そして船は沈む、分断と想像力の欠落の先に
悲劇以外の何者でも無いだろう。乗客乗員合わせて26名全員が消息を絶った、知床遊覧船沈没事故について。
この遊覧船会社の運営状況については、日々人々の怒りが駆り立てられる記事が流れ続けている。いずれもこの桂田精一社長の業務運営が、大事故を引き起こしたというシナリオだ。
その真偽については、いずれ国土交通省による調査や、司法の場において明らかになることだろうが、結論として「この社長は、遊覧船会社を買収、経営するべきでなかった」という一点においては、異論が無いことだろう。
そして、話題のこちらの記事について
親の観光事業を引き継ぎ、事業拡大の意欲を抱いた桂田氏が、小山昇氏のコンサルティングを受け、遊覧船事業に乗り出したことは、小山氏自身が執筆した記事より明らかとなっている。この記事は事故後、神速で削除されたが、復活を遂げるに至った。
小山氏率いる株式会社武蔵野の展開するコンサルティングサービスがどのようなものなのか、真偽不明なもののTwitterではこのような(かなり批判的な)報告が上がっている。いずれにせよ、まずは本人の著した本を分析することが必要であろう。
「人材戦略がすべてを解決する」
小山氏の80冊近い著作の中の、一冊を取り上げたい。退職者を思い止まらせる方法など、人材不足の時代背景をキャッチし、現実に自社の方針へ落とし込んでいるあたりは、さすがにベテランコンサルの本領発揮だ。
このあたりであろうか、武蔵野のコンサル先の企業で、日付が変わるまで店舗の掃除と整理整頓(環境整備と呼ぶらしい)をやらされた、などと怨嗟の声がTwitterではこだましているが、Twitter界隈は基本的に非言語的コミュニケーションを忌避する傾向が高いので、ある程度は差し引いてみる必要はあるだろう。
そして人材トレーニングについて、ワンパターンで同じ内容をどこまでも繰り返すことで、理解力に乏しい従業員であったとしても、会社のミッションを理解させることができ、それが会社の求心力となり、生産性を高めることができるのだという。コンサル先企業で、朝、社訓を大声で斉唱するのも、この考えの延長線にあるのだろう。
そして「社長の意のままに動く人材」である、ここは、社長の意図を理解し、現場に落とし込むといった抽象的な指針では無く、文字通りに従うことを意図していることは、強調しておきたい。
中小企業も、大企業も同じ社会で事業を行なっている。同じように会社を経営しているのであれば、資本力と動員力に優る大企業だけが生き残るだろう。しかしながら、日本社会の企業のほとんどは中小企業であり、労働力の2/3も中小企業で雇用されている。
中小企業を取り巻く環境について、いくつかの仮説が考えられる。
業界自体の稼ぎが悪く、大企業が乗り出さない
大企業が入り込めない小回りが求められる
地域の社会的ネットワークに組み込まれており、大企業であっても部外者が入れない
ここで、小回りの聞く経営について。大企業であれば通常、事前の調査をはじめ、案件の実現に際して関連部署のすり合わせが行われ、決定に至る。一連のプロセスにはどうしても時間がかかるが、小規模な企業であれば社長の一存で決定することができ、そのスピード感は、大企業に対する数少ないアドバンテージになり得るだろう。
ここからが問題となる。大企業ほどエリート人材を確保できているわけではない中小企業において、仮に社長が極めて慧眼で、有望な事業に着手していたとしても、それを現実に走らせる人材が不足している可能性が高い。
そこで、彼らのメゾッドが真価を発揮する
労働者自身が思考の範囲を限定、あるいは放棄し、盲目的に指導に従うことで得られるスピード感と実現力は、事業を、その社長の才覚のサイズまで成長させることができる。
さらに、アットホームな経営は、労働者の流動性を低下させることが出来るだろう。現職の人間関係が濃密であればあるほど、転職へのハードルが上がることとなる。従業員が今持っているスキルではなく、飲みニケーションとプライベートの完全把握、そして頻繁な人事異動による社員の一体化を通じ、全人的雇用関係を結ぶことは、合理的であるとも言える。
大企業においても、総合職正社員の人事ローテーションは、組織の一体化、スキルアップに資すると考えられており、幅広い企業で採用されていることは忘れてはならない。実のところ、これらのブラック企業化推進マニュアルも、ある種の合理性の産物と言えるのだ。
Twitterであげられた、いくつかの肯定的指摘について
取り組んでいる事業の収益性、給与水準、人材の質、いずれもが低い会社において、まっとうに事業を運営できる人材を確保することは、決して容易ではない。そして、あちらの世界では、コンプライアンスなどという戯言の向こう側の論理で経営することが求められているのだという。
「高学歴エリサーには決して見えない世界線」の論理と、零細企業を暗黒化するブラック化推進剤の果たす役割について、さらに分析を進めたい。
作者:続編記事を書きました(2022年5月8日)
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