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『RIDER TIME 仮面ライダー龍騎』が17年前のあの激しさを思い出させてくれた。

 未だに信じられない。17年前に完結した作品の、そのオリジナルキャストが集結した完全新作が観られるなんて。現在放送中の『仮面ライダージオウ』のスピンオフ企画の一つとして製作された『RIDER TIME 仮面ライダー龍騎』は、2002年2月3日から始まった、あの殺伐とした命のやり取りに熱狂した少年時代の頃と同じ熱を、再び感じさせてくれた。友達が持っていた変身ベルトに向けた羨望の眼差しも、少し大人になって見返して、繰り返される闘いの意味を知った時の感動も、すべて蘇ってきた。これは決して『ジオウ』の一編などという生易しいものではない。まごうことなき『龍騎』の続編だった。

 ミラーワールドに閉じ込められた、かつてのライダーバトル参加者たち。記憶を失った彼らの前に現れた謎の女性。ここから抜け出して現実の世界に帰るためには、生き残って最後のライダーになるしかない。

 『龍騎』本編におけるライダーバトルは、最後に残った勝者の願いが叶えられる、というのが表向きのお題目であった。しかし本作は、「現実世界に帰還する」という否応が無く闘うしかない状況にライダーを据え、殺し合いを続けさせる。個々の願いを描写する暇もないのだから、ライダーによるバトルロイヤルという『龍騎』第一のセールスポイントを最短距離で実現させる、一見乱暴にも思える舞台設定。しかし、後に判明する真相を観てファンなら察せられる通り、もはや取り繕う必要さえなくこれは誰かの「命」を賭けたループであり、残り7日というタイムリミットからして劇場版『EPISODE FINAL』を引用したものである。バトル終盤の、行き詰まり感さえ漂うあの終末の雰囲気を、2019年の今再演しようとしている。

 その過程で浮かび上がるのが、日曜朝放送の子供向け番組としては異質すぎた、死の香りが全編に漂う世界観。裏切りや憎しみといった負の感情、あるいは浅倉が体現する、通り魔的な理由なき暴力の恐怖。死という非日常に感じられるものが、実はとても卑近なそこにあって、いつ脅かされるかわからないという根源的な恐ろしさ。ライダーが正義の味方とは限らない、という今でこそ当たり前の概念を最初に成し遂げた『龍騎』がいかにセンセーショナルであったかを、今になって感慨深く思う。

 本作は、auビデオパス独占配信作品。自分の意思でサービスに入会・課金できる大人に向けた作品であり、当然の如く『龍騎』を観て育った大きなお友達を狙い撃ちするキラーコンテンツだ。前述の通り、TVシリーズの殺伐とした雰囲気を思い起こさずにはいられない諸々の設定はもちろん、衝撃のベッドシーンや殺人描写など、日曜朝では出来ない表現でアップデートした『龍騎』をやろう、という気概が見える。また、スーツアクションとCGがシームレスに融合したファイナルベント描写や、長回しワンカットの戦闘シーンなど、技術的な進歩も貪欲に取り込んでいる。

 それでもなおファンが目頭を熱くするのは、本作が事実上”もうひとつの最終回”としての側面を露わにしていく、圧巻のクライマックス。『ジオウ』TVシリーズ21・22話でも城戸真司が登場し、ライダーバトルから解放されたその後のIFを想像させる余地があったのに対し、本作ではあのTVシリーズ最終話と地続きの、現実同様に17年の時を経たキャラクターたちの宿命の物語であることが、冒頭から明かされていく。闘いの中で徐々に記憶を取り戻していくライダーたち。しかし、その多くは道半ばで事切れていく。

 最も辛い瞬間が訪れた。鏡の世界の自分を振り切り、ついに己を取り戻した真司。その腕の中には、致命傷を負った蓮。TVシリーズ49話、あの衝撃のエンドを、逆の構図で繰り返す、鬼のごとき所業。

 この局面になって初めて、真司と蓮がそれぞれの「願い」を、本当に小さな小さな願いを、ようやく自分の口から語りだす。このシーンは涙なしでは語れない。理屈ではないからだ。他人の命を蹴落とすほどの大義名分も、万人が納得する正義もない。ただあるのは、純粋な願いだけ―。真司の、蓮の、現実世界に帰りたいという思いの根底にあるものとは何か。その切実さが、胸をえぐるような余韻を残す、忘れられぬラストとなった。

 『龍騎』は、自分にとっても思い出深い作品だ。放送当時は、子供ながらにカードを読み取るバイザーの音声や13体ものライダーが登場する座組みそのものに熱中し、『ディケイド』で特撮畑に復帰して見返した時は、奥深いストーリーに熱中した。そして今、アラサーにもなって3度目の『龍騎』ショックに立ち会えたことに、驚きと感謝で胸いっぱいである。キャラクターに安易な救いを与えないところがまた『龍騎』らしく、2002年の朝、お茶の間に流れるあのヒヤリとした空気に引き戻してくれた、懐かしさで身悶えする至福の一作だった。平成ライダー20周年、こうした再会があるのだから、ライダーファンで良かったと心から思う。


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