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#2022映画ベスト10

 履歴書の趣味の欄に「映画鑑賞」と書くくらいには個性のない人生を送ってはきたが、今年はそれも書き込めないくらいには、映画館に行けなかった。

 相変わらず仕事が忙しいこと、職場で遅れて例の流行り病が蔓延したこと、とある資格試験についての勉強で時間をとられたこと。理由は様々だが、自分でお金を稼ぐようになってから「今月一回しか映画館に行ってないな」なんて事態に陥るのは初めてのことだった。

 無論、趣味の優先順位の最上位に置いてるようではいかん、という認知はあるのだが、浮いた余暇時間をゲームだったり特撮や女児アニメに割いてる時点で何ら例年と変わらない。碇シンジくんが大人になって宇部新川駅から巣立っていったというのに、当のぼくは何も進歩していなかった。

 そんな後悔と言い訳を重ねてから始まる、今年の趣味の棚卸。来年こそ落ち着いた一年になりますようにと願いながら、今年の"狂い”を振り返っていければと思う。最後までお付き合いいただければ幸いです。まぁカバー画像で1位がバレバレなわけですが

10位 『シャドウ・イン・クラウド』

 いきなり単独の感想記事がない作品から始まってしまった。『シャドウ・イン・クラウド』とは「グレムリンとクロエ・グレース・モレッツが闘う」というヤンチャすぎるあらすじに心奪われて観に行ったのだが、これが思わぬ掘り出し物枠だったのだ。

 窮屈で逃げ場のない爆撃機の銃座部屋に押し込められ、男共の差別的で醜悪な視線と野次に晒されることになるクロエ演じる主人公モード・ギャレット。彼女はその耐え難い苦痛に加え、これまた世にも恐ろしいグレムリンの襲撃を受けるのだが、彼女には果たさねばならない使命があった。やがて観客はあの銃座部屋こそが「子宮」のメタファーであり、この地獄のような空の旅を通じて彼女が「母」として産まれるまでの通過儀礼を描いたものが本作なのだと知る。それを踏まえると、クライマックスのファイトは痛快そのものだ。泣き叫ぶ役立たずの男どもを尻目に、クロエが殴る!蹴る!ぶん投げる!!後半からB級映画的なバカ方向に意識的に振り切りつつ、エンパワーメントとして確かなアツさと考え抜かれた構図が美しくハマった一作。

9位 『犬王』

 『平家物語 犬王の巻』を監督・湯浅政明×脚本・野木亜紀子で映像化という、「スゲェもん観ちゃったナァ」と思わずにはいられない座組。時代考証なんのそのと言わんばかりの、ロックがかき鳴らされるミュージカルシーンはアヴちゃん起用がバッチリとハマっていたし、たとえロックが世界を変えられなかったとしても、あの日あのライブを観た人の心に「友魚」と「犬王」は確かに刻まれて、滅びる平氏の物語の先に二人がいる。野木さん脚本作で言うなれば『MIU404』で描かれた、「見過ごされてしまった人生の物語」に対する救済の意図が込められた、とても優しい映画だったように思い返せる。それはそれとして「『鯨』スタンディング応援上映」早くやりたいです。

8位 『ロッキーVSドラゴ:ROCKY IV』

 今年、映画館で映画を観る喜びを思わせてくれたのは『マーヴェリック』だが、それと並べて飾りたいのが、まさかの令和に蘇った『ロッキー4』だ。スタローン編集により新生した本作は、あらすじこそ変わらないのに鑑賞後は全く印象が異なるという、凄まじい体験だった。

 そもそも、「冷戦下のアメリカとソ連がボクシングを通じて心を一つにする」という大筋に無理があるし、オリジナル版はオープニングシーンや例のロボット含め牧歌的すぎた。それもまた魅力ではあるのだが、今回の再編集版は一味違う。オミットされてしまった撮影済み映像を盛り込んだ今回の再編集版は「アポロ・クリードの人々に忘れ去られるのではという焦り」「敵地に連れ込まれた祖国のおもちゃとしてのドラゴ」「友を失い虎の目を取り戻すロッキー」の三人のドラマにフォーカスが当てられており、能天気に思えたあの作品にもちゃんとアツい物語があったことを、不意討ちのジャブを喰らうような形で感じ取らせてくれるのだ。

 なんといっても白眉は、アポロ戦におけるオープニングアクト、どこか所在なさげにリングに上げられていくドラゴの表情であり、「スタローンちゃんとこういうの撮ってるんじゃん!」と膝を打った。そして後の『クリード2』を知っているからこそ、ドラゴが「自分のために」闘ったクライマックスの殴り合いにまた別の趣が重なってくる。もうホントにクリティカルすぎて、オリジナル版には戻れないくらいの衝撃を受けた。ソフト化希望。今年のドラ泣き枠です。

