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お前めっちゃ明るいな!マーベルユニバース出身かよ。『シャザム!』

幼い頃に母親と離れ離れになり、孤児となったビリー・バットソンは、新たな里親の元で暮らすことになるが、新しい家族にも心を開くことができず、本当の母親を探す日々を続けていた。ある日、ビリーは謎の宮殿に召喚され、老いて力を失いつつある魔術師シャザムから力を受け継ぐことを提案される。銃弾を跳ね返す屈強なボディを持ち、指先から稲妻を発し高速で駆け抜けるスーパーヒーロー「シャザム」となったビリーは、同じ孤児でありヒーローオタクのフレディと共に、超能力を楽しんでいく。しかし、シャザムの能力を奪うべく現れた闇の魔術師シヴァナによって、ビリーとその家族にも危機が迫る。

 お魚さんと喋れる寂しがり屋こと『アクアマン』から続き、DCエクステンデッド・ユニバースの方向転換が明確になってきた。重厚かつ深淵さを帯びた作風から、笑って泣けるファミリー映画へのシフトチェンジ。善と悪の曖昧さに苦悩するフェイズは過ぎ、ヒーローたちも自己実現だったり、お家問題で大忙しだ。どこか親近感の湧くヒーローたちの描写は、少し前ならマーベルが専ら担っていた気もするが、DCだって実は人間臭く愛らしいヤツらで溢れている。例えば、シャザムのように。

 そんな『シャザム!』だが、日本では公開直前の吹替版にまつわる報道が良くも悪くも話題となり、映画ファンの間でも賛否両論が巻き起こった。しかし鑑賞後の今思い返せば、これらの報道が隠れ蓑となり、映画のストーリーやキャラクターについて事前に詳細を知ることはなかった。その結果、本編鑑賞時は驚きと爆笑が交互に襲い掛かり、挙句の果てにクライマックスで号泣する羽目になった。

 まず、主人公の境遇が中々にハード。ビリー・バットソンは幼い頃に母親とはぐれてしまい、そのまま孤児となってしまう。里親の元を抜け出してはまた新たな里親の元へ、というサイクルを繰り返し、問題児扱いを受けている模様。まだ14歳だというのに、他人を信じることが出来ないほどに冷え切ってしまった心は、果たして癒えるのか。

 そんなビリーを迎えた新たな里親も、お互いが孤児同士の夫婦。そこで暮らす子供たちもユニークで、足が不自由なヒーローオタクのフレディ、ハグ魔で心優しい少女ダーラ、大学進学を控えたお姉さん格のメアリー、コアゲーマーで言葉づかいの荒いユージーン、無口な肥満児ペドロ…と、これまた個性的な面々が揃う。性別も年齢も人種もバラバラな彼らもまた、様々な事情で親元を離れた過去の持ち主。それでも家族であろうと、絆を繋ぎとめようとする大人の切実な想いが、一抹の切なさを醸し出す。

 孤児であり、足に障害を持つフレディは、学校でもイジメの対象に。「みんなと違う」だけでのけ者にされてしまう現実社会において、フレディは大きなハンディを背負っている。劇中、命にかかわるややショッキングなイジメ描写があり、ファミリー向け映画として攻めた描写に思わず声が漏れる。

 それはそれとして、ひょんなことからシャザムに変身できるようになったビリーと、実質的なサイドキックを務めるフレディの友情が深まっていく様子はとにかく最高だ。スーパーマンのような強靭な身体を持ち、フラッシュにも負けない高速移動と、必殺技は稲妻ビーム。それらを活かしてやることといえば「○○やってみた」動画の撮影。再生数もうなぎ登りで、ビリーも自らの承認欲求を満たし、フレディも屈託のない笑顔を見せてくれる。

 Youtubeにアップできない活動模様も爆笑必死で、14歳の子供の目線に立って考え抜かれた「もしボクがヒーローになったら」は全てが名場面。見た目が大人で中身は子ども、いわゆる逆コナンくんの設定は、映画の作風を大きく左右する。なにせ中身は14歳の少年、ビール飲んで吐き出したり、ストリップバーに潜入してみたりと、大人の身体を理由にかなりイキっており、途端にボンクラ感が溢れだす。少し背伸びしたワルさ感、秘密の共有などなど、思わず童心に帰るワクワクするような楽しさが、重苦しい現実を笑いで包んでいく。

 一方、ヴィランにあたるシヴァナもまた、家族というものに忌まわしき過去を持つ男。幼き頃から常に見下され、蔑まれてきたシヴァナは、他者からへの愛を感じたり承認欲求を満たせぬまま大人となり、復讐という動機のために魔術を振りかざしていく。親からの愛を受けられなかった子どもという点でビリーと共通しており、二人は鏡合わせの存在。

 もし魔物の誘惑に逆らうことができなければ、ビリーとて悪の魔術師に堕ちていただろう。そんなビリーをヒーローとして繋ぎとめたのは、家族の存在。それも、心とか友情とか愛とか、そういう見えないけど確かに存在する絆で結ばれた者たちが血縁や人種を超えて「家族」と成り得る、という明快かつ現代的な在り方を肯定する。あるいは、『スパイダーバース』が切り開いた「誰でもヒーローになれる」時代の潮流にも、本作はマッチする。内に秘めた憧れや、身体的・経済的といった事情で諦めざるを得なかった夢や理想。そうしたものを内包した「ヒーローになりたい」という願いの成就を、本作は最高のカタルシスを添えて大スクリーンに出力する。家族の在り方も変化する時代、複雑な事情を抱えた子どもたちを勇気づける『シャザム!』は、たくさんの人にとってかけがえのない一作になるに違いない。

 見た目が大人で中身は子どもなのがシャザム。見た目が子どもで中身はオトナなのが映画『シャザム!』。劇場が笑いに包まれ、最後には感動が待ち受ける良質なビギンズものであり、子どもたちにとっては新時代の『グーニーズ』となりうる名作の候補。惜しむべきは、公開二周目には某エンドゲームに上映回数もファンの興味も根こそぎ奪われてしまう不運な公開時期。せめて作中に絡めてクリスマスムービーとして公開されていれば、大きすぎる競合相手とぶつかることは無かっただろうに…。


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