度が段階的に上昇していく」ということが挙げられる。ゲームなんだから当たり前だろ、とは思うのだが、これがとても理に叶っているという話をしたいのだ。

 学級裁判というデスゲームにおいては加害者と被害者、殺人が起こる度に最低でも2名の脱落者を出してしまう。学園生活開始当初は16名だったが、回を増すごとに必然的に残り人数は減っていく。すなわち、容疑者の絞り込みが容易になってしまう、という問題を孕んでいる。

 だからこそ、殺人トリックは後になればなるほど複雑で難しいものでなければならない。基本的にクロは同級生を殺してでも希望ヶ峰学園を抜け出したいほどの「動機」を抱えており、そのためには自身が加害者であることを暴かれてはならない。なればこそ、自分の頭脳をフル回転させ、絶対に解かれることのない謎を用意する必要がある。生き残るために必死に考え抜かれ、そして実行された殺人トリックは、超高校級の才能を持つ彼らによる生存のための「闘い」と呼べるのだ。

舞園たそ~~~~~~~~

 正当防衛から始まった桑田怜恩による舞園さやか殺害は、苗木にしか知りえない情報から自らの疑いを解き逆転する快感をプレイヤーに与え、続く不二咲事件ではキャラクターの性別を誤認していたことから遡って殺害現場の矛盾を解き明かしていく展開に。第3章では同時に二人の死体が現れ、時間の経過と死体運搬のロジックを頭の中で組み替えることで、連続殺人だと思ったものが別個の事件であるという真実に辿り着く。第4章ではミステリーでは王道の「密室殺人」の謎解きに挑戦し、やがてその裏に隠された大神さくらの「自殺」の真意を知り、黒幕への怒りを募らせる。

 そして、最後の殺人にして終章の焦点となる学級裁判では「身元のわからない死体」と相対することになり、アリバイを提示できていない自分(苗木)と霧切が怪しまれる。だがプレイヤー=苗木と霧切は学園の謎を秘密裏に調べる同志となっており、心情的にも彼女を糾弾するのは気が引ける……という状況を用意することで、前述した「ゲームが進むごとに容疑者の割り出しが簡単になる」へのトリッキーな回答を示したことに、思わず膝を打つ。殺された人物も、殺した犯人もわからない裁判は黒幕の介入によって不条理な結末を迎えるも、“仲間”の助けによって生き延びた苗木は霧切らと共に最終決戦に舞い戻り、謎の死体の正体と閉鎖的な学園生活の秘密を暴く、興奮度最高潮のクライマックスになだれ込んでいく。

 破天荒なキャラクターに奇想天外な殺害現場がプレイヤーの脳を一度は混乱させるも、その矛盾やトリックの答えを極めて論理的に突き詰め、プレイヤーが気持ちよくパズルを解けるよう丁寧に舗装された本作は、見た目のポップさとは裏腹に「堅実」で「真面目」な作りをしているな、と10年越しに感じられる。理不尽なまでに難しい謎でプレイヤーを煙に巻くようなことはせず、会話の端々や置かれた状況から「引っかかり」を用意し、それを糸口にどんどん謎を紐解かされている、という感覚。クリエイターの手の平の上で転がされているだけなのに、謎解きの快感はしっかり得られる。本作で用意された導線の巧みさと完成度があってこそ、後の人気シリーズ化に繋がったのは間違いないはずだ。

 勿論、キャラクターの魅力と、それを死ぬ前(殺される前)にしっかり提示しておくことでプレイヤーの感情移入を誘うシナリオの妙についても触れるべきなのだけれど、その辺りはインターネットでいくつも力の入ったテキストが見つかるので、そちらをお読みいただきたい。私はとにかく、一作目ですでに完成してしまった『ダンガンロンパ』のフォーマットの巧みさに、一緒に暮らした仲間を殺してでも先を読みたいと思わせる謎の提示とトリックを暴く快感に、10年越しに撃ち抜かれてしまったのだ。残酷で俗悪で、一縷の希望を徹底的に打ち砕く展開がいくつも待っているのに、止め時を見失わせる筆致は、もう「鮮やか」と言いたくなってしまう。面白すぎるぞ、ダンガンロンパ。

 そして、ようやく『2』を遊ぶ権利をアンロックしたわけなのだけれど、『2』『V3』と“まだ見ぬ”ダンガンロンパが二作も残されているなんて、確かに恵まれてるな、とようやく実感できる。知らないキャラクター、知らない舞台、知らないトリック……。身体はすでに極限状況でのコロシアイ学園生活を欲している。これではまるで、外の世界から希望が絶望に呑まれる瞬間をテレビで見守る“彼ら”のようではないかと、背筋に感じた寒気から逃れるように、南国の島へ歩を進めるのであった――。


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