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なぜ計画を作るか?それは自分たちの未来を見えるようにするため|2024スプラウト壱岐商業高校④

早いもので7月に入りました。大学は間もなく定期試験,高校,特に3年生は最後の大会ということで部活を頑張る時期。『スプラウト』的には夏休みにマルシェがいくつか予定されていたり,後期(中高では2学期)に向けた仕込みを進めなければならないタイミング。

2024年度各地域で行われるスプラウト。

高大連携アントレプレナーシップ教育プログラム『スプラウト』は,2024年度に新たに熊本県人吉市,苓北町と鹿児島県鹿児島市,そして初の本州で島根県出雲市での展開が決まっています。このうち,人吉市では「ひとよし球磨起業体験プログラム」としてすでにプログラムが始まっているし,出雲市は8月,苓北町や鹿児島市は9月から講義が始まります。

プログラムに関わる学生たちも学業や恋愛,アルバイトやサークル活動等と並行してスプラウトの活動を頑張ってくれており,秋は毎週のようにどこかに出かけるスケジュールになっています。まだ増えるとしたらどうなるんだろうか。仲間を増やしていかねばなぁ…。

さて,今回の記事は4月末から講義を進めてきた壱岐商業高校での授業。すでに3回の授業を進め,今日は第4回。プログラム全体の構成からすると,マルシェ(店舗運営実践)前の最後の授業。ここで一旦到達度合いを測定するタイミングです。

今回の授業テーマは計画の具体化ということで,会計数値を用いて差別化あるいはコストリーダーシップの戦略を表現しつつ,自分たちに何ができるかを詰めていくフェーズ。高校生たちはこのあと8月の登校日,2学期早々にオンライン講義を行って,9月7日(土)に壱岐・勝本で開催予定のマルシェの開催に向けた準備を進めていきます。

では,どんな授業になったのでしょうか。その模様をお伝えします。これまでの授業の様子はこちらのマガジンから。

前半:経営を会計で理解する意味を伝える

このプログラムで高校生に最も伝えたいのは「企業活動の意義は付加価値の創造と分配」ということ。そして,その付加価値の分配を行うことで地域が潤うということ。その担い手に高校生がなり得るということ。

簡単に言えば,「コンビニで買い物したら富が外に出ちゃうから,君たちが商売すれば良いのよ!楽しいこと,自分たちでやっちゃえば!」である。

これを伝えるためにここまで3回の講義では,①一歩踏み出す勇気としてのアントレプレナーシップとチームで成果を実現するコレクティブ・ジーニアスを説明し,②そもそも事業を行う目的としての経営理念と組織としての方向づけ=成果を定義づける経営戦略,③チームで成果を実現するための組織的活動と個人のあり方をテーマとしている。

そして,今回はそうして行われる企業活動の成果を貨幣的価値で表現する会計のお話。ここでポイントになるのは成果測定だけでなく,計画を作る,自分たちの進むべき方向を定める上でも会計を知っておく意味があるということ。ここでは商業高校に在学中の高校生に対して話をしているので「簿記」については認識・理解がある程度あるものの,それを実務においてどう使うかまでは十分に理解しているわけではない。加えて,実際に自分たちでビジネスをしたことがないのだから,簿記?会計?計画?となるのが普通だろう。

金額表示をする理由は他にもあるが,まずは成果を数字て測定する意味を説明する。

今回の授業は,簿記や会計に対する一般的なイメージからスタートして9月に開催するマルシェに向けての計画を作るというもの。これをするには少々ジャンプが必要でもある。が,それでも授業はそもそも論からスタートする。

記録を録ることで「未来の進むべき方向」が見える。これ極めて重要。

スライドは昨年主に担当した学生が作成したものだが,この会計の役割の説明はよくできていると思う。「帳簿に過去を記録し,現在を知って,未来の進むべき方向を定めることができる」というのはまさにそう。記録があるから過去を知り,未来を見通すことができる。

