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『GODZILLA 怪獣惑星』はゴジラの可能性を広げた【新・ゴジラ】だ。

 13年ぶり。国産の最新作が2年連続で公開されるのは、2003年の『東京SOS』から2004年『FINAL WARS』にかけての流れ以来となります。それだけに注目度も期待も不安も最大級な最新作『怪獣惑星』はいかなる作品なのか、私見をつらつら述べさせてください。

 20世紀末、突如出現した巨大不明生物「怪獣」によって、人類は未曾有の危機に直面する。中でも、他の怪獣をも駆逐する最大最強の怪獣「ゴジラ」にはなす術もなく、同盟を結んでいた異星人種族「エクシフ」「ビルサルド」の力を借りて、選ばれた一部の地球人類は種の存続のため他星移住計画を実施した。

 しかし、到着した惑星は生存環境に適していないことが判明。20年に渡る航海で疲弊し物資も限界に近づく船内の現状を鑑みて、恒星間移民船「アラトラム号」は地球への帰還を決意。幼少期にゴジラによって両親を奪われたハルオ・サカキ率いる一団が見たのは、2万年の歳月が経過し人類文明が失われ、ゴジラを頂点とする生態系が築かれたまだ見ぬ地球の姿だった―。

【観る前に読むか?観てから読むか?】

 本作『怪獣惑星』は怪獣によって住処を奪われた人類の反撃を描く3部作の第一章。冒頭にも世界観の説明があるものの、詳細を知るには劇場パンフレットと、角川文庫より発売中の小説『GODZILLA 怪獣黙示録』を読むことをオススメします。

 『怪獣黙示録』は、怪獣被害から生き延びた人物の証言をまとめたもので、歴代の東宝怪獣や兵器が多数登場する、本シリーズの前日譚。人類が怪獣という脅威と出会い、ゴジラという最大級の絶望に敗れ、地球を捨てるに至ったのかを描く、副読本として欠かせない一冊です。

 特に、映画本編では特筆して言及されない異星人との関係については、本著を読むことで理解が進み、映画をより楽しむことが出来ます。母星を失った2つの種族がなぜ地球に降り立ったのか、彼らを人類はどのように受け入れたのか、という背景は、本シリーズの世界観を理解する上で外せないものとなっています。ぜひ、劇場に駆けつける前に一読してみてください。

【アニメのゴジラは「ゴジラ映画」なのか】

 本作が発表されたとき、何よりも度肝を抜いたのが、本作が「アニメーション」であるということ。国内では初めての試みとなる、アニメーション映画としての『ゴジラ』、特撮怪獣映画という一ジャンルを築いたシリーズであるからこそ、この題材への賛否がファンの間で別れたことも、記憶に残っています。

 ここで重要なのは、何をもって「ゴジラ」足りうるのか、ということ。原水爆の象徴から子どもたちのヒーローまで、時代によって様々なキャラクターを演じてきたからこそ、観る人それぞれに自分なりの“ゴジラ像”が形成され、特撮かアニメかという表現方法もその判断基準に相当します。すなわち、満場一致の答えのない問いと言えます。

 ただし、その名の英語表記に”GOD”が含まれる、ということを指針とするなら、ゴジラはまさしく神の化身、破壊神、という言葉が相応しいのではないでしょうか。その巨躯と圧倒的な力がもたらす破壊が天災にも例えられる、生物の常識から外れた大怪獣。人々はその存在に畏怖し、しかし魅入られてしまう。そこに、我々がゴジラに惹かれる理由が込められているような気がしてならないのです。

 その上で、本作のゴジラとはどのような存在なのか。劇場パンフレットに寄稿された、瀬下寛之・静野孔文両監督と脚本の虚淵玄氏のインタビューには、このような証言があります。

虚淵:僕の場合は、脚本上の概念として「ゴジラは進化の最終存在である」と位置づけただけなんですよ。(中略)
瀬下:でも、その概念がすごく大事なんです。「進化の最終存在」という言葉をもらって発想したことは、地球上の生命体で一番大きくて一番寿命が長いのが何か?です。そして、それは「樹木」なんです。だから1000年単位で生きて、周囲の生物や環境全体に対して自身に有利なエコシステムを形成している今回のゴジラ像を、植物の超進化的存在として積み上げていきました。

劇場パンフレットより

 また、ゴジラのコンセプトについて聞かれた瀬下監督は「世界樹」というキーワードを発しています(劇場パンフレット,P21)。本作のゴジラは自然と同化、あるいはゴジラそのものが自身に適応する環境を形成し、2万年の時を経ても寿命を迎えることなく君臨しているとしたら、人知の及ばぬ完全生命体と言えるでしょう。

 さらに劇中、あるいは前述の『怪獣黙示録』においても、ゴジラを神となぞらえる台詞や記述が存在します。曰く、万物の霊長などと驕り高ぶる人類への裁きの鉄槌、としてのゴジラを前に、人類は抵抗の意思を捨て、地球を捨て去りました。

 事実上、歴代初めて地球を、人類を滅ぼしたゴジラ。巨大生物の域を超えた完全生命体。黙示録の獣。怪獣の王。3DCGで描かれていようとも、その偉大さは不滅であり、登場人物の恐怖も絶望も本物なのです。

【『怪獣惑星』が可能にした新しいゴジラ映画とは】

 思えば、2016年の『シン・ゴジラ』におけるゴジラもフルCGではあったものの、だからこそ出来た造形、スケールが評価されて今に至ります。(一抹の寂しさもあれど)着ぐるみ特撮でなくとも新たな『ゴジラ』を世に送り出すことができる、という証明が行われたわけです。

 そして今回「アニメ」という媒体を獲得したゴジラ最新作は、実写では再現不可能な要素で埋め尽くされています。舞台となる文明崩壊後の地球はもちろん、ホバークラフトを用いたスピーディな空中戦や揚陸艇からの空爆など、実写ではスケールやリアリティの面で浮いてしまう要素も、アニメならば違和感なく描写できます。

 また、ゴジラ自身もアニメ化に伴い新たな個性や能力を獲得し、着ぐるみ特撮では成しえない歴代最大級のゴジラが姿を現します。前述の通り地球環境を一変させたゴジラ、その姿をぜひ、ご自分の目で確かめてみてください。

【最後に】

 時代に併せてそのキャラクター性を変化させたように、その時々の映像技術を取り込んでアップデートされていくゴジラ。日本の伝統「怪獣特撮」の祖であるゴジラは今、アニメという一見アウェーに思える土壌でもその存在感を示し、むしろ貪欲に取り込んでしまうほどの器と化しました。もはや媒体も形式も問わずゴジラ映画を製作することが出来る。その間口を広げた今作『怪獣惑星』は、ゴジラ映画の今後の可能性を示唆する「新・ゴジラ」であるのかもしれません。

 ハリウッド版第2作やVSキングコングが控えるこの新時代の怪獣映画ブームに、アニメだから、などと嫌煙するのはもう時代遅れ。劇場の大スクリーン、大音響で体感していただくのが一番です。『GODZILLA 怪獣惑星』、お見逃しなく。

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