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ここでも問われる正義の形『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ ドライ!!』(アニメ)

 要約すると「ゆるふわ☆魔法少女アニメだと思った? 残念! いつものFateでした!」なやつでした。つまり、大好物です。

 「こういう時間がいつまでも続けばいいのに――。」
 8枚目のクラスカードに宿る英霊との激闘を終え、平和な日々を取り戻したイリヤたち。残された夏休みを謳歌しようとした矢先、凛とルヴィアが緊急事態を告げた。激しい闘いが行われた円蔵山からはその爪痕が忽然と消え、8枚目のクラスカードも残されていなかった。調査に来たイリヤたちの前に、突如二人の少女が現れる。彼女たちは美遊を連れて、どこかに消え去ってしまった。
 「イリヤ…助けて…」
 
その声に導かれ、謎の空間に飛び込んだイリヤ。次に目覚めた時に目にしたのは並行世界、美遊が生まれ育ったもう一つの冬木市。

 1期から謎めいていた美遊の出自が、ついに明かされていく第4期。話数も12話に伸び、日常回を一切挟まない重苦しい雰囲気に満ちた今シーズンは、激しいバトルと衝撃の連続。主人公がまだ小学生だというのに、厳しい決断を幾度も迫るシナリオは、鬼畜の所業か。

 今作の舞台は、前期で存在が仄めかされていた並行世界。夏だというのに雪が降り敷ける冬木市は、人の気配がないゴーストタウン。その中心に開いた大きなクレーターと、その中心に隠された工房。それこそ、この世界の魔術師であるエインズワース家のもの。エインズワースは聖杯である美遊を用いて、「世界の救済」を成し遂げようという。

 並行世界は、滅亡の危機に瀕していた。地軸の歪みによる気候変動、マナの枯渇による有害物質の発生。生物は次々と死に絶え、ゆるやかな死を待つのみとなっていた。エインズワース家当主ダリアスは、そんな世界を救うべく、美遊をイリヤの世界から連れ戻した。

 対するイリヤは、美遊と世界、どちらか一方しか救えない現実に苦悩する。そんな彼女の前に現れたもう一人のイリヤ=クロは、迷うことなく美遊を救うことを選択する。しかし、その選択に納得できないイリヤは世界と美遊、両方を救うことを決意する。代案なんてないけれど、願いを叶える聖杯なら、叶えてみせろと叫ぶ。

 本作で争われるのは、二つの正義の方向性である。エインズワースは、この滅びゆく世界を救おうとする魔術師一族。それを果たすためにはおそらく聖杯である美遊が犠牲になるのだろうが、大を生かすために小を殺すという判断によるものだろう。Fateシリーズにおいて、この価値観は頻出し、多くのキャラクターがその在り方を議論する。もちろん、その祖は衛宮切嗣。万人を救う正義を聖杯に願い、そのために多くを切り捨ててきた男。イリヤたちはまるで『stay night』の衛宮士郎がそうだったように、切嗣が行ってきた正義の形と、向き合うことを余儀なくされる。その手段が一人の少女の犠牲という非情なものであれ、人類やその他の種の延命のために事を成そうとするエインズワースを、一概に断罪するのは難しい。

 対するクロは、世界よりも美遊の命を優先する。同じ聖杯の器として、目的のために造られた生を生きるクロだからこそ、美遊の孤独や恐怖に寄り添えるし、悩めるイリヤを奮い立たせようとする。運命に囚われた美遊を助けたい、自分が救われたように。そのためには世界なんてどうなったっていいと、クロは自らのエゴを押し通そうとする。世界や大きな視点での他者ではなく、たった一人の誰かの味方であろうとする姿は、『Heaven's Feel』の衛宮士郎を思い起こさせる。

 そして我らが主人公イリヤは、一人の少女と世界の両方を救うと決断する。どちらかを犠牲にして成り立つ正義よりも、全てを救う理想を抱く。それは、衛宮切嗣が捨て去った正義そのもの。方法さえわからない、無謀な賭けに出ることを本作の主人公は選び取った。

 かくして、衛宮切嗣の理想と現実、士郎が選び取った誰かのための正義、という補助線を引くことで、三つの正義の対立図式が浮かび上がるのが本作『ドライ』の悩ましいポイントだ。どれも正しく尊いものであり、確固たる策もなくどちらも諦めきれないイリヤの姿は青臭く映るかもしれないが、その愚直さ素直さこそが主人公の特権とも言える。その正義が成した時が、シリーズを俯瞰して観ることができる視聴者にとっても喜ばしい瞬間になるだろう。

 魔法少女対エインズワース、思想を超えた争いは熾烈な宝具合戦へと移行し、映像のカロリーもぐんぐん上がっていく。本作はFateシリーズの要素を取り込んだファンサービスが巧みで、クラスカードを用いたフォームチェンジやBGMといった『stay night』オマージュもさることながら、シリーズを通して最強の敵であるギルガメッシュが味方陣営に周る頼もしさ、英霊エミヤの片鱗を感じさせる士郎のバトルシーンなど、「ここぞ」という場面で心地よく盛り上げてくれる。タイトルに似合わぬ血生臭さだが、クライマックスは燃える展開のオンパレード。

 これまたシリーズ伝統の「先延ばし」によって、最終話Cパートは続編となる劇場版へのブリッジ。並行世界の士郎と美遊の過去話ということで、エインズワースとの闘いはまだ続く模様。三つの正義の行く先を見届けるまで、魔法少女たちの闘いは終わらない。


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