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夜行堂奇譚 無料

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無料の作品をまとめてみました。 I've summarized a piece of free.
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#夜行堂奇譚

応報縛荷(おうほうばっか)

応報縛荷(おうほうばっか)

 きっかけは些細な口論だった。

 とある映画作品の挿入曲についての賛否を話していたのだが、私は結末を是とし、友人である彼はそれを頑として認めなかった。

 互いに酒が入っていたのも良くなかった。

 小さかった些細なすれ違いが加熱していき、あっという間に燃え上がってしまった。互いに引くことが出来ず、譲れないまま口論となり、最終的には掴み合いとなった。店で飲んでいれば止めてくれる第三者がいてくれた

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花鏡游月

花鏡游月

 この世の憂さを晴らそうと呑む酒ほど、虚しいものはない。

 酔いが覚めてしまえば、現実に打ちのめされるだけ。

 茹だるような夏の夜に、ひとり虚しく酒に溺れている自分が酷く情けなかった。恋人を作り、家族を設けている友人たちが立派な大人に見え、そうではない自分は子供のままのような気がしてならない。

 電信柱の影に蹲りながら、悪態を吐く自分の有り様が嫌になる。頭は痛むし、指先は痺れる。このまま死ん

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文交夜紗

文交夜紗

 私の元へ一枚の葉書が届いたのは、年が変わって久しい一月末日のことだった。
 文面には新年の挨拶と共に、去年の暮から入院していたという旨の内容が毛筆で記されていた。葉書の宛名には妻の名があり、差出人には『木山』とだけある。
 身内や親戚、知り合いに木山という苗字の者は思い当たらない。
 文面を読む限り、まだ妻が鬼籍に入ったことを知らないようだった。

 妻が亡くなったのは昨年の夏のことだ。春に体を

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黒椿翡章

黒椿翡章

 急に降ってきた雨から逃れるように、路地裏へ入り込んだのがいけなかったのか。いつの間にか迷ってしまい、入ってきた場所にも戻れなくなってしまった。
 屋敷町。古い武家屋敷の残る街並み。東西に近衛湖疎水の流れる、雨の似合う雅やかな街だ。
「おお、ありがたい」
 路地裏の先、少し開いた空間に一件の店が居を構えている。一見すると古い民家のようだが、よく見れば磨りガラスに屋号を記した紙が張り付いていた。夜行

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朗禍希読

朗禍希読

 夕刻。今日も1日の仕事を終えて、それなりに人の多い電車に揺られ、最寄り駅から家路につく。
 イヤホンからは好きなアーティストが、日常や社会へのやるせなさを歌詞に込めて歌っている。ぼんやりと空を見上げると、乱立する雑居ビルの合間から覗く狭い夜空が群青に染まっていた。雑踏を歩く人々に混じって、こうして歩いている自分がなんだか羊の群れの一匹になったような気になる。
「ただいま」
 一人暮らしなので返事

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誓華交暁

誓華交暁

 木山さんは屋敷町の外れ、千曲坂の近くに住んでいた。
  
 鬱蒼と茂った竹林の間にある小路を進むと、古い屋敷が見えてくる。竹林は暗く、笹が擦れる音がささやき声のように聞こえて気味が悪い。胸に抱いた風呂敷の中身を隠すように、私は身をかがめて小走りに駆けた。
 塀で囲まれた古い日本屋敷、その物々しさに思わず腰が引けてしまう。表札には『木山』とあり、門の脇には家紋の入った提灯が吊るされている。丸に百足

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玩鼠廻遊

玩鼠廻遊

 苔生した岩の間を淀みなく流れる清流を眺めながら、ぼんやりと缶コーヒーを啜る。遠く山間を彩るような紅葉が綺麗で、紅、黄色、緑。渓谷全体が鮮やかなパレットのようだった。
「微糖にしときゃよかったかな。苦ぇ」
 行儀悪くコーヒーを啜る俺のすぐ側で、大野木さんが水没した携帯電話を必死になって探している。この寒い中、膝まで浸かって携帯電話を探さなきゃならないとは公務員とは面倒な仕事だ。あれが私用の携帯なら

