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【roots】少年期 《序章》ダイヤモンド

変わらない暗い廊下。
ただ次に出会うものには近寄って見ようと。
何故かそう思った。
そうするしかない。
恐る恐る静かに奥へと進むと足元に波が立っていた。
え?水…….海…。
先へ行くのを躊躇した。
本。確か本で見た。
少年は海を見たことがなかった。
数メートル先の海の真ん中に大きなしぶきが上がった。水しぶきはキラキラとダイヤモンドの様に海に降り注ぎ、月が出ていると判った。
鯨…。
この海の主だろうか、大きい。
近寄ってみようと海に足を踏み込んだ。
濡れる事も水も不思議と怖くはなかった。
どんどんと深くなりもうすぐ鼻先も沈む深さになると、何泳ぎとも言えない動きで手足をバタバタさせて鯨を目指した。
鯨は待っているぞと言うように時折潮を吹いて答えてくれた。
ダイヤモンドが間近に見えて息をのんだ。
綺麗だ!少年は初めて心が大きく弾んだ。
「よく来たね」鯨の声が聞こえた。
来た方角を振り返っても漆黒の海。
あの廊下はもう見えなかった。
「ここはどこなの?」少年は聞いてみた。
「どこに行きたい?」優しく鯨が聞いた。
「行きたい?行きたい所なんて無いよ」
「でも、今。自分で海に入って俺に会いに来ただろ?」鯨は包み込むような声で言った。
「本当だ…」
「君が行って見ようと思ったからさ」
「確かに…」
少年が何か気がつきそうだと思って鯨が続けた。
「何か見なかったか?」
「水しぶきが月の光でダイヤモンドみたいに綺麗だったよ!とても美しくて」
「そうか、少しは見えてきたな。次は潜ってごらん」
ザブンと鯨が姿を消した。
「見える…。」そう呟くと心の中に小さくじんわりと何かが広がった。
潜ってみよう!大きく息を吸い込んで目を閉じて水に潜っていった。

to be continue…

今日もワクワクとドキドキと喜びと幸せを🍀

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