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スパルタ式の新人教育【音声と文章】

山田ゆり
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入社前の研修が松戸市の研修センターで始まった。

東京に本社があり日本各地にお店がある小売業に就職したのり子たちは、社会人としての常識や、就業規則、接客方法などを一週間、研修センターに宿泊して学んだ。


まだ、誰がどこの売り場に配属になるかは分かっていない。それは入社式の時に辞令が渡されその時初めて分かるのだ。


1970年代の新人教育はスパルタ式だった。
「分かりましたか!」
と聞かれたら、その会社特有の言葉で返事をするのだが、普通の返事をすると
「聞こえない!!」と怒鳴られた。
2倍の声の大きさで言っても「聞こえない!!!」と怒鳴られた。


新人教育の中でのり子は就業規則の内容が特に面白いと感じた。僅か18歳の女の子が高校卒業と同時に入社した会社で、36協定の説明などを聞き、「大人の世界」に自分は入ったのだと自覚をした。


余談だが、入社してその会社の就業規則を見せてもらったのはその後の人生の中で、その会社だけである。
だからその会社がいかに誠実であるかは後々分かったのである。


新人教育の中で、接客のロールプレイングがのり子には一番恐怖だった。


大きな講堂があり、突然選ばれた人が壇上に上がり、指導係の方がお客様の役をする。そして接客の仕方をみんなが見ているというものだ。


のり子は「自分にあたりませんように」とずっと願いながらそのロールプレイングを見ていた。


研修センターはとても大きな設備だった。
その中には大食堂や大浴場もあった。
全て時間が決められていて、のんびり屋ののり子は、いつもせきたてられているような圧迫感を感じながら、みんなに遅れないようにとあくせくしながら過ごした。

人づてに聞いたのだが、研修期間中、あまりにもスパルタなので、数人が入社を辞退して帰ってしまったそうだ。


のり子は「部活動は一旦入ったら、卒業するまで辞めてはいけないこと」という常識だった。

だから、仕事に対しても、「入社したら定年退職まで続けるのが当たり前。転職する人は根性なしだ。」という強い偏見を持っていた。

だからどんなに厳しい訓練でも、のり子は耐えた。
寝る前は、起きたらすぐに着られるように翌日の着替えを枕もとに置いた。
大部屋に数十人が寝て、朝起きたらすぐに布団を畳み洗顔・歯磨きをした。

のり子は皆さんの背中を追いながら必死についていった。


その研修センターに電車などで通える人も通ってきていたので、研修自体は大所帯だった。



厳しい研修が終わり、最終日にのり子たちは荷物を持ち、会社が用意した大型バスに乗り、のり子たちは入社式に直行した。


のり子が入社試験の時に「事務職の枠が無い場合、販売職でもいいか」という質問をされた。
あとで聞くと、それはみんなに聞かれていたのが分かった。
アツコ達も同じだと言っていた。


世間知らずの女子高生は大体は事務職に就きたいと思っている。
大企業は大人数の販売職を採用したい。そのために「事務職」を餌にして人を集め、「早く内定を取りたい」という心理を利用していたのだと、その後、数年してからのり子は分かった。

純粋で世の中を知らなかったのり子は当時はそれに全く気が付いていなかった。


これからどんな売り場に配属されるのだろうか。どこであれ頑張るしかない。


のり子達のバスは渋谷公会堂についた。
数百人だろうか、とにかく会場はびっしり人で埋まっていて、座るところも全て決められていた。


入社式が粛々と進行し、最後に辞令を交付された。
ひとりひとり壇上に上がって辞令をいただいていた。
どの店舗のどんな売り場に配属になったかはその場では確認できない。


隣にはずらりと人が並んでいるからとにかく流れ式でただ辞令をいただく。


辞令をいただいたのり子たちはすぐにそれを荷物の中にしまった。
これから寝台列車に乗って帰るのだ。



のり子は慌ただしさの中、辞令を鞄にしまう。その時、チラリと辞令を見たのり子の心が騒めいた。






長くなりましたので、続きは次回にいたします。




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~スパルタ式の新人教育~
未来を知るためにネガティブな過去を洗い出す 



※今回は、こちらのnoteの続きです。

https://note.com/tukuda/n/n2dc36be43211?from=notice

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山田ゆり
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