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『スーツ=軍服⁉』(改訂版)第63回 

『スーツ=軍服⁉』(改訂版)連載63回 辻元よしふみ、辻元玲子

◆ストライプはなぜ英国と米は逆なのか

前にも書いたがここで改めて、レジメンタルなどのストライプ(縞柄)のネクタイについてもう一言。英国のレジメンタル・タイは他人から見て左下がり、つまり着用している本人から見ると、左肩から右脇腹方向の斜線である。一方、なぜかアメリカのストライプはリヴァース(逆さま)と称して右下がり、つまり右肩から左脇腹に向かった斜線で構成されている。
そもそものレジメンタル・タイが大学生のお遊びから始まったという通説に従えば、そしてそれは、大学の制帽であるカンカン帽から鉢巻きのカラーリボンを外して、首にぶら下げたもの、というのが本当ならば、帽子の鉢巻きの柄がたまたま、そのような斜線だったから、そうなった、としかいいようがない。英国の事情はそれでいいとして、それではなぜ、アメリカでは逆になるのか。
一部で、アメリカ人が英国仕立てのネクタイを持ち帰り、「これと同じようなものを作ってくれ」と仕立屋に指示したときに、鏡に映した姿をスケッチさせたから、などという話があるが、少々、出来すぎなお話で、とても事実とは思えない。
英国のファッション・サイトに、「英国人がレジメンタル・タイをクラブ・タイ、つまり学校や軍などの組織を示すものとして締めるのを知っているので、米国人はあえて斜線を逆に下ろしたのだ」という解説を見たことがある。結局、これが正解なようで、一九二〇年代、アメリカに縞柄ネクタイを持ち込んだブルックス・ブラザーズ社が、英国流の、学校や社交クラブ、軍歴などの所属を示すレジメンタル・タイやスクール・タイ、クラブ・タイと、ファッションとしてのレップ・タイを区別し、誤解を招かないために、右下がりを採用したようである。実際、アメリカにおいてもファッション用でなく、正式な学校のスクール・タイは、英国式の斜線を使用する例が多い。
従って、米国式右下がりのストライプなら、英国でも、たとえどこかの団体のタイに似た色柄であっても「これは違うんです」と主張できるだろう。

④水玉ネクタイと「黒色ブーム」

水玉タイはなぜ格が高いのか

かつて、皇室の慶事があったときに、それを伝えた民放の男性アナウンサーがシックなダークスーツに、白のワイシャツ、紺地にピンドットつまりごく小さな水玉のネクタイで出演したところ、なんでも事を荒立てたい連中が「あんな喪服のような服装では皇室に不敬だ」などとネット上で騒ぎ立てたことがある。すると、かえってドレスコードをよく知る人たちから、「あれは通常の服装の中では準フォーマルな格好である。外交の場などでは格が高いとして推奨されるような着こなしである。批判する人の方が非常識だ」と反論されたことがあった。
それもそのはずで、ダークスーツに水玉、それも出来る限り小さな水玉のタイというのは、今のカジュアル化が進んだ社会では、ほとんど第一種礼装に近いとされている。いろいろ出回っている「おしゃれの常識」的ハンドブックのたぐいでも、よく書かれている。
その昔、万年いつでも水玉のネクタイを通した日本のある首相を、マスコミなどが「馬鹿の一つ覚え」と揶揄したことがあった。確かにいつでも同じ、というのは芸がなかったと思うが、しかし、一国の首相が常に水玉なのは国際的には的を射ており、決して非難されるべき筋合いのものではなかった。大事な会議に緑色や黄色のプリントタイなど締めていった別の首相のほうがよほどみっともないのである。イタリア元首相のベルルスコーニ氏など、その一辺倒のセンスがよかったかどうかはともかく、終始、マリネッラ・ナポリなどの水玉タイ一辺倒だった。
このように、とりあえず、どこに出ても恥ずかしくない服装、というと必ず出てくるのが「ダークスーツ」に「白いワイシャツ+紺地水玉のネクタイもしくはソリッド(模様なし)タイ」それに「ストレートチップの黒い靴」というものだ。先述のアナウンサー氏(あるいはその番組のスタイリスト)もおそらく、そのようなドレスコードを知っている人だろうから、足元は黒のストレートチップつまり、一文字キャップが爪先についたヒモ靴だったに違いない(映らないと思って油断すると、思わぬところからカメラの視界に入ってしまうので、おそらく手抜きはしないはずだ)。
上記のような服装に身を固めていれば、とりあえずどんな場所でも、特に服装既定がない限り、きちんと通用するという。だから新人外交官とか、商社の新入社員などはとにかく、国際舞台ではこんな格好をしていれば大丈夫、とレクチャーされるそうだ。ただし、それがどうしてか、という話などは一切ないという。それはそういうものだから、そういうものだ、というだけの話だ。
それにしても、ある程度は根拠がないものか。その点を考えてみよう。


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