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『カリギュラ オーバードーズ』はたぶん傑作とかそういうんじゃなくて

これまでのあらすじ
友「CV:上田麗奈の神様が創造した世界を旅するRPGあるんだけど」
ぼく「やりゅ!!!!!!!!!」

 というわけで、『カリギュラ オーバードーズ』を購入し、20時間ほどでクリアした。しかしまぁ、なんという悪魔的なプレゼンだろうか。CV:上田麗奈の神様が創造した世界、つまりは『SSSS.GRIDMAN』であり、新条アカネではないか。こんなもん、抗えるわけがなかった。秒でダンロード版を購入し、魅惑の歌姫μ(ミュウ)様の歌声に心酔し、さながら私はゲームに登場する彼女の信者デジヘッドそのものになってしまった。

 シナリオはなんと、初期『ペルソナ』シリーズの里見直が担当。学園ジュブナイルの名手が描く新たな物語の舞台は、自我が芽生えたボーカルソフトウェア(ボーカロイドのようなもの)のμ(ミュウ)が創り出した仮想空間。「メビウス」と名付けられたその世界は、辛い現実を忘れようと多くの人々が訪れ、彼らは理想の容姿を得て永遠に終わることのない学園生活を送っていた。そんな中、主人公は自分が高校生活を何度も繰り返していることを悟り、同じ異変に気付き現実世界への帰還を目指す者たちで構成された「帰宅部」に所属することになる。だが、メビウスが現実ではないと知る者が増えれば仮想空間の破壊を招くとして、「オスティナートの楽士」と呼ばれるμの協力者(兼コンポーザー)に追われることになる。

 ボーカロイドとボカロPによって作られた理想郷をぶち壊す、ペルソナライクの学園モノ×現代病理なRPG。そんな『カリギュラ オーバードーズ』のことを書くとしたら、私にとって合わなかった要素から始めなくてはならない。私のプレイングが下手なのか、あるいは堪え性が足りなかったのか、本作は面倒で洗練されていなくて気持ちよく遊ばせてくれないと感じることが多かった。それでも結末を観たいと睡眠時間を削ってプレイし続けたのは、本作の世界観、キャラクター、楽曲が魅力的で、その尖ったパラメーターに、惚れ込んでしまったからだと思う。そんな歪にも程がある本作のファンを一人でも増やせたらと、作品を彩る楽曲を聴きながらしみじみ文章を起こしている。

時間のかかりすぎるバトルシステム

 本作ならではの戦闘システムとして、「イマジナリーチェイン」というものがある。これは、いわばコマンドを選択した際の未来予想図が観られるというもので、プレイヤーは敵の行動を先読みして効果的な攻撃を選んだり、防御や位置取りに役立てることが重要になる。

 本作の戦闘のキモはコンボを作ることにある。例えば、敵が遠距離攻撃を撃つとイマジナリーチェインで知れば、その属性へのカウンターを持つスキルを選んで敵の攻撃を潰したり、攻撃範囲外でキャラクターを逃がし反撃に転じることができる。カウンターを成功させれば敵を空中に浮かせたりダウンを取ることができ、そうした無防備な敵に対して追加攻撃を派生させる特殊な攻撃スキルを味方が持っていれば、相手を長い時間行動不能にしたまま連撃を加えることも可能になる。上手くハマれば、上掲の動画のようにボス敵をわずか1ターンで瀕死に持ち込めるほどのダメージを与えることができるため、ダメージを伸ばすためにも頭を悩ませることになる。

 しかしその本作ならではのシステムゆえに、一つの戦闘における拘束時間はわりと長い、という欠点がある。

コマンド選択⇒イマジナリーチェイン⇒行動のキャンセルか追加行動を判断⇒最大3回の行動を決定⇒これを味方の数だけ繰り返す(最大4人)⇒実際にキャラクターが動き出し「結果」が残る。

 文字にすると、一度の戦闘でこれだけの工程を組まねばならない。主人公の攻撃で敵を浮かせて、味方で追撃を発動させ、敵が落下したところに別の味方がダウン専用技を撃つ……というように、各キャラのスキルを把握し、行動順を上手く制御できなければ、理想のコンボを放つのは容易ではなく、敵の攻撃に割り込まれることもあるためコンボが途切れて苦い思いをさせられるのは一度や二度では済まない。おまけに、キャラクターが行動するには「SP」が必要になるため、大事な場面でSPが足りずに攻撃できない!という状態を防ぐためにもリソース管理に気を付けなければならない。

 そうこうして何とかコンボを組み上げたとしても、イマジナリーチェインはあくまで「予想」であるため、常に思い通りにいくわけでもない。コマンド選択だけで3分近くかけ、自信を持ってキャラクターを送り出しても、コンボの初動技を敵に回避されこれまでの苦労が無に帰した時は、思わずswitchのコントローラーを投げ出しそうになった。緻密であればあるほど、コンボを潰された時の徒労感が半端ではなく、それだけでゲームへの親愛度が大暴落してしまう。一応、主人公以外のキャラクターの行動を自動で決めてくれるオートプレイが存在するが、果たしてそれで凌いだとして私はこのゲームのバトルを胸張って楽しいと言えるだろうかと、別の悩みに襲われてしまった。

