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【roots】老年期 《33章》チェイス

その夜にデイブは決意した。
ドアを小さくノックし
「オスカー、いいかな?」と小声で言う。
「デイブ?こんな時間にどうしたの?」
オスカーが眠気まなこでドアを開けた。
デイブはオスカーの腕を取り部屋へ入った。
ベッドに座って
「チェイスがやったんだと思う」
「何を?」
「オースティンだよ。オースティンを撃った男だ」「チェイスって…影の?」
「僕の大事な物を揺さぶって連れて行こうとする。あの病院へオスカーを連れて行って、取り込むつもりだったんだ」
オスカーの目がすっかり覚めた。
「だから…オーウェンは…」
「昔にオーウェンを痛めつけて入院させて。僕をおびき寄せた病院だからね」
デイブはオスカーの目を真っ直ぐにみて
「オスカー、何があってもシャーロットを守るんだ。いいね」と強い口調で言った。
嫌な予感がしてオスカーは聞いた。
「どういう意味?」
「僕は皆んなを守る。最後にチェイスと戦う時が来たんだ」デイブは揺るぎない目をしていた。
「何言ってるの⁈何歳だと思ってるんだよ!危ないよ!!」
「智恵を使って戦うよ。アイツに勝つには力は関係がない。年寄りだって関係ないよ」
「だけど!前の時は体を投げ出しただろ?」
「勝ち目があったからね」と小さく微笑んで答えた。「僕のためにデイブを戦わせられないよ!」
デイブは首を振って
「違う、僕のためだ。チェイスの目的は僕なんだから」と言った。
「どうして?どうしてデイブが狙われるの?」
「さぁ、繰り返す人生が欲しいのか…もしくはルビーか…」
「わからないのに?しつこすぎるよ!」
「だから終わらせなくちゃ。行ってくる」
「い、行くって⁈いつ?」
「今から」デイブは落ち着いていた。
オスカーは焦るばかりでデイブを止められない。
「ルビーには?」
「話さない」デイブはキッパリ言った。
オスカーは驚いて
「どうするんだよ!!こんな大切な事を言わないで!!」と大きな声を出した。
「守るって、負けないって。そういう事なんだよ。必ず帰るから言わないで行く。僕はルビーを悲しませたり絶対にしないよ」それでもデイブは揺るぎない目を向けている。オスカーに信じる力を与えるように。オスカーはその気持ちに負けて「本当だね」とすがる目で言った。
デイブは両手でオスカーの頬を優しく包んで愛する息子の顔を忘れないように。温かい瞳で見つめた。
「アイツは暗くないと現れないから。行くよ」
「僕も!僕も連れて行って!」
「ダメだ。オスカーが来たら僕は強気でいられなくなる。ここを守ってくれ。大事な人だからオスカーに頼むんだよ」
「僕に出来るかわからないよ」
オスカーが下を向いた。
デイブはオスカーの顔を上に向かせて「愛する人を守るんだ。出来ないわけがないだろ!!」とニッコリと笑った。
オスカーはうなづくしかなかった。気持ちに応えたいから。そうするしかなかった。
「じゃあ、頼んだぞ」
デイブの顔はいつもの穏やかな優しいおじいさんではなかった。
見た事の無い強い男の顔だった。

病院の8階。デイブが辿り着くとすぐに声がした。「ケケケ…歳を取ったなデイビッド」
「チェイス、そんなに僕と会いたかったのか?」
「お前がまた揺れる物を見つけるまでに、こんなに時間がかかるとはな!」
「あの子たちを振り回すな」
「こんなに面白い物は他に無いだろ?お前の困り顔を見たくてたまらなくてね。ケケケ…」
「50年ぶりか?僕を諦めたんじゃないのか?」
「だから、若いのに乗り換えようと思ってさ」

何だって?オスカーにまとわりつこうって⁈
騙されるな。これは僕の旅だ。別の人になんてそんなはずは無い!騙されるな!
デイブは自分に言い聞かせて

「変わらないな。その口調。僕はそろそろ人生を閉じるよ。新しく始めるのに良い時期だ。そっちについて来た方がずっと良いだろ」
とチェイスを誘導したが、チェイスはいやらしく
「オスカーにしようかな〜」と言って笑った。
「オスカーは賢くてチェイスには無理だ。あの若さでちゃんと、もう悟ってる。お前には揺らがない」
「どうかな?鹿を使えばいくらでも揺さぶれる」
チェイスのしつこさはデイブが良く知っていた。
簡単にはいかない。

「オスカーの旅にどうやって入ったんだ?」
「こことあそこは繋がっているのさ。大した時空の変化は無い。お前の近くにいればフラフラ〜っと行けるってわけだ」
なるほど、あの日一緒にドアに入って行ったんだな。
「僕の人生がいつ閉じるのか見に来てたってわけだ。自分が何もせずに消える日が怖いのか?」
デイブは強気に攻めた。
「俺が?怖い?」
「そうだよ、焦りまくってるじゃないか」
「焦る?」チェイスが聞き返した。
「姿を現してるだろ。人の姿なんかしてどうした?」
「お前の小細工が効かないようにして来たんだよ。あの日、俺が見えない様にしただろ?」
デイブはニヤリと笑い
「今です!お願いします!!」と叫んだ。
暗闇にドドドっと人が入って来た。
「警察だ!お前は包囲されている。動くな!」
「クソ!」ブワッと黒い煙が立ち込めると人が空になり床に倒れチェイスが外へ出た。
「こ、これは⁈」警察が後退りをした。
「これが影です。アイツの正体、人の体に入り込み心を巣食う」デイブが言うとチェイスがゴゴゴ…と大きく黒い煙を広げて「デイブ!お前の中に入ってやる!!」と覆い被さった。
デイブは待っていたようにチェイスをすんなりと受け入れた。

to be continue…

今日もワクワクとドキドキと喜びと幸せを🍀



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