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【roots】青年期 《20章》王として

本が出版されてファンタジーの世界で評価を受けた。雑誌などで取り上げられるようになり、インタビューなどではフィクションである事を強調した。
デイブがこの生活に慣れ落ち着いて行くと同じく。だんだんとデイブの旅は大きく広がり、もはやデイブとは関わっていない沢山の人が普通に生活するようになっていた。

本はますます売れて、ルビーのモデルにしているという事でデイブとルビー2人でインタビューを受けることもあった。カフェも評判になり、ますます繁盛して。ルビーもデイブも忙しく過ごしていたある日。
出版社に沢山送られてくる感想はがきやファンレターのような物の中に気になるものがあると連絡を受けて取りに行った。
「あまり良い内容と言えないので…お見せするか迷ったんですが…」と編集さんがそっと封筒から便箋を出した。
「大丈夫ですよ。見せて下さい。」
僕が手紙を手に取ると、火柱が上がるほどの炎が現れた。火は服に飛び移りスプリンクラーが作動してサイレンが鳴り響いた。
僕は手をやけどし、スプリンクラーの水でびしょ濡れになって茫然とした。
一緒にいた編集さんも僕の火を消そうとしてジャケットが少し燃えてしまった。
サイレンでビル中が大騒ぎになり、消防車、救急車、パトカーが次々と到着し僕と編集さんは治療を受けてから警察の現場検証に立ち会った。
そこで、編集さんから初めて手紙の内容を聞いた。
『炎を手にし影を身に纏え』と書いてあったそうだ。
「心あたりは?」と警察に聞かれたが
「僕には意味がわかりません」と答えた。
チェイス…ミアだろうか…。気を緩めると現れるんだ。
すぐに僕らはその場から解放された。
トボトボとビルから出るとオーウェンが来てくれていた。
「大丈夫か?」駆け寄ってくれた。
「少しやけどしただけ」僕は包帯を巻いた両手を上げて見せた。車に乗り込んですぐ走り出した。
「アイツ、また来たんだな?」
「今度の目的は何だろう?僕の成功を止めたいのかな?」
「内容はフィクションだって言ってるしな。怪我をさせて書けなくしようとしたのか?」
「出版社を巻き込んで…ルビーは大丈夫かな」
「チェイス…。ミアはお前の嫌がる事はしないよ」オーウェンがそう言って少し僕を見た。
「そうかな。」
「チェイスは何をするかわからないけどな」
「メッセージに、炎を手にし影を身に纏えって。炎はもう済んだから…影を身に纏えって何だろう」僕がそう言った時にアパートの前に着いた。
オーウェンは体を僕の方に向けて
「俺たちが考えても理解出来る相手じゃない。今日はゆっくり休んで。俺が調べてみるから」と笑顔を見せてくれた。頼もしさに感謝して、うなづいた。僕はオーウェンにお礼を言って車を出た。
部屋に入るとルビーが掛けてきた。
僕の濡れて焦げた出で立ちにびっくりしている
「何があったの⁈」
「やけどね。少しだけ」と笑って両手を見せた。
「何でやけど?両手じゃないの!?」
少し笑ったから余計に怒られた。
「チェイスがまた来たみたい。ルビーに何かしないか心配なんだ」
「私は大丈夫よ!やっつけてやるわ!」と勇ましくいう姿に僕は笑って、また怒られた。
「何か僕を揺さぶれないかと考えてる。負けないようにしなくちゃいけない。心を持っていかれないようにしなくちゃ。」
そう真面目に言うとルビーはそっと背中をさすって「うん。よく頑張ったのね。しばらくはどこにも出掛けないで。ずっとここにいてね。わかった?」と言った。

その晩ルビーが髪を洗ってくれた。
僕を先に寝かしつけたいと思っているのか歯磨きまでついてきて布団に入れさせられた。
「あのさ、僕を何歳だと思っているの?」
「6才くらいかしら。」と微笑んで頭をなでた。
「眠れる?」と心配そうだ。
「眠れるよ」と笑って目をつむった。少し電気が暗くてトントンとルビーが背中を叩いている心地良さにすぐ寝てしまった。
ルビーはそっとベッドから起き上がり、オーウェンに電話をかけた。
「オーウェン今日はありがとう。デイブ?今寝たの。痛々しくて手を繋げないから…話してくれる?」オーウェンは事情を話して聞かせた。
「ルビーは大丈夫か?」
「私?私は何とも。チェイスはいなくならないの?」
「ならないね。何をするつもりなんだか」
「オーウェンにもわからないのね」
「今1番デイブが嫌がる事をするならルビーに何かすることだと思うよ。手を握れなくしてデイブの全てを見せられなくしただろ」
「そういう事?」ルビーはため息をついた。
「とにかく用心する事。いいね」
オーウェンはルビーに心配を隠さなかった。
それほど、何があるかわからないという事だった。

次の日、街中が停電になってカフェも休みになった。
こんな事、この街に来て初めての事だった。
懐中電灯や蝋燭型のランプを灯して食事をした。
万が一に備えて火を使う事を避けて過ごした。パンにハムやチーズ、野菜を挟んで色とりどりの食事をし、明るい気持ちでいられるようにルビーが気を遣ってくれているのがわかる。
冷蔵庫の中身を保存が効くように塩漬けや酢漬けにしてタッパーや瓶詰めにした。
トマトやセロリのピクルスを僕の口に運んで
「デイブは好き嫌いがないのね」と嬉しそうに言うから「おかげで健康なんだ」と言うと「何よりね」と嬉しそうに答えた。
「美味しいよ。自分で作った野菜とかで食べられたら最高だな」と言うとルビーも「良いわね!家庭菜園」と言った。
「本のお金が入ったら家を買おうか。」
「2人用の小さい家ね」「良いね」とニッコリ笑った。

ピンポンとチャイムが鳴った。
ルビーがはい!と出ようとしたので「僕が」と制止して玄関に向かった。
「はい。」
「お届けものです。フォールズ出版社から」
「そこへ置いて下さい」
と言うと配達員は荷物を置いて去って行った。
「何?」
ルビーが心配そうに聞いた。
「わからないけど、絶対に開けない方がいい気がする。警察に連絡しよう」
警察が来て箱を回収してくれた。
中には黒い紙が一枚。
「大事にしたいものはナニ」
と白い文字で書いてあったそうだ。
「ルビーも外出せずにここにずっといて」
脅迫めいた文章は僕たちを部屋に閉じ込めた。

to be continue…

今日もワクワクとドキドキと喜びと幸せを🍀

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