ヤブ医者、プラセボ、クレベリン

「空間除菌」なる商品を売り出していた、製薬会社が大赤字を計上したという。どうやら、コロナを退治できると謳った、クレベリンなる製品の売れ行きはどこまでも伸びてゆくと、彼ら自身も考えていたようだ。

大幸薬品Webサイトより:https://www.seirogan.co.jp/ir/ir/highlights.html
灰色のハイライトは、彼らの絶望を示している

確かに、つい最近まで売り上げを伸ばしていたところから、このコロナの時勢において、除菌グッズの売れ行きが落ちる、というのはまさか、思いもよらなかったのだろう。自分の金であれば大切に使う、と世間では信じられているが、少なくとも彼らは、その製品へのプライドを、自身の赤字で示すこととなった。

結局のところ、科学的にはその製品の有効性は証明されなかったが、悪意を持って、効き目の疑わしい製品を世に出してはいなかったのだ。

謳われる薬効の是非ついては、医師や科学者の方々に委ねたいが、これよりもはるかに小さなスケールで、怪しげな商品を売り込む人々はつきることが無い。

奇妙なる塩教団について

なんと、塩教団によると、天然の塩にはナトリウムやカリウムといった人工生成物が含まれておらず、化学合成されて失われた天然のミネラルが含まれているため、飲めば飲むほど、かければかけるほど、料理の味が栄え、健康が得られるのだという。

透析患者に、塩を塗り込む塩教団の教徒
塩教団の塩には、カリウムは含まれない

この世は、明らかな嘘と、信じ込んでいる嘘、嘘か本当か分からないもの、という三要素で構成されている。

この塩教団の信者が、自分自身は降圧剤を処方されたとおりに服用し、塩分控えめの食事を取っているのであれば、単なる詐欺師である。しかしながら、彼は観察されるところ、毎日の食材を塩で彩り、あらゆる病苦を、塩をなめることで克服しようとしているようだ。

プラセボ、という「薬」が存在する。薬品の効き目を調べるために、被験者の一部に飲ませるという。「病は気から」との言葉のとおり、この薬は最新の研究で生み出された新薬だ、という説明書きだけで治る病気というものも存在し、その力が余りにも強いため、あえてプラセボの投与を行い、その効果を差し引いた上で、薬効を検証するのだという。

かつて「死」が日常であった時代において、僧侶たちが、その社会において高い地位を占めていた。しかしながら、死が遠ざけられたこの社会において、人々の健康への欲求は、医師という職業の地位を飛躍的に引き上げた。

さらに、昨今のコロナ渦において、医師たちの発言は、内政を大きく揺り動かすまでにいたった。外食業者や旅行業界の営業内容について、医学的見地から提案、すなわち指示を出すまでに至っている。

だが、彼らの発言は、本当に科学的なのか?
また、望ましいものだろうか?

個々の医師たちの判断に、われわれのような素人が、口を挟まないことが良いことは間違いないだろう。だが、寄り添ってくれる医師というものは存在する。長引くひどい風邪に、「風邪ですね」などというわかりきった答えでは無く、「感染症のむにゃむにゃかも」とかいって、どぎつい色の抗生物質をたんまり処方してくれる先生方である。

医者の立場になって考えてみよう

このような分析を行うにあたって、一方的な目線は禁物である。あなたは公立の小学校、あるいは中学校まで出ていたとすれば、少なくとも、100人同級生がいれば、上位5人の中に入るほど勉強ができたことだろう。しかも、開業医であるならば、世間の貧乏人と比較して何倍も稼いでいることだろう。

つまり、やってくる患者の平均を見れば、限りないアホの貧乏人の群れである

中には自分と同じぐらい頭の回る人間も来るかもしれないが、そういう人は自分の指示に食ってかかることもなく、慇懃丁寧に頭を下げて診察室を去って行く。その中で、怪しげな療法にこだわり、医者である自分のいうことを聞きもしない人間、それは途方もないアホであるに違いない。

実のところ、それは客観的にみても否定することはできない。健康に暮らしたいのであれば、あやしげな塩教団より、医者の言うことが概ね正しいに決まっているのだ。

何故、「私たち」が国家の非常時に、特別な処方箋を社会に対して用意しないのか?

日本が誇る感染症モデルの碩学、西浦博教授はオリンピック中に、以下の記事のコメントを載せていた

東京都内の夜間の人出を最低でも前回の緊急事態宣言並みに抑えないと、感染者は減らないとの試算を、京都大の西浦博教授がまとめた。前回は宣言から2週間後で5割ほど減ったが、今回は2割減にとどまっている。このままでは、感染者は増え続ける恐れがあるという。

https://digital.asahi.com/articles/ASP7Y5HRPP7YULBJ003.html

結論として、彼はその予想を外した。そのことについて、誰もとがめるこはできないだろう。自然科学においては、どのような学説も、仮説と検証のサイクルを回すことで進歩してゆくのだ。

しかしながら、彼は自説を変えていないようだ。

感染が急激に減少した要因について、厚生労働省の専門家会合のメンバーで京都大学の西浦博教授は「減少要因については現在、分析している途中で結果が出そろったところで説明ができればと思っている」とコメントしています。

そのうえで「1つ言えることは、連休などがあると1人から何人に感染させるかを示す指標の『実効再生産数』が上昇する傾向が見て取れ、緊急事態宣言の間でも上昇していた。ふだん会わない第3者と会う、遠出をして飲食するというような一人一人の接触行動が2次感染に寄与することは間違いないと考えている。今後、ワクチン接種が進んだとしても無秩序に接触が起これば必ず流行が起こると思う。冬に向けて準備が必要だ」と指摘しました。

https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/medical/detail/detail_176.html

無論、人は死なないに越したことが無い。しかし、どこまでその対価を払うことができるのか、という点については、誰にも明確な答えは存在しない。現にこの世の中には大勢の喫煙者が存在する。人生のプライオリティは、決して健康と長寿だけでは無いのだ。

コロナの2年間を経て、婚姻数が急減しているという。結婚する主な年齢層が、仮にもれなくコロナに罹患したとしても、この病気の性質として死に至るケースはかなり希であっただろう。ましてや、婚姻数の減少に伴って、生まれなかった子供たちに、同情を寄せることもできない。

次の世代を育まない社会は、どのみち持続しない。聡明なる医師たちのおすすめする社会が望ましいかどうか、それは、われわれ自身が考えなければならない。私自身は、コロナに罹って医者にイベルメクチンを処方されれば、慇懃丁寧に頭を下げて診察室を出るが、飲みはしない。

「自粛の犠牲になる連中は、勉強ができなかったのだから自己責任」

著名なライターである、白饅頭氏に寄せられた、このマシュマロが本物か否かを、誰も判断することはできない。私自身も、虚構の医学部教授であって欲しいと願ってやまないが、仮に、彼らがそう思っているのであれば、なおのこと、われわれは自身の道を行くべきなのだ。

あなたは、目の前に居る白衣の先生に、敬意を抱いているかもしれない。だが、彼らから見たわたしたちは、アホな貧乏人か、とてつもない阿呆のいずれかでしか無いのだから。



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