記録を録る=未来を見通す。それが経営計画になる。

その記録から過去のパターンを見出し,未来のありたい姿に想像を巡らす。そのありたい姿を精緻化し,数値や言葉で表現したものが計画であると。ここで今回授業を担当した学生は,身体を鍛えることが好きで「ここの筋肉をもう少しつけたい」「だから,こんなトレーニングをしよう」「食事もこうしよう」みたいなことを考えているという説明をしてくれた。それが体重だったり,体脂肪率だったりするわけで,数字とイメージと実態が結びつく良い例を出してくれた。単純かもしれないが,こうした高校生でもパッとイメージができる例が出せるかどうかというのはとても重要だと思う。

改めて企業が利益を生み出す理由を説明する。

こうした回り道をしながら,改めて企業の目的に立ち返る。ありたい姿としての理念を実現すること,企業として存続を続けること。そして,今回の授業では主に会計が企業経営に果たす役割を講じながら,理念→戦略→計画という一連のプロセスの理解を深める,貨幣的価値=会計を用いてそれを表現する意義を理解できるように導くことをゴールとして設定した。

改めて付加価値概念を説明する。

つまり,今回はこれまでの授業で学んできたことを回収することがテーマであり,頭の中で目に見えている事業の実態とそれを貨幣的価値で表現する数字の動きを照らし合わせながら考えられるようになるということがテーマにもなる。

さらに授業ではいずれかの戦略を実行するためにどのような仕組みづくりを行うかという意味で,マネジメント・コントロール・システム(MCS)についても簡単に説明する。要するに,差別化を図るための戦略に必要な組織成員を動機づける仕組みと,コストリーダーシップで効率性を重視する戦略で求められる動機付けの仕組みは異なるということをである。ここまで来ると応用編になるが,こうした知識を知っておくことによって,マルシェ当日で自分が何をなすべきかをある程度理解して行動することができるであろう。

ここまでのまとめ。

こうして前半が終了。依然として,一般用語ととしての「付加価値」と会計的概念としての「付加価値」が混ざった状態であったり,MCSの説明を効率性の文脈だけでしてしまっているなどの問題はあるが,授業そのものはワークを含めてしっかりとできていたのではないか。悪くはない。

後半:「計画を作る」ことは難しい。

さて,後半。今回は「マルシェの計画策定」が裏テーマとしてあるわけだが,果たしてそこまで届くか。授業では戦略→計画と進めるステップとして,複数のワークを進めていく。

いよいよ計画策定。

ここで計画の定義。計画とは戦略を実行するための具体的な経営計画とここでは定められているが,要するに「一体何をやるの?」「何を目標にするの?」である。ただ,ここでも上図にあるように経営理念からスタートするので,高校生にはマルシェを行う目的としての経営理念を起点に,どういうイベントや出店品目を選択し,場作りをしてどんなお客様に来場して欲しいか,どうすれば成功なのかを感覚的にも金銭的にも表現することを求めていく。果たして今回の授業だけでそこまで進めるのだろうか。

定番のお祭りワークだが。

そこで今回もお祭りでの出店を題材にしたワークを実施することにした。お題は上記の通り。そして,周辺に競合となる店舗がある中で,自分たちはどのような戦略(差別化?コストリーダーシップ?)をもとに何をいくらで販売するかということを議論してもらう。

こうしたワークは高校生もさまざまな意見を出しやすいし,大学生とも話がたいへん盛り上がったようだ。これまでの関係性がそうさせているということであろうが,果たして議論がどこまで深まっているのか。

ワーク終了後,2つのグループから報告があった。今回は2つのチームともにベビーカステラを商材とした。

ただし,1つは「7つで300円のコストリーダーシップ戦略」と回答し,もう1つは「15個で300円の差別化戦略」と回答。

一瞬「ん?」となった。金額だけ=安いという意味でそのように述べているのか,それとも他者と異なるものを売っているという意味で「差別化」と述べているのか。正直わからなかった。そのまま授業を進められないので,ここで高校生に私から質問してみた。

前者の場合は周辺の店舗に比して低価格で販売しているということに焦点を置き,後者の場合は原価を調べ,15個でも300円にすると十分な(会計的な)付加価値があるのでそのようにしたと。

