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気軽に会えるからこそ妥協できない ~マッチングアプリは非婚化推進ツール~


だいぶ前にこの記事を見かけ、いずれ記事にして感想を書こうと思っていた。それから他の記事を先に出したりして後回しになっていたが、先日白饅頭氏の出した記事が正に自分の言いたかったことと一致していたので、それも踏まえて書くことにした。


文中より、いくつか気になった文を抜き出してみる。

Sさんも婚活を始める前には、好みの男性の容姿や結婚相手に求める希望条件が、おぼろげながらにあったはずです。ところが、一日100件単位で申し込み数が増えていくと、「いいね!」をくれた男性会員のプロフィールを吟味して選ぶことが不可能になっていきます。最終的には、「いいね!」の一覧表に並ぶデータのうち「写真」が最も目立つ=見た目の良い男性を選び、マッチングしていくようになりました。

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関係性が存在しない状態で条件だけで無限にマッチングする機会を与える「婚活市場」という仕組みは、異性を「とりあえずわかりやすい優位性=容姿」で選ぶ傾向だけでなく、マッチングした後は「条件面でバッチリなのに、○○が合わない」という形で相手を減点評価するという傾向、を生み出す力学を持っていると言えるかもしれません。

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確かに、マッチング・アプリ上で相手の細かな趣味趣向は事前にわからないわけですから、婚活男性は自分の権利の範囲で手に届く全ての婚活女性に「いいね!」を申し込む、ショットガン・アプローチを実践していくことが合理的に見えます。
しかし、多くの婚活男性がショットガン・アプローチを実行しているため、多くの婚活女性は、「選択することすら出来ないほどの申込み」に溺れてしまい、「一見して分かりやすい価値=容姿」において優れたイケメンからの申込みを優先的に受諾していく訳です。

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婚活という概念が提唱された時点から推奨されてきた「出会いの回数を増やす=成婚の可能性を高める」という前提と、その前提に基づく婚活男性のショットガン・アプローチのような婚活戦略そのものが、実は婚活女性の「選り好み」という反作用を生み出している、と言えるかもしれません。
そして、Sさんの卒論を読み解いていくと、婚活男性のみならず、業界全体で「当たり前」と信じて実践されている婚活戦略が、婚活の困難を産み出してしまっていることが、明らかになっていくのです。

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恋愛や結婚できない要因の一つとして「出会いがない」というのはよく言われる。その為、婚活等で出会いの機会を増やすことが、それらの問題解決とその先の少子化対策になる、と言われることも多い。

だが実際には出会いの数があまりにも多いと、ひとりひとりがどんな人で自分に合っているか、しっかり向き合うことは難しい。引用文にもある通り、商品を選別して選びだすような形で相手探しをすることになり、自分が合わないと思った人を容赦なく切り捨てていくことになる。その為、容姿や年収、年齢、趣味等のプロフィールに書かれた「肩書き」だけで大多数の人を落とすことになり、結果的にぱっと見で魅力を感じるハイスペックな人を選ぶことになる。

それが顕著なのは、言うまでもなく婚活で選ぶ側になる女性だ。多数の人から申し込みがある中で選ぶことになるので、選定基準に合っているかの選り好みが自然と激しくなってしまう。人柄の良い人や本当は自分と相性のいい人からアプローチがあっても、自分の設けた高い水準をクリアしていなければ断り、出会っても少しでも不満があれば関係を進展させない。仮に今「いい人」がいなくても、時間が経てば、場所を変えればもっといい相手に出会えるかもしれないと考え、今は独り身の方がまだマシと考えてしまう。その結果、出会いは沢山あるのに恋愛、結婚に至らないのである。


引用記事の続きである以下の記事でも以下のように触れられている。

職場や学校、サークルといった長期的な人間関係を前提とした出会いでは、互いの趣味趣向を学び、受け入れていく時間があります。

しかし婚活市場とは、決まった指標のもとで人々をデータベース化していくことで、既存の関係の延長線上では出会うことがない男女に、しがらみのない形で出会う機会を与えてくれる場です。ここではお互いの趣味趣向を事前に学び、受け入れるという関係性が存在しません。

だから、少しでも出会いの成就、つまり恋愛関係の成立とその先の結婚の可能性をあげていくため、「こうすれば選んでもらえる」と自分に言い聞かせる際に、「モノ化」された男性像/女性像が必要になるわけです。

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私個人としては、互いの趣向を学び受け入れていくことが「愛」だと思いますが、「モノ化」された男性像/女性像を前提とした婚活戦略では、その像からの些細な違いを学び受け入れる=愛が発生する前に、「想定通りの結果が得られないエラー」として切り捨てて、好ましい反応をしてくれる人を探し続ける方が効率的になります。これが、婚活の困難を生み出しているのかもしれません。

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過去の日本では、お見合いや職場恋愛といった共同体の中で相手を選び、時には周りのサポートも受けながら関係の発展や婚姻に至る仕組みが形成されていた。その為、第一印象がそれほどでも、交流を深めていくうちに相手の良さに気づいて良好な関係を築くことが出来た。

しかし、その仕組みも個人主義の推進と不快なものはハラスメントの風潮によりことごとく解体された。自分を保護してくれていた枠組みが無くなった人たちは出会いの場として用意された市場の中に身を投じ、商品として彷徨うしかなくなった。商品である以上、最初から一定の品質を保っていなければ見向きもされず選ばれもしない状態である。

