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短編小説

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#純文学

【短編小説】罠

【短編小説】罠

   1

 ええ、ずうっと先まで蜜柑畑でした。よく覚えています。私は二、三個失敬してモグモグやっていました。そうして自動車が一台、やっと通れるくらいの道を歩いていたんです。朝から、なにも食べていませんでした。しかし、だからといってそんなに腹が減っていたわけでもないんです。
 ただ蜜柑が生ってっていたから食べていた。

   2

 女の子はびっこを引いていました。
 華奢なその体は、背中のランド

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【短編小説】食卓

【短編小説】食卓

 ゆっくりと左足を上げる。軸になる右足は、投げる方向につま先が直角になるよう踏み込んでいる。後ろに引いた右手の肘は、これも直角に曲げ、肩より下げない。投げる方向にグラブをはめた左手がまっすぐに伸びている。小指は上を向き、掌は外に向いている。胸を張り、腰を切り、肘からしなるように投げる。右手は、時計の2時の高さから7時の低さに振られていく。同時に左手は体に引きつけ、投げ終わった後、肘が三角に体の後に

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