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竜雷時雨

竜雷時雨

 通筋町を南北に流れる、近衛湖疎水を歩いていた時のことだ。
 その日は朝から針のように細い雨がしきり降っていて、薄い窓ガラスを刺すように叩いた。
私は雨の日は必ず午前中の講義を休むことにしている。そうして、ぼんやりと疎水を沿って歩いて散歩を楽しむ。それが無趣味な私の数少ない楽しみだった。
そうして、ぼんやりと傘をさして雨道を歩いていると、不意に疎水の中を泳ぐ何かが見えた。立ち止まり、目を凝らすと、

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異端紫眼

異端紫眼

 幼い頃、祖母の家で遊んでいた私は手鏡を割ってしまい、砕けたガラスの欠片によって左目を失った。
 あまりに幼かったので、私自身は何も覚えていない。

 指で瞼の内に触れると、乾いた肉の感触だけが返ってくる。眼窩の中には何もない。時折、乾いた肉が痒くなることがある。そっと指を入れ、優しく掻くと奇妙な気持ちになった。
 ありもしない、左目でしか視えないものがある。
 それは決まって、鏡の中に棲んでいた

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山神蓮花

山神蓮花

 今から三年ほど前のことだ。
 当時、私は熊本県の某中学校の教師をしていた。
 私が赴任したのは宮崎県にほど近い片田舎で、全校生徒の数が百人にも満たない小さな学校だった。
 東京で生まれ育った私にとって九州に引っ越すことは不安に満ちたものだったが、村の人々は余所者の私にとてもよくしてくれた。炊事の不慣れな私に食事を差し入れてくれたり、近所での会合に誘ってくれるなど、細やかな心遣いが本当に嬉しかった

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仇暮討士

仇暮討士

 姉のいる座敷に近づく時には、必ず白い狗の面をつけなければいけない。
 それは私が物心ついた時から、亡き母に厳しく言い付けられていたことだ。
 面は紙製の鼻の尖った狗で、どことなく狐のようにも見えなくもない。口の部分が僅かに開いていて、そこから鋭い犬歯が覗く。古く、もう十年以上この面を使ってきた。
 面を被ると、視界が急に狭く、息苦しくなる。自分の息が顔に当たって不快だ。
 薄暗く長い廊下を照らす

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骨喰朽歯

骨喰朽歯

 私が生まれ育った町は炭坑の町として知られ、また大規模な炭鉱事故があったということで歴史に名を刻んでいる。ご存知の方も多いかもしれぬ。
 私が幼い頃には、既に炭坑は閉山し、炭坑夫だった人たちの殆どが町を離れてしまっていた。なので、私が事故のことを知ったたのは中学生にあがった頃だった。誰かに聞いたのではなく、私はたまたま他県の図書館でその資料を発見したのだ。
 今思えば、学校で勉強していたとしてもお

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幽黄昏迷

幽黄昏迷

 私の家は経済的に裕福な方ではなく、大学は奨学金を利用してなんとか入ることが出来たが、生活費はすべてアルバイトで稼ぐしかなかった。
 バイトの掛け持ちは当たり前、大学にいない時間の殆どがバイトで費やされた。大学生というと遊んでばかりというイメージがあるだろうが、私はその例に漏れるという苦学生だった。
 アルバイトの中でも特に時給がよかったのが居酒屋のバイトで、厨房で準社員なみの働きをしていたのでそ

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怨荒残仇

怨荒残仇

 気がつけば、見知らぬ天井を眺めていた。天井には黒い染みのようなものが斑に浮かんでいて、ひどく気味が悪い。頭がぼんやりとして、それ以上のことはなにも感じなかった。
 しばらくして、此処はどこだろうか、と思う。
 顔を横に動かすと、窓の外には殺風景な景色が広がっていて、なんだかとても寒々しかった。視線を動かすと、傍らには箱形の機械があって、俺の脈拍や血圧を測っているらしかった。
 ああ、ここは病院だ

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