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唸れ必殺の“黙秘拳”『犯罪都市 NO WAY OUT』

 前作の感想を“2年に一本くらいのペースで新作が観てぇなぁ!!!!”とか“来日が実現するといいな”で〆たら本当にそうなったし、まさかマジで青木崇高國村隼が出るとは思わなかった。そんな『犯罪都市』シリーズ最新作、楽しませていただきました。同じ劇場で観たのに明らかにマ・ドンソクの打撃音が前作よりも爆音になっていたので、次回作は耳栓必須になると思います。

 腕っぷしの強さでピカイチの検挙率を誇るマ・ソクト刑事は、ソウル広域捜査隊に異動し、今日も街のいざこざを(拳で)解決しながら、事件を追っている。ある日、女性の転落死事件が起こるのだが、その遺体から「ハイパー」と呼ばれる新型の麻薬が大量に検出される。その違法薬物を追っていくと、事件の裏にはそれらを流通させている日本のヤクザと、薬物を横流しして私腹を肥やそうとする何者かの存在が浮かび上がってくる。

 このシリーズは一作目、二作目を経てすでに「お約束」が出来上がっており、我らがマ・ドンソクがゴジラの太もものようにぶっとい上腕二頭筋から放たれるビンタでチンピラをぶっ飛ばし、「真実の部屋」が発動し、裏稼業の下っ端を仲間に引き入れ強引に捜査を進めていく。マ・ドンソクが強ければ強いほど、可愛ければ可愛いほど、満足度が上がっていく。アイドル映画として王道を往く、安心安全のクオリティが劇場で待っている。

 前作でもすでにソクト刑事の強さが上限を突破していたような気がするが、本作ではソクトが「元ボクサー志望だった」という設定が急に生えてきて、ただでさえ強かったソクト刑事に「見切り」と「スピード」が足され、もう手がつけられない強さになっている。モブのヤクザがどれだけ束になっても傷一つつけられないし、舞台設定は2015年なのに未だに銃火器を携帯していないなど、一体いつまでお前たちはマ・ドンソクに舐めプをかましているのだと、呆れたくもなってしまう。

 ところが今作、大木のような身体を振り回すマ・ドンソクに唯一ダメージを与えたのは死角からの車での追突であり、その車を運転しているのが我らが青木崇高が演じるリキである。

 新型麻薬「ハイパー」を盗んだ裏切り者を消すために、國村親分から派遣された組織の殺し屋リキ。頼もしい整備兵橘さんの面影を払拭し(おそらく今作の方が撮影が先)、ドスの効いたオラオラ言葉で日本刀を振り回す様はまさに狂犬。本作でも希少な「ソクトに怪我させられる強者」の一人として、抜群の存在感を放っている。しかもそのバックにいるのが國村・コクソン・隼なので、そりゃあもう怖い。続編では『HiGH&LOW』の九龍グループ級の日本の怖い顔俳優アベンジャーズVSマ・ドンソクが観られたら、問答無用でその年のベスト映画が決まってしまうに違いない。

 一方、もう一人のヴィランである悪徳刑事チュ・ソンチョルを演じるのは、『神と共に』シリーズのやたら顔の良いパク中尉役でおなじみ?イ・ジュニョクさん。斎藤工とケイン・コスギを足して2で割った顔つきが忘れられないナイスガイだが、いかんせんマ・ドンソクの相手をするには身体が細すぎて、インパクトとしてはリキに及ばなかったのが惜しい。が、『犯罪都市』シリーズはマ・ドンソクが強すぎるため、相対的にヴィランが弱く見えてしまうことが避けられない稀有な作品であるため、これは欠点にはならないだろう。むしろ、ファイナルバトルで初お披露目される「スタンさんの後任弁護士」が面白すぎて、その犠牲となったチュ・ソンチョルには同情してしまうほど。長い入院生活を送るだろうが、どうか安静にしていてほしい。

 観たかったマ・ドンソクが観られる、という一点においては確実に外さない『犯罪都市』シリーズ。その安定ぶりには歌舞伎のように「よっ!待ってました!」と声援を送り、今作と同時製作されているという四作目も、その先の作品も全て追いたくなるほどの地位を確立している。ただ今作で気付かされるのは、チョン・イルマン班長の空白を埋められるだけのバイプレイヤーがいないという事実である。

 あの頼りなくも憎めないチョン・イルマン班長の不在は、『犯罪都市』シリーズにおいてはわりと致命的であることを示してしまった気がしてならない今作。チェ・グィファのとぼけた顔が恋しい。マ・ドンソクに振り回される班長が観たい。この心にポッカリと空いた穴は、どうやったら埋まるのだろうか。『オオカミ狩り』でも観たらいいだろうか。

 本国でもその名称で呼ばれているかは定かではないが、日本版公式サイトの表記に準拠すればMCU(マ・ドンソク シネマティック ユニバース)と呼ばれる本シリーズ。この広大な宇宙を泳いでいれば、クムチョン署強力班のみんなとも再会できるだろうか。今は何もわからないが、マ・ドンソクがいる限り、ぼくもこのシリーズを追い続ける所存である。この世で唯一、國村隼に勝てるとしたら、この男しかいないだろうから。

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