 戦闘の難易度はオプションで変更できるため、ストーリーだけを楽しみたければEASYで済ませてしまうのも選択肢の一つだ。もし仮にあなたが本作を買って、戦闘が面倒だと思いゲームを投げ出しそうになったら、戦闘を楽にするオプションは何でも使えとだけは言っておきたい。

手間のかかりすぎるサブクエスト

 仮想空間「メビウス」に存在する人たちはみな現実から逃げ出した人々であり、それに至るまでの要因「トラウマ」を胸に抱えている。本作では、メインキャラクターから敵組織である楽士の面々のみならず、世界に存在する500名を超えるモブキャラ全てにトラウマが設定され、それを解消させることでキャラクターを強化する「パッシブエフェクト」を報酬として受け取ることができる。『ペルソナ3』以降のコミュシステムを、なんと世界の全員と結ぶことができるという、驚愕のシステムだ。

 ただし、その遂行に至るまでの快適さは、ペルソナシリーズと本作では雲泥の差と言ってもいい。というより、本作を遊ぶことでいかにペルソナシリーズのUIや遊びやすさが洗練されているかを、肌で感じることができた。

 例として、本作におけるモブキャラ一人のトラウマを解消するまでの工程をいくつか下記してみる。

モブキャラAと三回会話して友好度を「友達」にする⇒プロフィールを開き、そのキャラのトラウマと解消条件を知る⇒「特定のアイテムを装備する」が条件だったので、そのキャラに話しかけ協力を持ちかける⇒そのキャラクターをパーティに入れる⇒装備変更画面で条件に合ったアイテムを装備させる⇒演出が流れてトラウマ解消!!
モブキャラAと三回会話して友好度を「友達」にする⇒プロフィールを開き、そのキャラのトラウマと解消条件を知る⇒「特定のトラウマ持ちのキャラクターと引き合わせる」が条件だったので、そのキャラに話しかけ協力を持ちかける⇒そのキャラクターをパーティに入れる⇒引き合わせたいキャラクターがいる場所へ向かう⇒演出が流れてトラウマ解消!!

 というように、一人の悩みを解消するだけで何度も会話とメニュー画面を開くことを要求され、時には元から組んでいたパーティを解散させたり、味方の装備を外すことまでしなければならないのだ。また、トラウマ解消に必要なアイテム(本作における装備は「スティグマ」と呼ばれる、精神面を調整する代物である)を所有しているかがすぐにわからなかったり、あるいは必要なアイテムをどこで拾うことができるのか(どの敵がドロップするのか)という情報が瞬時に得られないため、片っ端から悩みを聞いて回り遂行可能なトラウマだけを解消させようとしても一向に埋まらず、挙句の果てにアイテム収集に時間がかかって解消させようとしたトラウマの持ち主を失念する、といった状況に何度も追い込まれてしまった。

 ゆえに、クリアまでに解消させたモブキャラのトラウマは、恐らく20にも満たないはずだ。誰かのトラウマを解消させるためにプレイヤーに圧し掛かるストレスは計り知れず、そのうち正義の心は萎れていくだろう。幸い、これらをスキップしてもゲームクリアにさほど影響がないのは救いでもあるのだが。

遠回りばかりさせられるダンジョン

 本当に酷い。本作は学校やショッピングモールなど、楽士それぞれのモチーフとなる場所を探検し、奥に潜む楽士との闘いに挑むことになる。その際訪れるダンジョンは、造った人の意地の悪ささえ感じさせるほどに、無駄に広く、回り道ばかりさせられる構造になっている。

 迷路、というコンセプトのマップなら納得のいくところだが、学校やショッピングモール、高層ビルの内部に水族館までもが、不自然に道が塞がっていたり、回り道を強制されるデザインになっていて、発注主も激怒するであろう欠陥構造のオンパレードである。おまけに、楽士ルートを進んでいると同じマップを2度踏破する必要があるため、疲労感も2倍というわけだ。

虚構でしか生きられない者たち

 そうした難点を抱えつつも、本作をプレイするモチベーションを保てたとしたら、本作の物語とキャラクターの魅力がそれほどに大きかった、ということなのだ。

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 繰り返すが、メビウスに生きる住人は全て「辛い現実から逃げ出したい」という願いを持った人たちだ。彼らは各々が理想とする姿で活動しているため、見目麗しい美少女の中身が太ったおっさん、ということも有りうるわけで、主人公が属する帰宅部といえど目的を共有しただけの寄せ集めであり、真の姿をみな隠しながら活動している。その薄皮を剝がすように、心理的な揺さぶりをかけてくる楽士サイドもまた、現実から目を背け現実に戻ることを頑なに拒否している。『カリギュラ オーバードーズ』の世界は、現実に絶望し生きることが困難になってしまった者しか登場しないという、理想郷と呼ぶにはあまりに息苦しいディストピアだ。ボーカロイドが創り出したかりそめの楽園、そこで響く音楽はどれも悲しい叫びで溢れている。

