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【roots】青年期 《20章》王として・4

昨日の続きから

あのドレイク書房のビルに来た。
ドアを開けて廃墟になった部屋の真ん中にあぐらをかいた。
僕の動向はお見通しだろうに。
夜になるまでチェイスは現れなかった。
夜になり照明を付けた。この部屋だけ発電機で電気が付くようにタイラーとトレバーに頼んでおいた。トレバーに極力影の出辛い照明器具をつけてくれと頼んだ。
手術用照明は影が出にくいと聞いた事がある。だから明るさは半端ない。
これなら心を揺さぶられることも少なくて済みそうだ。とにかくヤツに心を支配されたら負けだ。

「やっときたのか。弱虫」
声がした。少し遠くに。
「チェイス、何のためにこんな事を?他人を巻き込むなよ」
「巻き込んだのはお前だろ。1人でいれば良いものを関わり合いを持って迷惑かけて、苦しめたのはお前だ」相変わらずのいやらしい話し方。
「1人でいるのは辞めたんだ。旅をして嬉しい事や幸せだと感じる時はいつも誰かがいるって知ったんだよ」
「騙されて、裏切られて、そんなお前が?
何も見抜けないアホなお前が?へぇ〜。
俺の思い通りにまんまと騙されて、女を間違え。やけどもしてるお前がぁ?へぇ〜」嫌みたらしく高い声でケケケと笑った。
「騙すより騙される方がずっと良い」
と僕が強く言い返すと
「お前が人を騙してんだろ!!」と怒鳴りつけた。「何がフィクションだ!ノンフィクションのとんでもない結末をちゃんと話せよ!美しい美しい姫さまは偽物でしたって!連れ去ったのはドラゴンで、判った途端はき捨てましたってさ。とんでもない恋バナだろ」
「騙してない。物語だ」
「そんな風に言っちゃぁさ、ミアが可哀想じゃないかぁ。」と声がねちっこく近付いて来た。
「ミアは可哀想じゃない。自分でルビーになったんだ。僕はルビーを知らなかったんだから最初にミアだと名乗っても良かったんだよ」
「正当化するなよ。お前はルビーだから嫁にしたんだろ」
「結婚写真を撮っただけだ」
「カッコつけて言ってんなー。お前がミアに子どもでも産ませてくれりゃあ良いなって計画だったんだが、これほど度胸がないとは恐れ入ったぜ、まったく。その上、用無しになればポイ。最低最悪な男だな」
「捨てたんじゃない。最初から間違えていたからゼロにしただけだ。ミアには悪かったって思ってる早く気付いて解放してやるべきだった。苦しい思いをさせて…」
「解放!アホか!!」チェイスは吐き捨てるように言って僕の周りをぐるぐると回っていた。
こう言うのを鬱陶しいって言うんだなとつくづく感じて。話を変えた。
「オーウェンに何をした?」
チェイスがピタッと止まった。
「何って、怪我してもらったんだよ。しゃしゃり出て邪魔だからな」僕は怒りを抑えて
「なんで人を傷つけるんだ?」と聞いた。
チェイスは「楽しいだろ?その方がさ。騒ぎになる」とケラケラと言い放った。
「アホか」呆れて言うと
「アホにアホって言われた〜」ケケケと笑った。
話にならない。

「ところで、眩しいんだよ。邪魔くせぇな」とチェイスが言った。
「明るい方がいいに決まってるだろ。停電になって皆んなウンザリしてる。皆んな光を待ってる」
「嫌味のつもりか?」ケケケ…
「チェイスを見たいヤツなんていないよ」と僕が言うと。
「そうでもないぜ。影まみれになりたいやつもいるんだよ。闇夜を楽しむ輩もいるんだよ。相変わらず、お前は何も知らないんだな。」
「僕は知らなくて良い事は見ないよ。チェイスの方には行かない」
「来いよ弱虫。来たくなるぞ〜。」
壁に教会の中が映し出された。光が強くてよく見えない。一つライトを消した。
ルビーがお年寄りと話している。その周りにミアがいた。思い詰めた顔をしている。
「何?何をするつもりなの?」僕が問い詰めると
「火さ。つけるのよ。直接ルビーにさ。街を明るくしてやりたいんだろ〜?」と言った。
「やめろ!」ミアがルビーに少しずつ近づく。
「ミアはやめないだろーなぁ〜」といやらしく言った。ライトをもう一つ落として映像を見やすくすると、いよいよチェイスの姿も見えた。
「ルビーだけじゃない。沢山の人が巻き添えになる!!」
「だからよ。騒ぎにならなくちゃさ」
ミアがまた少しルビーに近付いた。
「やめさせて!僕がどうすればいい?」
切羽詰まってチェイスに聞いた。
「おい、おい。簡単だなぁ〜。じゃあまず。
オーウェンにトドメを挿しに行け」
僕はルビーとミアを見てから目を閉じて少し考えて。照明を全てつけた。明る過ぎて映像は見えなくなった。決心をつけて顔を上げ「行くよ」と言って走り出した。
「先に火を付けとくよ〜」ケケケ…とチェイスの声が空から聞こえた。ついて来てる。
走れ!走るんだ!!
***
実は、オーウェンの病室は移動してもらってある。チェイスはずっと僕について来ている。
移動は知らないはずだ。でも最後を見届ける気だろう。オーウェンに何もしなかったらルビーが危ない。どうする?走る速度が落ちた。
「どうしたんだ?迷ってるのか?弱虫」
チェイスは追い立てるように続けた
「オーウェンを殺すのか?ルビーにするか?」チェイスが高らかにケケケケケ…と笑った。
オーウェンがいるはずの病室に着いた。
僕は息が上がったままですぐに言った。
「チェイス?僕を殺すか、闇にに飲み込ませるか、どっちが良い?」
「はぁ?お前を殺すのは許されてない」
パッと明かりがついた。さっきの手術用の照明だ。教会の皆が無事に避難出来た合図だ。
タイラーに小屋を用意してもらって山奥へと移動しておくように頼んであった。
ルビーは最後のグループまで教会にいたんだろう。
ミアはどうしたのかわからないけど。きっと一緒には行かなかったはずだ。ミアには良心がある。あの顔はルビーに何も出来ない。そう言っていた。それをデイブは信じていた。
「おい!またかよ。何のマネだ!」チェイスがイライラした様子で僕の上をぐるぐると回り始めた。

to be continue…

今日もワクワクとドキドキと喜びと幸せを🍀


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