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【roots】老年期 《34章》3日間・2

昨日の続きから

4日目の朝。ルビーが「今日にするわ」と言った。
「ルビー待って!話をさせて!」オスカーがすがると「デイブの体が正常なうちに行きたいの。また会えるわ。一時的なお別れなだけ。私に特別なさよならをさせないで」とルビーは頑なに突っぱねた。
「本当だね⁈また会えるんだね?」オスカーは詰めよった。「大切なオスカーに嘘はつかないわ」と真っ直ぐな目で微笑んだ。
2人はハグをして約束と言い合った。

すぐにオーウェンがやってきた。
「中々来れなくてごめん。行くのか?」とルビーに聞いた。「今日行くわ。また会いましょうね。リリーにもよろしくね」と答えるとオーウェンは「あぁ、すぐに行くから安心して」とルビーを抱きしめた。
「デイブと話したい。2人きりにしてくれ」
オーウェンに言われて3人は部屋を出た。
2人きりになるとオーウェンは話し出した。
「デイブ、こんな閉じ方は初めてだから、少し寂しいけど。まぁ、考えてみたら今回の旅はいつもより頑張り過ぎたな。カッコつけてさ。次会う旅が楽しみだ。デイブ愛しているよ。俺もすぐ行く。また会おうな」そう言ってデイブの手を握り部屋を出た。

オーウェンは泣いていなかった。必ず会えるとわかっているから。オスカーは羨ましく思えた。
「オスカー、俺はまた来る。気をしっかり持つんだ。必ず会える。信じるだけだ。わかったな」
「うん…」泣きそうなオスカーを頭から抱えて強く抱きしめると帰って行った。

ルビーはすぐに「行くわ。デイブを車椅子に乗せてくれる?」と言った。オスカーは驚いて「もう?行くって?どこに行くの?」と聞いた。「湖…滝までは行けないかな」とルビーは平然と答えた。
「滝⁈あの滝はチェイスが沈んでるって!!」
「大丈夫。沈んだものはもう遺跡よ」
「送ってく。」
「やめて、オスカー!これは私の役目なの。心配ないわ。デイブが助けてくれる」ルビーが強く拒否した。あまりの瞳の強さにたじろいだ。
「そうか…わかった。2人で乗り越えるべきだね」
2人の最後を邪魔するべきではないと無理矢理飲み込むようにしてオスカーは引き下がった。
ルビーはオスカーの両手を握って
「ありがとう、オスカー。あなたに。本当に。幸せを沢山貰ったわ。シャーロットを大切にね。また会いましょう」と微笑んだ。そしてシャーロットに来てと呼び優しく抱きしめると「デイブと2人で必ず会いに来るから。オスカーと2人仲良くね。ずっとずっと信じて待っていてね」と耳元で言った。「ルビーに会えて良かった。2人は私の大切な人だもの信じて待つわ」とシャーロットは泣きながら答えた。

「じゃあ行くわ。またね!」
ルビーはデイブの乗った車椅子をゆっくりと動かした。振り向く事なくただ、思い出の多いこの森をゆっくりと眺めながら少しずつ進んだ。
ルビーの姿が見えなくなると、オスカーとシャーロットはその場に崩れ落ちて大声で泣いた。

湖まで来ましたよ」ルビーが声を掛けると
「ありがとう」とデイブは目を開け
「ごめんよ。こんな事になってしまって」と続けた。
実のところ、デイブはとうに目を覚ましていた。
でも、ここでもう閉じて次に行く覚悟は揺がなかった。夜に2人きりになった時、ルビーと話し合って決めていた。
デイブはそろりと立ち上がりルビーの手を取って歩き出した。数日間寝たきりだったのでふらついている。
「かっこつけて」ルビーは嬉しそうに言った。
「そんなつもりは無いけどね。70歳まで過ごせばもう充分だ。幸せも多かったし。今回の旅は色々あったからね」デイブは遠くを見つめて言った。
「そうね。沢山頑張った」
「今回もルビーと一緒で楽しかったな」
「私もよ。最初間違えた時はびっくりしたけどね」「一生言われちゃうな」ワハハと笑うと
「次は気をつけてね」
「またゼロからだから、わからないよ」とデイブがふざけた。デイブはいつもその前の旅を忘れてしまう。ルビーとオーウェンが記し残している事で歴史は刻まれている事も今回初めて知った。でも、その記憶も閉じれば忘れてしまう。

滝へ着いた。
この間チェイスと来た時と違って轟音を立てて大量の水が落ちていた。
「相変わらず清らかなのね。最後まで美しいわ」
「良かった。変わらないで閉じられる」
ルビーの両手を取ると「60年も長い間愛してくれてありがとう。さぁ行こう。次の旅も一緒に」と言った。
「私こそ、デイブがいなくちゃ存在しないわ。今度こそ手を離さないでね」と強く握り返した。
向き合い目を合わせると滝はますます水嵩を増して滝の下の湖は渦を巻き始めた。
溢れる水の中2人はしっかりと手を繋ぎ深く深く沈んで行った。どこまで深く。

途中チェイスのマントが水草に絡み着きゆらゆらと怪しく揺れていた。

その頃オスカーはベッドの上に置かれたデイブからの手紙を見つけ読んでいた。

Dear オスカー
ルビーに頼んでオスカーとお別れを言わないで行く事にするよ。
オスカー、僕を訪ねてくれて。本当にありがとう。おかげで最後が楽しかった。
また会いたい人がいて閉じる事が出来るなんて幸せなことだよ。
オスカー、これから沢山の経験をして行くだろう。でも心配することはない。必ず答えが出せる。オスカーは賢い。自分を信用するんだ。
人生は怖くて悲しくて、楽しくて嬉しくて、驚きの連続だ。次に会えた時の話を楽しみにしているよ。
何十年後かに、必ず会いに行く。
シャーロットを大切にして。オースティンを信頼して。自分を見失わないようにして進むんだ。
オスカーは誠実で優しい子だ。
その事を忘れないで。
僕の大切な息子 オスカー
愛しているよ        

デイビッド

読み終えるとものすごい勢いで外に出た。2人の通った車椅子の車輪の跡を必死に辿って追いかけた。
湖の近くで車椅子を見つけた。
座席に花束が置いてある。
ここまでの道でルビーが作ったのだなと思った。
温もりを感じて思わず頬ずりをした。
花の香りが涙を思い出させた。
「デーイブ!!ルビー!!」体の底から叫んだ。
何度も何度も叫んだ。
オスカーは届かない手紙の返事を心の中で読んだ。
また会えるよね。それまで、ここを守って。立派な畑にするよ。シャーロットを大切にして、男として何かを成しておく。
デイブに恥じないように生きるよ。待ってるからね。

涙を拭いて。深呼吸。
花束を握りしめて。車椅子を引いて家へ戻った。
シャーロットがドアの前で待っていた。言葉にはせずに。
「おかえりなさい」
「中へ入ろう」
と心で声を掛けあった。

to be continue…

今日もワクワクとドキドキと喜びと幸せを🍀


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