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関西途中下車 ①

毎年8月6日は関西にいる。前年度から出演のやりとりを泥酔しながら決める。
25歳くらいから続いている行事のようなもので、僕自身もこの関西遠征のことを夏休みと捉えてスケジュールを組んでいる。
例に漏れず今年も僕の夏がやってきた。今回の目的は3つあった。夏休みというよりも、約束を果たす為にこの街に帰ってきたのだ。

きっかけなんてものは偶然なもので、たまたまライブの打ち上げで同席した隣のおじさんと話がはずんで2日間シークレットで開催するこの街や隣県のミュージシャンが参加するイベントに出演しないかとオファーをいただいたことがきっかけだ。1ヶ月後と言われ普段ならそんな近い日程のイベントは断ったりするところ話せば話すほど興味が湧いてきて福岡から京都まで1ヶ月後やってくることを承諾したのだ。そのおじさんはみんなから『のりさん』と呼ばれている。


のりさんは京都に住んでいるライブハウスに異常に出現する年齢不詳のおじさんなのだがどういった肩書きの人なのかというと形容が難しい。イベンターでもあるし、ライブや音楽が根っから好きなお客さんでもあるし、お酒しか口にしたくないという飲兵衛でもある。ただこの人がいる周りはどこか騒がしく新しい出会いをいつもくれる。
そのノリさんの誕生日に合わせて二日間行われるのがノリフェスと呼ばれるミュージシャンが集うイベントだ。アトリというcafe & barと、大丈夫というカレー屋さんで開催され完全招待制でノリさんから声のかかったミュージシャンだけが集まり、一般のお客さんもただの飲み仲間とかそのお店の常連さんだったり要は身内が楽しむためのイベントだ。

先に言っておくと、身内ノリのライブイベントや空気はあまり好きじゃない。
身内ノリのイベントでダラダラとライブはしていくのにちゃんとチケット代はお客さんからはきっちりといただくとかそう言うのがこの商いに携わっている以上参加する気になれないのだ。

そういった好きではないと言わせていただいた上でノリフェスに出続けているのは潔いまである振り切った身内ノリだからだと思う。自分が食べたり飲んだりする分以外のお金はかからないから商業的な儲けが出るやましさもなく、シンプルにみんなで毎年一挙に集まりたいやん、といった感じでそこに身内ノリちゃいますよなんて言う気のかけらもないふりっきったイベントなのだ。そしてこの場に居合わせる人は音楽好きであり、プレイヤーなので下手なライブや手の抜いたライブなどしてしまうもんならその場にいるみんなから冷ややかな目を向けられつまみ出されてしまうような空気感のある試されている場所でもある。ある意味全然緩くない、この一年間の自分をそこで出して戦って讃えあい、そして旨い酒を手にする真剣勝負の場なのだ。こういうのは身内ノリとはもはや言わない、祭りと言うんだと思う。

なので此処で出会ったすごいミュージシャンたちに今年の自分はこんな感じですとお披露目するような気持ちで僕もこのイベントに出るたび真剣を持って斬りかかるようにライブをしている。

また此処で出会った人と繋がり今も仲良くさせてもらっている人がたくさんいる、ある意味ミュージシャン同士の音楽の出会い場でもあるため此処で出会った多くの人に僕自身も大変お世話になっている。

のりフェスで出会った衛さんがやっているバンド ザ シックスブリッツ


もっともらしいことを書いたのだけれど僕らは結局このノリさんと言う人物の誕生日を各々の武器で祝いたいのだと思う。ノリさんは人のことも好きだが、その人の音楽も好きがちゃんと同率にある。そんなこんなで僕は毎年一杯のお酒をギャラとしてもらうことを条件にこの人が企画するイベントに出演している。断っておくけど後にも先にもこの人だけにしかそんな条件でライブをしないと決めている。


先に記した通り、2日にわたっておこなわれるこのイベントは初日がアトリ、そして2日目が大丈夫という流れになっている。僕の出演日は7日の京都編なのだけれど、内緒で6日の夜こっそりと大阪編に顔を出した。
『ただいま』と玄関口から顔を覗かせると見知った顔ぶれが一斉にお酒片手によってきておかえりと言ってくれる。僕もビールをあけて乾杯する。この数年こういった集まりもうまく楽しんでもいいものだろうかと酔うに酔えなかった日々だったこともあり、心から再会を喜んだ。もっと言えば、ただいまと言っておかえりと抱き寄せてくれるみんなが待っていてくれたのが本当に嬉しかった。



