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灯唄

人のこころを動かす音楽、ずっとしばらくこの課題のような問いの答えを探していた。この問いを答えることができればまたひとつ真理のような鮮明で揺るぎない領域にたどり着けるのではないかと思ったからだ。でもわからなかった。無秩序に羅列された無意味な単語集でも音楽が加われば言語化できない衝動が体を貫かれることがあるし、凝ってもいないシンプルな言葉達が肝心な時傘をさしてくれる時がある。今この記事を書いているのはその結論がでたという話ではなく、その未だ辿り着けていない答えの過程に偶然出会ってそして唄を平成最後の夜につくったからだ。

音楽で人生変えられた経験、そう解釈する人は少なからずはいると思っている。馴染めない学校、窮屈な家庭環境、叶わない恋、うまくいかない人間関係、その時々に音楽がなっていたと思う。自分自身そうだった、特になにも達成することもこのまま大人になってしまうのかとなんとなく自分の底が見えてしまったような夜、与えられたものが音楽という表現だった。未だ底は見えない、底を張って生きているのかもしれないがこの歳になっても面白いと感じたり、心底感動する音楽に出会う。今僕は作り手となって同じく誰かにそう思ってもらえるような音楽をつくりたいと腹の底から思っている。いつまでたってもそこは変わらない。人をまるっと変えることではない、海底深くまで潜りきってしまったときに灯される燈火のような光のようなものだ。そう信じきってやまなかった。憧れのミュージシャンは皆が皆その輝きを持っているようで焦がれた、僕もヒーローみたいになりたいと。

昔話になるけど、そうだなちょうど桜が咲いた頃、そしてその後の話。それが浅はかで未熟な考えだったと身をもって体験した。どんな言葉も放つ人間が僕ならば意味をなさないように思えた出来事があった。軽石を投げてしまったような濁りがずっと体全体に沈殿していた。揺れる心はどうやら変えれないらしい、それが悔しかった。目の前で泣いている人がいて苦しい時とか悲しい時とか涙がずっととまらないという夜に僕は言葉をその時になって探した『なんて声をかければいいのだろう』って。大丈夫っと場をつなぐためだったのかはたまた自分に言い聞かせるためだったのか、こんな頼りにもならない大丈夫誰も拾わないような無反動な言葉を投げかける以外術をしらなかった。

もっと言うと、自分じゃダメなんだなってことを認めたくなかったのだと思う。ヒーローに憧れるだけ憧れた小市民である名前もない何者でもない自分ができることは一時の話し相手程度なんだと認めたくなかった。ヒーローが登場する前座をかってでてしまったような気持ちで、自分でそうしておいて結果はなんとなくわかりきっていたのに勝手に悲しくなったり虚しくなったり世話ない話だ。本当はそうじゃなくて僕はアナタを救う魔法の言葉を唱えたかった、いつもなにかが欠けているようででてこない、最適でシンプルでそれでいて愛が詰まっていて。余計な説明文は不要で悲しみに満ちた日々の答えを話せたらその手を握りしめて迷子になった夜だって照らし続けれることができたのにと思っていた。

『揺れる心は変えられない』と突きつけられたあの時から、それでも探し回った。もう判定はでている結果を覆したくてどこまでも足掻いてやるって気持ちで。でも探せば探すほどなんにもないんだとわかっていってしまって途方にくれた。

ついに僕は探すのを諦めた、僕は僕が救われたくてアナタそっちのけで違う解答を探していることに気づいた。それからの日々は空白のようだった。

からっぽだった自分がそれっぽい理由をいくら取り繕うとも僕は僕自身が傷つきたくなかっただけだった。随分と途方もないところまで来てしまった、帰り道はもうわからないし、もう声だって届かない距離に来てしまった。とんでもなく悲しい事実を理解するのにこれほどまで時間を費やしてそしてこんなところまでやってきてしまったのだ。ここに来てまで馬鹿だのなんだの自分を責めたって最早自傷行為以外なにものでもない。目一杯詰め込んだいつか伝えてやるぞと考えてしたためた言葉が詰まった便箋は急に憎悪するような醜い言葉になったように思えた。結局なに一つ伝えられなかったし、自分が思うほどアナタのことを何も知らず傷つけていて、なにひとつ優しくなれなかった。

荷を降ろし、立ち止まった。ここが終着点だと思い歩くのを止めた。進むことに理由がなくなってしまったみたいに足が動かなくなった。思い出はいつも小奇麗にまとまるし、都合良く変わってしまうし、本当に嫌いだと思った。

ヒーローになりたかったはずがいつのまにかバケモノに変わっていってしまってたのか、それが許せなかった。一瞬でも自分に悲劇が見舞われたんだと考えてしまったことを恥じた。恥の多い人生だと入水して息の根も止めることもできずおめおめ生きている。そうやって、長い年月をかけてバケモノみたいに変わり果てた自分が存在することをやっと認めたのだった。


まるで罪を犯したような心情と、それでいて罪人の顔もしてられない状況が僕の本当の名前を隠したみたいに彷徨わせた。ここにきてようやくどうすればいいんだよとのたうちまわった、月日は秋から冬を迎えていた。

なにもかもなくなってしまったと思えた頃、うんと遠くまでまた飛び出した。このまま名前を失くしたまま生きることは屍と同義のような気がして、もう一度もとの人間に戻りたかった、それで宛のない旅路に身を投げた。

過去をなかったことにするのは不可能で、でもそれと人は向き合って生きていかなければならない。でないとまた恐ろしいバケモノに身を変えてしまうから。同じ過ちなんか繰り返したくない、止まっているように思えた時間は平等にすすんでいて、勝手にやめていた答え探しは止まっていなくて、答えはもっともっと生きてそして長い時間がかかるんだと思った。

口にすればチープになるし、約束は願い事みないな重さになる。どう足掻いても人の気持ちなんて理解できない。人の痛みを自分の痛みとして受けとめるのも不可能で何が救いになるかはその本人でなければわからない。誰も他人を100%理解できない、わかってあげられない、救いたいなんてのはただの奢りで、思いやりだと信じた気持ちが人を傷つけることもある。僕は唄を唄う、創る、書く、その覚悟も持って。

埃かぶった便箋を紐といていった。

そうしてできた唄を『灯唄(とうか)』と名づけた
何もできない、なにもかも解決する魔法はもっていないからそっとそばに寄りそう。揺れる心にだって、ずっと先の話になるかもしれないけどいつかこの歌が救いになる日がくるかもしれないと信じている。

だから今は小さな暗闇を、夜明けまでの道筋を灯すような唄を。


今日も言葉を探している。



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