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清々しくも儚く、でも強固な祖父と孫娘の絆。

ハッピーエンド

ミヒャエル・ハネケ。私は彼の作品が好きだとは決して言えない。だけど、いつも私の心に棘が釘が刺さるかのように、何かを残す作品が多い。

心を揺さぶるのとも違う。考えを一方的に突きつける訳でもない。人の心の奥底に潜む、誰もが見たくもなく、気づかないフリをして通り過ぎている何かを見せつけてくるのだ、ジワジワと。それはとても居心地が悪くなるばかりで。

今回もそうだ。

建設会社を経営し、豪華な邸宅に3世代で暮らすロラン一家。家長のジョルジュは高齢のためすでに引退し、娘のアンヌが家業を継いでいた。アンヌの弟で医者のトマには、別れた前妻との子で13歳になる娘エヴがおり、両親の離婚のために離れて暮らしていたエヴは、ある事件をきっかけにトマと一緒に暮らすためカレーの屋敷に呼び寄せられる。それぞれが秘密を抱え、互いに無関心な家族の中で、85歳のジョルジュは13歳のエヴにある秘密を打ち明けるが……。(映画.comより転記)

これは、紛れもなく家族の物語であるが、様々な問題を孕んでいる。人生の終焉を迎えるためにある決心をしたジョルジュに、母が自死を遂げ、飼ってるペットを死に至らしめたり、自身も死を選んでみたりと、誰よりも若いのに常に死と隣り合わせにいるエヴ。

この祖父と孫娘の間には世間一般でいう家族の絆と言うよりは、互いの秘密を共有している相棒のような雰囲気が漂っている。そして、彼らを取り巻く他の家族は、二人が抱えている闇に気づいているようで、自分のことで精一杯で、見ようともしていない。それがラストまで、ひたすら続く。

とにかく二人とも、孤独なのだ。そばにいてくれる「誰か」がいるのに、どちらも誰にも頼ろうとしない。

「ハッピーエンド」というタイトルは逆説的であり、皮肉でしかない。だけど、それ以上に空と海は清々しく青く、まさに「ハッピーエンド」に相応しい。

空の青も海の青も、ディープブルーではない。深くも濃くもない。それは、ジョルジュとエヴの関係を表しているように思えてくる。薄くて、少しくぐもっていて、サラリとした風が吹いている。周りからは見えないけれど、それはとても強いつながり…。

ジョルジュとエヴ以外の登場人物は、なんて言うか茶番劇の見世物にしか見えない。滑稽で哀しすぎる。それをイザベル・ユペールやマチュー・カソヴィッツに演じさせるハネケがまたすごい。演じようとした俳優陣にもある種の敬意を表したい。

ってめっちゃ上から目線なレビューですけど、終始不協和で埋め尽くされたこの映画を、好きになるとしたら、エヴが涙を流すシーンと、ジョルジュが孫娘に「伝える」シーンと、ラストだけなのです。

エヴの従兄のピエールのどうしようもなさとかアンヌの息子を心配しているようで、果てしなく無関心でいるところとかトマのチャット上の性癖とか、マジでどうでもいい。

なかなか書きたいことを書けたと思えないレビューだけども、ハネケの映画を見た後はいつだってそんな気分になる。一番大切だったこと、言いたかったことって何だったのかなって。すごく時間をかけて考え込んで、でも答えは出せずに。

2018年23本目。シネリーブル梅田にて。

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