7位 『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』

 人が死なないループもの、それがしかも日本の会社というシチュエーションで起こるというおかしみが、しかし特大の「共感」を発生させるという、まさしく国民的映画。仕事って辛いし理不尽なことも多いが、諸々の歯車が噛み合った際にクライアントの要求の先を行っちゃう時のアドレナリンとか、職場の人間関係が思いもよらない要因で上手く行ったりだとか、そういう日常の一コマがループ攻略のプロセスに織り込まれていて、観ていて気持ちよくて仕方がない。

 それでいて、「もしやり直せるなら?」というifを主題に置き、とある登場人物の後悔や夢への挫折を描きつつ、大人になることのほろ苦い味わいと、それでも大人として、社会人として振る舞うサラリーマンは時に格好良い、ということを体現する"彼”こそ、一番涙を誘う。

6位 『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』

 もうこれは説明不要でしょう。大人の事情に振り回され続け、ここ数年で最もリブートを繰り返してきたヒーローの、その「思い残し」を観客と一緒に成仏させていくような奇跡の連続。制作されることのなかったサム・ライミ版4、アメイジングの三作目を幻視すると共に、私たちがずっと観たかったクロスオーバーが、予想の5億倍の解像度で実現していく凄まじい映像体験。今後これを映画史で更新することが可能なのかと不安になるくらいの、ご褒美のような作品でしたね。

5位 『すずめの戸締まり』

 新海誠最新作は、メジャー以降の過去2作では「天災」として扱われていたカタストロフを、ついに「震災」として真正面から描く試みでした。あの日を経験し、誰もが大なり小なり傷を追ったトラウマを抱えながら生きてきた私たちに、ほんの少しの希望を与える。それはどうしようもなく都合のいいフィクションであって、亡くした命は帰ってこない。それでも、人の心を癒やし、希望を鼓舞するのも、フィクションの役割と言えるのなら、私にとってこの映画は安らぎを与えてくれた。この映画の功罪はどうあれ、私個人のランキングを作るのなら、この作品は外せなかった。

4位 『トップガン マーヴェリック』

 いやもう本当、今更ボクが何も付け加えることなんてないです!ってくらい、楽しくて、嬉しかった。80年代を彩る名作も「アーカイブ」としてしか楽しめなかった自分の前に、「今、映画館で上映されている、トップガンの続編」が現れ、しかもそれが無類に面白くて、その喜びを世代を超えて共有し合えるという体験。娯楽ってこうだよな、映画って映画館で観るものだよなと、病魔に世界が侵されて以降当たり前ではなくなった「当たり前」を蘇らせてくれた、恩人のような作品。最高だったよ、トム兄ィ。

3位 『HiGH&LOW THE WORST X』

 マーヴェリックよりザワを上に置いているところが、ぼくらしいと思います。ただ、志としてはハイローは全然引けをとっていなくて、毎作ごとに「前作を越えよう」とする気概を感じるし、それが日本映画のスケールを超えて毎回実現しているところが本当に信用できる。パフォーマンス集団LDHのサービス精神がエンドロールの最期に至るまでチョコたっぷり詰まっているため、演者とキャラクターのシンクロやアクションの質、劇中歌の選曲とタイミングに等など、オタク喜ばせポイントの密度とクリティカルさで比較すれば『マーヴェリック』級、と言っても過言ではないでしょう。

 その上、本作にはこれまでになかった「幼馴染み×主従」という大変湿っぽい関係性が付与されていて、これがもうバチクソに萌(も)。今年の萌えカプ二次元部門は『リコリスリコイル』の中年男性だったのですが、三次元部門にて圧倒的首位に躍り出たのが須嵜と天下井。幼い頃に交わした約束を、AがBに覚えてるかな……って不安になるやつは『レヴュースタァライト』だし、Bのかつての気高さに惚れ込んだAが「Bが堕ちるなら共に堕ちる覚悟をキメている」物語ってさァ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!

 ファンに向かってそのいい顔は何だ……!!悠太……っ

2位 『RRR』

 本当に悩んだ。苦渋の2位。個人的にも人生を救われた『バーフバリ』のS・S・ラージャマウリ監督最新作は、前作に引き続き娯楽の王様の座は揺るがなかったし、「映画」の完成度や技巧としては今年観た中でも間違いなくトップ。本当に大好きだし、映画本編のみならず映画の外側、インド映画を愛し熱狂してきたお友達との再会という喜びもプラスしていいのなら、1位以外はあり得ない。はずなのに、なのに……!!

 なので1位の話していいですか?