その夜はアトリの店長でもあるダイバーキリンのじょんじょんさんのご自宅へ泊めてもらった。お互い泥酔ということもあって速やかに床についた。




7日の朝、じょんじょんさんの奥さんの蕗子さんと3人で軽く昼飯をつまんで阪急電車に乗り会場へと向かった。今回はいつも会場になる寺町大丈夫というお店のオーナーである衛さんが流行病にかかってしまい、会場は稲妻食堂という大きな町家に店を構える居酒屋さんで行われた。会場にたどり着くとすでにアルコールを身体に取り込んでいる見知った面々が座ってた。のりさんは昨日あれだけ飲んだというのにピンピンとしていた。

稲妻食堂中庭

人々が集いはじめ、スタートの時刻になった。町家のお座敷で演奏が始まった。
開幕の狼煙をあげたのは水谷了義とおっさんズさんから始まった恐らくこの日のために結成された面々なのだが生演奏で雅楽を演奏しはじめた。


水谷了義とおっさんズ

雅楽の歴史を紐解く前説から始まり一音吹きはじめた瞬間静寂と共にやんごとない空間が広がった。そこからおっさん君が生花をいけはじめた。空気が静まりかえる中最後のひとさしを終えた瞬間自然と拍手が溢れた。日本古来からある美と音楽を堪能させていただき改めて感じさせられた。

『みんな本気やん』

トップバッターからヒリヒリさせる演奏をしてもらい会場は大いに盛り上がったのと同時にミュージシャンたちの熱も上がっていく、もちろん各々がそれぞれの熱量を持っているので質感も違えば炎の色も違うのだけれどそこから15分ずつ演者たちはお酒やトークを交えながら自分の中の今をありったけ披露していた。

空き時間には再会を喜び、近況を話す。アルコールが身体を巡ってきたというのもあったがとても心地よい涼しい時間がそこにはあった。

そして自分の出番がやってきた。終盤ともあり人はちらほら気絶していたり壮絶な現場へと変わっていたがこのイベントのラストスパートとなる順番でもあったので此処らで空気を変えてこの楽しい日にもちゃんと終わりがくることを知らせるため、そして好きな人を心から祝うため、僕は僕のありったけを演奏した。
今まで手を抜いたことは一度たりともないが、狙って今日は本気だそうなんて思ったのは初めてかもしれない。頭から飛ばして最後はきちんと落としてやけに冷静にそれでも汗は滴り後半の記憶があまりない。結果自分で良かったがどうかさえわからなかったのだけれど、演奏終了後寄ってきてくれた人が大勢いて、今年も無事やり遂げたのだと安堵した。

イベント終了後、何人かにアンコールがおきた。光栄にも選んでいただいてクボさん(the seadays/Ba)に無茶振りをして一曲ご一緒にさせてもらった。

その時のことを今も鮮明に覚えているのだけれど、僕の歌をくちずさんでくれる人がいたり、コーラスなんかもやってもらったり、涙をほろりと流す人がいたり。とにかくこの場が幸せな空間に包まれていたことは確かでのりさんがニヤニヤして見てくれていて、来年もこうやって呼んでもらえるんだと確信した(案の定来年もくると約束した)。


この街の人が好きだ、この2日間で毎年新しいミュージシャンと出会う、そして広がっていく、音楽は楽しくて幸せで、ありのままの姿にさせてくれる。嘘や偽りはすぐにバレてしまう。そして人々は出会いたまに想像を超える空間を生み出したり共鳴したりする。のりさんという人物を慕ってよってくる人、その人たちに紹介してもらえること。仲良くなって別の場所で再会するたびに僕は胸熱く喜ぶ。こうやって受け入れてもらえることって実は簡単じゃなくて愛を愛でちゃんと受け止めたり返したりしないといけない、そこにはお金とか知名度とかそういうものではなくて愛があるかどうかだと思う。

2日間を終えてまず一つ目の約束を果たせた。
泥酔した状態で僕は終電に乗り天神橋筋6丁目へと向かった。次の会場の扇町para-diceへと向かうためだ。
にやけっつらが車窓に移りこんだ。
微睡む車内のソファーに座り込み今日のことを思い返して終着駅まで眠った。

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