これらの問題が、自由恋愛の弊害として既にツイッター上では語りつくされているわけだが、これがマッチングアプリという、より手軽に気軽に相手探しができるツールが開発されたことで一層エスカレートしているという訳である。

・自由競争の極地


筆者はマッチングアプリは使うかどうか検討しただけで実際には使っていないが、一応アプリによって目的や用途が差別化されている事は伺っている。中には真剣な婚活の場として出会いの場を提供しているアプリもあるようである。

しかしそうはいっても、結局は仲介人や相談者を挟まずに当事者同士が自由に相手を選んでは切り捨てる自由恋愛市場であることには違いない。むしろ、大量に表示される登録者を実際に出会うことなく、会話することもなく選び出すのだから一層選別することへの抵抗が少なくなる。少しでもスペックで不利なら選ばれない、出会えても少しでも相手の癪に障れば振られて終わり、自分の欲望と要求を満たしてくれる理想の相手に会えるまで出会っては別れるを延々と繰り返す…まさに恋愛自由競争の極地とも言えるツールだ。よほどコミュ力が高いか、人と付き合うのが楽しい人でもなければ環境が過酷すぎて耐えられない。絶望している人が大勢いるのが容易に想像できる。

そんな環境なので、当然登録者の振る舞いも粗雑なものになり、モラルハザードが起きるわけである。アプリで知り合った女性から突然何の連絡もなしにブロックされた、なんて悲痛な話はよく聞くが、気軽に登録や出会いが出来る分、相手を拒否したりお断りするのも抵抗が生じにくいという事である。自由過ぎて常識をわきまえることすらも忘れさせてしまうのである。


・ハイスぺ男性以外全員不幸


また、アプリに登録している男性には遊び目的や多股を隠して登録している男性も多くいる。ネットで知り合ったという夫婦は近年急増しているが、交際の段階でネットで知り合った人は男性が11.9%、女性が17.9%と差がある。男性の中に複数の女性と同時交際している者が紛れている可能性が高い。

16回 出生動向調査より「異性の交際相手と知り合ったきっかけ」
同出生動向調査より「夫と妻が知り合ったきっかけの構成割合」
ネットで知り合った夫婦の数が急増している事が分かる。


交際の段階では多股交際が出来ても、最終的に結婚できるのは一組、つまりハイスぺ男性に対してひとりの女性しか選ばれない。残りの女性は問答無用でリリースされるが、交際の月日が長引くほど加齢により女性が恋愛市場でモテる可能性は下がっていくので当然結婚からも遠ざかってしまう。

更にハイスぺ男性と交際した女性はその経験からハイスぺ男性のスペックや振る舞いが男性に求める水準として設定される。そしてその思い出が忘れられず、本当は身の丈に合った人でも容赦なく蹴落とし見下すようになるし、ネットでは「男なら〇〇して当然」「〇〇できない男なんかクソ!」と悪態付くようになる。

加齢と市場価値に見合わない要求の高さによって、求める男性との出会いは難しくなり、価値に見合った男性と出会っても妥協することが容易ではないので、リリースされた女性たちは結局結婚できないまま適齢期を過ぎてしまう。饅頭氏の記事によれば東京をはじめ、都会ではこうした現象が立て続けに起きているようである。


そして、以上これらの仕組みはハイスぺでない一般男性、弱者男性にとっても大いに問題である。


ハイスぺ男性による女性の総取りと女性からの高い要求によって、真面目に働いていて性格も悪くない「ふつうの人」であっても選ばれなくなってしまうからである。男性でも婚活の場において多少の選り好みはするであろうが、女性とは程度が比べ物にならない、少なくとも女性のように多数の人から申し込みがあって選ぶのに困る、なんてことはよっぽどない。それがあったらハイスぺを名乗れる。

多くの男性たちはどれだけ努力してもアプローチしても断られ、拒否され心に傷を負いながら婚活をせざるを得ない状況に追い込まれており、ついには疲れて諦めてしまう人も続出する。また、女性たちの粗雑な行動や言動を見て恋愛も結婚もハードルが高いと感じ、最初から手を出さない、降りてしまう人も出てくる。結果的に多くの男性が結婚しない、結婚できない事態になる。


こうしてハイスぺ男性以外の男性とハイスぺ男性に選ばれなかった女性が全員不幸になってしまうのが自由恋愛社会の姿である。そして、今それを促しているものがマッチングアプリという事になる。唯一の勝ち組であるハイスぺ男性も人によっては相手に困らないからと結婚しないので、社会全体で非婚化が進んでいくことになる。


・ではどうすればいいのか?


マッチングアプリは使わない、お見合いや職場、知人からの紹介など真っ当な方法で出会う、それに尽きる。


しかし、サービスがそこに存在している以上、誘惑に負けて利用する人は大勢現れる。その為、マッチングアプリのリスクについて啓発活動をやっていく必要があるだろう。例えば、LINEはじめSNSのリスクについて社会全体で注意を促す取り組みをやっているように。デジタル社会故の問題とも言えるので、それに即した啓発活動や注意喚起をやっていくことが不幸になる人を減らすと考える。


※2022/10/13 加筆修正しました。

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