1位 『THE FIRST SLAM DUNK』

 あまり言及はしてこなかったが、『スラムダンク』が大好きだ。おそらく、産まれて初めて読んだジャンプ漫画だし、所謂ギャグ漫画などではない「ストーリーがある漫画」を完結まで初めて読み切った作品だと思う。

 スラムダンクにはたくさんのドラマがある。初めてバスケに触れた喜びを全身で体現する桜木、己の実力で1年にして神奈川No.1選手の座に手をかける流川、一度道を外れその後悔を抱きながらもプレーで恩返しを積み重ねていく三井、今年が最後だからこそ並々ならぬ想いで一つの試合にぶつかって行くゴリと小暮くん。その他のライバル校の個性豊かな面々含め、全員が主役級の過去と凄まじいプレイングスキルを持ち、想いと想いがコートの中でぶつかりゴールに叩きつけられる。身体が弱く体育会系の部活には軒並み縁がなかった自分にとって、スポーツを観るという行為に真の意味で前のめりになったのは『ロッキー』と『スラムダンク』だった。

 だからこそ、新作映画を観るのが怖かった。あれだけ思い入れのある作品だ。「まぁ面白かったね」じゃ嫌なんだ、100点満点以外受け付けられないんだ。そこに、公開前にあらすじすら明かされないプロモーションが不安を付け足していく。どこと闘うのか、何を描くのか。何もわからない。負け戦になったらキレるしかない。そんな身勝手な思い入れと共に、観客席に座った。

結果、開始5分で号泣していた。

 沖縄の風景から始まる本作。そこに暮らす少年が誰の少年時代なのがわかった瞬間、この映画が「何をやろうとしているのか」がふいに輪郭を帯びてくる。そしてオープニング、井上先生のタッチの絵に命が吹き込まれ、湘北バスケ部の面々が横並びになって、コートに"そこにいる”映像が流れる。もうヤバい。井上先生の絵がそのまま動いているだけでヤバい。そして対する相手校が階段を降りるようにしてこっちに向かってくる。バッシュと筋肉質の足が迫り、どんどんその身体が顕になっていく。そしてユニフォームに書かれた文字は「山王工業高校」。もうダメだ。許されるなら立ち上がって叫びだしたかった。山王だ。ずっと観たかった山王戦が、井上先生のタッチの絵のままで、観られるんだ。血が沸き立って、冷静ではいられなかった。代えのマスクなんて持ってきていなかったから、ハンカチで鼻と口を覆う。

 そこから始まる試合シーンは、まるで本当のバスケットを観ているかのよう。かつてのTVアニメでは技術的に足りなかった部分を、モーションキャプチャーと3DCGで補い、リアルを追求していく。コートの広さや桜木のポジショニングの素人感、ディフェンスの漫画的誇張のない表現に、とにかく舌を巻く。井上先生の目には、こういう風に見えていたんだ。そして今、俺たちは映像に置き換えられた井上先生の世界を観ているんだ、という感覚。凄い、スゴすぎる。感動と驚きが数秒おきに襲ってきて、おかしくなりそうだった。

 そして映画は次のステージへと移行していく。井上先生が描き足りなかったとパンフレットで仰っていた、宮城リョータの物語。父と兄を同時期に失い、憔悴しきっていた母親との軋轢を抱えながらも、バスケだけは辞めなかった。いや、バスケを続けてきたから、生きてこられた。その想いが、コートを爆走する。対するはエースプレイヤー沢北。負けられない想いがある者同士のぶつかり合い。勝者と敗者それぞれのドラマが決する瞬間の熱量。

 宮城リョータの物語にフォーカスするために、オミットされたものも確かにある。山王戦は見どころだらけだ、前半戦のアレやコレやがこの映像クオリティで再現されたら……と思うところもある。また、回想シーンが試合の熱狂を寸断する形で挿入されるのも、もどかしいと感じずにはいられない。故に賛否分かれるのも仕方がないし、パッケージとしての完成度なら『RRR』を推すと思う。

 ただそれでも、それでもだ。「俺達が観たかったスラムダンク映像化」と「井上先生が描きたかったスラムダンク」、そして「俺たちのまだ知らないスラムダンク」の3つが同居するという、ちょっと他に類を見ない本作と向き合ったあの二時間は、もう「至福」の一言だった。血管の一つや二つがブチギレてもおかしくないほどに、身体の火照りが止まらず、映画を思い出しては泣く。そんな日々を過ごしながら、あぁやっぱりこの作品は外せないな、と思った次第だ。

>「まぁ面白かったね」じゃ嫌なんだ、
>100点満点以外受け付けられないんだ。

 バカもいいところでしたね。10年の制作期間も納得の本作。続編なんて望みません。本当に本当に、ありがとうございました。

未来へ

 アウトロが終わるとイントロが流れてくる。つまりは2023年が来る。来年は庵野ライダーと山崎貴ゴジラが激闘し、新条アカネが登場するかわからないグリッドマン×ダイナゼノンがあったり、アイカツ!がどう考えても号泣案件だったり、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』がようやく来日したり、キアヌ・リーブスとドニー・イェンと真田広之が闘ったりするらしい。ちゃんと来年も“狂い”が予想されて嬉しい限りです。『ワルプルギスの廻天』は来年ですかねェ!?!?!??!?続報、待ってます。

 それでは皆様、よい年をお迎えください。今年一年お世話になりました。


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