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【超・短編小説】うるさい図書館

「私はいま、千葉県○○市にあります、ある図書館に来ています」
レポーターが差した建物は、近代的なデザインだった。
「この図書館、大変話題になっていまして、キーワードは「うるさい図書館」っていうことなんですけど、いったいどういうことなんでしょう。さっそく入ってみます」
朝の情報バラエティ番組である。金曜日のこの時間帯は、レポーターが街に繰り出し、トレンドスポットを紹介するコーナーが人気だ。
館内に入ったレポーターが、ちょっとオーバーアクション気味に反応する。
「うわあ、これは…。スタジオの皆さん、聞こえてると思いますが、なんと、館内ではBGMが流れているんです、しかもかなりの大音量。なぜでしょう、話を聞いてみましょう」
レポーターは、ちょっと緊張した表情を浮かべている男性にマイクを向ける。
「こちら、館長さんです。
なぜ図書館なのに、こんなにBGMが、しかも大音量で流れているのでしょうか?」
「はい、大音量の音楽が流れる環境下で、あえて読書や勉強をしてもらうことで、利用者にとって、より強い集中力の訓練になればと思って始めました」
「クレームとかはないんですか?」
「はい、特にありませんでした」
「図書館は静かなものという概念を覆す、まさに逆転の発想ですね。では利用者にも聞いてみましょう」
館内は、かなり大きく閲覧スペースをとってある。まだ早い時間だというのに空席は、ほとんどない状態だった
「すみません。ちょっとお話いいですか?」
二十代前半と思われる男性が顔を上げた。
うるさくないんですか?という質問に対し
「逆にこの方がいいです。実はここで勉強して先月資格試験に合格しました。今は次の資格取得目指して勉強中です」
「そうなんですね、頑張ってください」
レポーターは次に年配の男性にマイクを向けた。
「いやあ、話題になっているんで来てみたんだけど、そんなにうるさいとは感じないなあ。ヘタにシーンとしているよりも落ち着くね」
「ありがとうございました。なかなか好評のようです。あれっ……。あそこにイヤホンをしている人がいるんですが、なぜだろう。ちょっと聞いてみます」
三十代ぐらいの女性だが、確かにイヤホンをしている。
「すみません、よろしいですか」
レポーターがマイクを向けると、彼女はイヤホンを外した。
「なんですか」少し迷惑そうな表情を浮かべている。
「どうしてイヤホンをしているんですか?」
「静かすぎるからです」
「えっ」
「静かすぎるんです。この程度の音量じゃ、訓練になんかなりません」

(終)

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