 プレイヤーは帰宅部と楽士の両方に同時に属し、彼らとの親密度を上げることで「キャラクターエピソード」を開放することができる。メインストーリーやWIRE(LINEを模した作中メッセージアプリ)での会話の端々から仲間たちの抱える悩みや葛藤のヒントを得ることがあるが、その深淵を掘り探っていくのがこのキャラクターエピソード。彼ら/彼女たちがいかにして現実に絶望し、虚構の幸せに身を委ねたのか。その経緯が語られるエピソードは、どれも過激で、痛々しい。直接的な描写が無い分、台詞の裏に秘められた厭なものを察してしまうこともあり、読むのが辛いものもあった。しかしそれでも、下世話なことに仲間のトラウマが知りたくて知りたくて、ついつい軽率に他者の心に踏み込んでしまう。本作の題名が『カリギュラ』なのは、こうした罪悪感と興味のせめぎ合いを意味するところだろう。巧い。

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 そして、プレイヤーには二つの道が用意されている。帰宅部の部長として、部員たちと共に現実に帰還するためにμと闘うのか、あるいは楽士の一人としてメビウスの理想郷に生き続けるか。憎いことに、その最終決定はラストバトルの直前までお預けにされている。どうしても現実に帰りたい帰宅部、現実では生きられない楽士、その両方の立場を理解させておいて、プレイヤーの意思決定に全ての人の人生を背負わせる。この決断のために全てが舗装されていたかのような、とっても悪趣味でイジワルで最高な仕掛けに思えた。とくに、楽士となって帰宅部の面々を裏切った時の、あのなんとも言えない背徳感のカタルシスたるや!ぜひ、ご自身で味わっていただきたい。

楽曲で読み解くキャラクター心理

 本作で大きくフィーチャーされているのが、「楽曲」の存在。著名なボカロPをコンポーザーとして招いた本作では、楽士一人一人に専用曲が設けられ、その全てを歌姫μが、つまりは上田麗奈さんが全曲歌い上げる、ということになる。本作のサウンドトラック、実質上田麗奈フルアルバムってくらい豪華なので、ゲームやんなくてもサントラだけでも買ってください。っていうかAmazonプライムユーザーは今すぐ聴けますので、聴こう

 本作ではダンジョン攻略中、楽士の楽曲のインストが常に流れ、戦闘になるとシームレスにボーカル版に移行する、という仕掛けが施されている。さらにこれらの楽曲、実はどれも楽士の願いや感情を歌った、キャラクターを理解する上でのサブテキストなのだ。

 例えば、最初に闘うことになる楽士のテーマソング「ピーターパンシンドローム」では、軽快で明るいメロディと柔らかい声質でありながら「手を伸ばして 掴みとって 唯一無二な僕を」「君の手で 受け止めて やがて、消える僕を愛して」と報われない承認欲求が全編展開されるという末恐ろしい楽曲になっている。これを聴きこんだ上で楽士当人のエピソードを読むと、より彼の孤独や悩みが理解できる。そうした深掘りが楽士全員分用意されているわけだ。

 個人的なオススメは楽士・梔子の楽曲「おんぼろ」。世界が、他人が、憎くて憎くて憎くて仕方がない絶望のシャウトを、擦り切れた声で歌い上げる上田麗奈さんの表現力。打ちのめされた、という言葉がピッタリな楽曲との出会いが、『カリギュラ』を忘れがたい一本にのし上げたのは間違いない。

未来へ

 『カリギュラ オーバードーズ』、今となっても不思議な作品だ。決して遊んでて快適だとは思わないし、万人が楽しめるとは逆立ちしても言えない。それでも、本作が刺さる人が必ずいるはずだ、という確信が常に胸の底に渦巻いている。辛い現実の埋め合わせのためにゲームを遊んだり、ここではないどこかへ行ってみたくなったり、誰かの不幸話を聞いてなぜか気が楽になったり……そんな「良くないこと」への願望をぼんやり抱えながら生きている私にとって、メビウスに生きる人々の言葉は身近に感じた瞬間が何度かあったからだ。まだ現実も捨てたもんじゃない、みたいな達観には至らないけれど、帰宅部や楽士の面々がどういう決断を下すのか、片時も目を離すことができなかった。

 毎日に鬱屈を感じている人にとって、『カリギュラ オーバードーズ』はインモラルな願いを少しだけ叶えてくれる、かもしれない。危険で過激で背徳的で、どうしようもなく魅力的なディストピアへの招待状。このテキストに辿り着いた人が本作を遊んで感じるのは救いか、それとも嫌悪感か。どちらにせよ、思い出に残る一本なのは間違いありません。ぜひ。











 さて、次に遊ぶゲームは何にしようかな、、、、、、、、、って



んん???????????



無題

あ"あ”っ”!?!?!?!?!?!?

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あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!!!!!!!!!!!














ようこそ、新しい世界へ


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