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これはもはや筋肉版の水戸黄門。『犯罪都市 THE ROUNDUP』

 俺たちの大好きな”人情派ドンソクさん”が帰ってきた!というわけで、座席に座る前からニコニコしていたわけだが、「行きつけのラーメン屋にいったらチャーシューがいつもより多かった」みたいな感じで、とっても楽しかったです。やっぱり兄貴の映画はコレじゃないと。

 2018年日本公開の前作『犯罪都市』では、本人も熱望していたという刑事役に挑戦した我らがマブリー。大柄で腕っぷしが強く、面倒見が良くて街の人々や部下からは慕われ、美女に囲まれるとデレデレして強がっちゃう童貞ムーブを見せるなど、「いったい誰で萌えさせたいのか」が明確な作りになっている快作で、たまに見返してはマブリーのマブリーすぎる魅力にメロメロになっていた。

 その映画をかつて「アイドル映画」と評していたのだが、今回の続編を観るにあたって、あながち間違っていなかったというか、数年越しに「我が意を得たり」とガッツポーズをしてしまった。おそらく作り手は前作で"掴んで”いるので、マブリーをどう動かすべきか、どう映すべきか、その全てを把握しているのだ。マ・ドンソクによるアイドル映画フォーマットを確立した『犯罪都市』シリーズは、すでに勝ち筋を手に入れたと言っていい、二作目にして安心と信頼の出来栄えであった。

 前作から4年が経過した2008年。相変わらずの力ずくな捜査が注目を集めていたマ・ソクト刑事に、ベトナム行きの命令が下る。なんでも、国外逃亡した凶悪犯がベトナムで自首、韓国での保護を求めているらしい。前例のないこの事案に対し、容疑者の引取のためにベトナムを訪れたソクトとチョン・イルマン班長は、その裏に隠されたさらに大きな犯罪と、誘拐殺人を繰り返すカン・ヘサンという男と対峙することになる。

 さて、すでに3作目の撮影が始まり、4作目までが計画されているという『犯罪都市』シリーズ、2作目にあたる本作では前作でウケた要素を「お約束」としてルーティン化しており、すでに安心感がとてつもない。冒頭には当たり前のようにナイフを振り回す暴漢が出てきて、それをマ・ドンソクが過剰に鎮圧する。取り調べでは「真実の部屋」が発動して韓国領事館にはゴジラの足音みたいな音が響き渡り、イスの股間が締め上げられる。作品のアイコンを体現するのはもちろん主演たるマ・ドンソクその人なわけだが、印象的なシーンやアクションをしっかり織り込んでいる辺りは、今年公開の映画なら『HIGH&LOW THE WORST X』を彷彿とさせるオタク喜ばせメソッドでファンサービスを怠らない作りが嬉しい。

 対するカン・ヘサンは、富豪を誘拐して身代金を要求し、その上で相手を殺害するという血も涙もない男。序盤から残忍な行為で正直ドン引きというか、甘いマスクと頼れる兄貴的な風貌なのにエグい刃物を振り回すカンは、まさに制御不能な暴力そのもの。しかしこの映画にはあるセーフティがあって、ヤツの犯行がエスカレートし画面の血生臭さがある一定を越えようとすると、決まってマ・ドンソクが現れる仕様になっている。

 もはやマ・ソクト刑事の強さは説明不要(なぜならマ・ドンソクなので)であり、ひとたび暴力が発動しても敵がマンガみたいに吹っ飛んでくれるおかげで、直前の凄惨さが帳消しになるというYoutubeもビックリのフィルター機能を搭載したマ兄貴。たとえ刃物を持っていようが銃を構えていようがマ・ドンソクの前では児戯に過ぎず、一緒に鑑賞した知人曰く「一人だけ超サイヤ人が混じってる」の一言が本作のヒエラルキーを表している。とにかく強くてめちゃくちゃ優しい(けど顔が怖い)というマ・ドンソクのパブリックイメージを煮詰めたようなマ・ソクト刑事のキャラクターは、すでに完成の域に達したと言っていい(惜しむべきは美女にデレデレ展開がなかったことだろうか)。

 そんなマ・ソクト刑事が強すぎるあまりに、本作は「どんな悪役を用意しても霞んでいまう」という弱点を抱えてしまっていると思う。カン・ヘサンは前述の通り残忍で凶悪な、震え上がるような連続殺人鬼なのだが、いかんせんマ・ソクトが負ける絵が思いつかず、映画全編から緊張感が伝わってこない。この男に目をつけられたら死ぬ!という緊迫感さえなく、むしろクライマックスバトルの舞台が逃げ道のないバスの車内だとわかった途端に「これは絶対バスがめちゃくちゃになって敵が負けるだろうな」と思ったし、実際その通りになる。コイツはもう毒を盛るとか手足を縛るなどしない限り、現存する人間では互角の勝負に持ち込むことは難しいだろう。

 だが、そんなことは『犯罪都市』にとって評価を下げる一因にはならないだろう。何せ、ファンはその大樹のような上腕二頭筋から繰り出される台風の如きパワーを観たくて、劇場に駆けつけるのだ。マ・ドンソクが強すぎるから映画がつまらなくなるのではなくて、「強すぎなければマ・ドンソク映画じゃない」のだ。すでに彼は新時代のセガールのような立ち位置にいるし、このシリーズはマ・ドンソクにとっての『沈黙の○○』シリーズとなっていくのだろう。規格外に強すぎるマ・ドンソクを観て、ボンクラな俺たちが溜飲を下げる。移民問題だとか誘拐事件だ何だは後で考えればよくて、敵に勝つか負けるかのハラハラで作劇する必要すらないこの安心感は、もう『水戸黄門』のそれに近いのではないだろうか。印籠が無い代わりにラリアットをお見舞いするタイプの黄門さま、マ・ソクト。

 強すぎるあまりシリーズの看板娘を背負ったマ・ソクトだが、実は前作から引き続きのキャラクターたちの好演も嬉しいところ。ソクトの暴れん坊っぷりに振り回される印象の強かったチョン班長は前半のベトナム編ではもうひとりの主人公として笑いを掻っ攫い、強力班のメンバーも頼れる仕事ぶりでソクトを遠方から支援したり、現場で身体を張ってのアクションをすることに。彼らも愛すべき『犯罪都市』メンバーとして、少しずつだが掘り下げが増えたのも愛着が持てるし、彼らがいるからこそシリーズのお約束である「打ち上げ」の多幸感が増すのである。

 またアイツらに会いたい。そんな余韻さえ浮かばせるラストシーンで幕を閉じる『犯罪都市 THE ROUNDUP』、本人もノリノリなので2年に一本くらいのペースで新作が観てぇなぁ!!!!となるし、次回作の際には今回叶わなかった来日が実現するといいな、としみじみ思う。そして何より期待値高まる『3』ではマ・ドンソクVS國村隼が観られるらしく、その年の年間ベストに食い込む顔力(かおぢから)映画になることは間違いないだろう。すでにジャンル化確定のマ・ドンソクムービー、打撃音がとにかく重要なので、絶対に劇場で御覧ください。

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