Abema TV「若者のゼロリスク志向」の感想

偶然見つけた番組であるが非常に興味深い話をしていたのでその感想を書いてみようと思う。


恋愛だけでなく、出世、ファスト映画、食事する店のレビューなど、今の20代の若者はとにかく「失敗」、「損」を恐れる考えがあり、万が一にもそれをしてしまうと自分の存在そのものが否定されたような感覚に陥ってしまう。故に最初からリスクをとらない選択をする、という旨の話だ。

筆者も20代であるが、比較的リスクを取ることは苦に思わない性格だったのでこういう考えがあるのかという驚きがあった。

どうしてこんな考えになってしまうのか、筆者が思ったことは二つある。

ひとつは失敗した人をネット上に晒し皆で批判する行為を繰り返してきたことだ。今やSNSでは風物詩だが、それが本格的に普及する前からネット上では何らかのやらかしをした人をサイトに晒してはみんなで嘲笑したり袋叩きにする事が繰り返されてきた。今の20代はそういった光景をずっと見てきて育ってきたので、「失敗したら一環の終わり、人生終了」という考えが刷り込まれていても何らおかしくはない。

もう一つは社会全体で人権意識や倫理観が高まりすぎたことによる要因である。暴力や差別、中傷などの悪いことを社会から排除したことで、表面上は快適な社会になったものの、一方でそこで暮らす人は品行方正で清廉潔白な「いい子」でなければいけない圧力が自然とかかるようになった。

また、学校教育においても「人を傷つける、嫌がるような事はしない」という教育がいじめの対策も兼ねて広められた。しかしそれが若者に対して、他人との関わり合いで失敗した時に「人を傷つけた、嫌な思いをさせた、迷惑をかけた、そんな自分はダメな人間なんだ」という意識を持ちやすくしてしまった。結果として仕事でやらかしたらすぐ転職といった逃げの姿勢をとったり、昇進や恋愛のような人との関わり合いで傷付ける要因を最初から回避したり、といった形で自尊心を守ろうとする人が現れた。番組内でも「失敗して傷つきたくないから最初からしない」と答える若者が出ていたが、厳密には「他人を傷付けた自分が傷付きたくない」と言った方が正しいように思う。

いわゆる潔癖主義の社会になったのだ。そんな社会だと失敗しただけで社会に居場所がなくなるような絶望感に襲われるのも自然なことである。特に恋愛面では告白は勿論のこと、異性に対して性的なまなざしを向けるだけでも「悪いこと、下品なこと」をしているという意識が出てしまい、手を出すことに消極的になってしまう。特にハラスメントに過敏になっている状況ではそうなるのも無理はない。

これは以前白饅頭氏が記事にしていた「善性」の話も関わってくると思われる。

社会全体を正しく”アップデート”し、社会にふさわしくない者を排除し続けた結果として若者が失敗を極度に恐れる社会になった、というのが筆者の考えだ。

・成田氏の見解


一方で番組に出演していた成田悠輔氏の見解も面白かったのでまとめてみようと思う。

「選択肢が少ない時代だとリスクをとって生きるしかなかった。今は便利で快適に暮らせるようになったのでリスクを取らなくても幸せに生きていけるようになった」

「恋愛の仕組みは100年ほど進化していない。それをやるくらいなら進化した娯楽に打ち込む方が良い。時代の変化によって昭和の対価が対価として機能しなくなった」

「リターンやリスクを考えない時代や生き方を模索する実験をしてみてはどうだろうか」

番組内の発言を要約

確かにありうる話だなとは思った。

ひとりでも快適に、幸せに生きられる社会だとわざわざリスクをとってまで恋愛や出世といったものに手を出す必要がない。むしろ手軽に楽しめる娯楽と比較するとコスパが悪く見えてしまう。また、社会も技術も"スマート"な方向に変化しているのと比べると、目標の為に泥臭く頑張る事は「スマートでなくカッコ悪い」という意識を持つ人も出てくるだろう。

筆者はそういった楽しみ方ではいずれ虚無に陥ると自分の体験を持って感じているのであまり賛同はできないのだが、趣味の内容や都会で何不自由なく暮らせる環境に住んでいるなどの条件があるとそういった考えが出てくるのかもしれない。(実際、インタビューで登場した場所も秋葉原だった)

そして、選択肢が多いか少ないか、というのは割と重要かもと思った。今の世の中は娯楽も多様化し価値観も多様性を受け入れる方向だ。そうなると恋愛も出世も数ある選択肢のうちの一つとしかみなされなくなり、それをやらなければ社会でまともに生きていけないという考えはなくなる。となれば、無理してまでやる意味なくない?という考えになるのは自然である。

正に個人主義の極み、と言った感じであり、共同体主義でみんな共通の考えを持つ社会の方が安定感や持続性は高かったのだなと思わされる。同時に、筆者が比較的リスクをとることを恐れないのは、キャリアにしろ交友関係にしろ「失うものが無い」状態に近く選択肢が少なかったから、なのかもしれないと感じた。

一方で動画のコメント欄もそうなのだが、この現状を「メリットないんだから、そういう世の中なんだから仕方ない」で終わらせてしまっているのが気になる。少子化についても成田氏は「それは自然なこと」で終わりだ。あくまで自分や個人のレイヤーでこの問題を見ていて、社会や国全体のレイヤーでどういった問題が起きるのかを見ていないように感じる。個人が自由で快適に生きるには社会が豊かで基盤がしっかりしている必要があるはずなのだが、若い人が皆リスク回避志向になればそれが無くなるかもしれない。そのことについてどう考えているのだろうか。

・番組を見て出た結論


3つある。

・リスクを恐れて行動しない人が増えている分、そのリスクを果敢に取ることが出来る人にとっては今は大チャンスの時である。仕事では出世できる可能性が高いし、恋愛では魅力的な異性と出会って付き合いやすくなっている。勿論自身の努力は必要ではあるが、競争率が下がっている分より良い結果やリターンを得られる可能性がある。少しでも人生を良くしたいと考えている人は今が行動すべき時である。

・時代や社会の変化によってこれまで当たり前に取れていたリスクが取れなくなっている、そのせいで若者が行動できなくなっていることを社会や大人が認識し、若者をサポートしていく必要がある。恋愛であれば自由恋愛ではなくお見合いによって結婚できるように環境を整えたり、仕事なら報酬を増やして出世のメリットを増やす、または仕事の負担を減らして出世のデメリットをなくす、といった具合にである。若者個人の努力に全て委ねる今までのやり方では限界があるので、大人がサポートすることによってリスクを取らなくても若者が行動できるようにするべきである。

リスクがあるからと何も行動を起こさないのも別の面でリスクであることを若者に伝えていく必要がある。特に恋愛面では、「一生独りで気楽に生きていく」と考えていても、中年、老人になった際に同じような考えを持ち続けられるとは限らない。そして後悔しても取り返しは付かないという事実がある。実際そのリスクを軽く見て悲惨な末路をたどっている先人たちが大勢いる。これらのことを絶えず発信する。なにもリスクを取らずに済む生き方などないことを若者に伝え、正しくリスクをとれるように促すべきである。


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