確かに間違えていない。どちらも正解だし,条件設定の甘さがそのような回答を導いてしまったと言えるかもしれない。あとのふりかえりでも大学生からの報告でもなされたように,高校生たちは授業の内容を理解しているからこその回答であったのではないかと。つまり,文面と授業内容を正しく理解し,与えられたお題を解いたらそのようになったということ。

ただし,ここで課題だなと私が感じたのは,高校生が普段見ているもの,買い物をしているもので「どれくらいが高い」「どれくらいが安い」という基準が弱い(端的に言えば価格が低い)ということなのだろう。ま,それはそうなのだ。

一方で,こうしたマインドセットを切り替えて,価値を生み出すこと,ビジネスを行うことの意味を理解して,将来のキャリアを考えられるように導くことが「スプラウト」を行う意味なのだから,こうした授業が果たす役割はやっぱり大きい。

このようなワークを実施して,いよいよ最後にマルシェの経営計画を策定する時間に。しかし,その前に改めて高校生に問う。

なぜやるの?どうやるの?どんな場所にしたいの?誰に来て欲しい?

さらにワークで話し合って欲しい内容。

こんなことを立て続けに聞かれたら,鬱になりそう。が,高校生たちは一生懸命考えてきてくれている。わたしたちの授業と授業の合間の高校生と先生だけの時間の際に。本当に嬉しいことだ。

こうした積み重ねを経てはいても,今回は詳細な販売計画,目標(ノルマ)を決めるところまでは進まなさそうなので,とりあえず理念をもとにそれぞれのグループで目標売上高,すなわち来場者数と客単価を決めようということになった。

ちなみに,高校生による今回のマルシェの経営理念は「人との交流の場を作り、利益を生み出す」といったもので,交流の場をどう作るかということと,経済的にも儲ける機会にするという。これを高校生が貨幣的価値で表現するとなるとどうなるのだろうか。15分程のワークで話し合いがもたれた。

さあ,マルシェの経営計画を作ろう。

あるグループは50万円。500人×1,000円を目標にすると。もう1つのグループは,400人×2,000円で80万円を目標にしたいと。これはいずれも昨年の目標を上回るものであるが,かなり意欲的な目標だと言える。

本来であれば,ここから更に話を深めて,具体的にどのような店舗に出店をしてもらい,それぞれがいくらの売上を上げる見込みで,どのような顧客像が来場するのか,そのために何を具体的な方策として手を打つのかといったところまで議論を進めたいのだが,そこまでには至らなかった。

ここでタイムアップ。今回の授業はここまでで終わった。

ふりかえり

100分の授業があっという間に終わったし,高校生の理解度の高さが確認できたということでは非常に意義深い授業になった。4回も授業を重ねてくれば,高校生も大学生もそれぞれ感覚が掴めているし,オンラインでも授業はそれなりに成立する。

ただし,このプログラムの目的は授業を成り立たせること,授業ごっこをすることではなく,高校生が自分自身のキャリアを考える機会とする,生まれ育った場所でビジネスを通じて価値を生み出すことにあるのだとしたら,もう少し熱量が欲しいかな。

ふりかえりでの学生の報告によれば,ワーク自体は非常に盛り上がったそうだが,今日の段階では「あんな事できたら良いよね」「あれもいいんじゃない!」「こんなこともできそうだよ!」のレベル感で終わった印象。正直,例年よりもペースが遅い。ただ,マルシェ自体が2週間遅れで実施されること,2学期が始まってから授業が1回予定されていること,夏休み中の登校日で議論を深められる可能性があること等を考えれば,まだまだブラッシュアップが可能。

ここで大学生がどこまでハンドリングできるか。まだ授業だけで精一杯な感じで,自分たちでマルシェのマネジメントも進めていくという感覚に乏しいことが気になる。わたしたちはお客様ではなくて,ともにマルシェを作り上げていく主体的な活動を行うメンバーであることをどこまで理解できているのか,ちょっと心配ではある。しかも,大学は間もなく前期講義が終了し,定期試験が始まる。それが終わって夏休みとなれば,学生はそれぞれの活動が中心になる。遠心力が働きやすい状況が生まれる。マルシェまであと2ヶ月。意外と準備時間がない。

計画を教えておきながら,大学生自身がマルシェまでどのようにスケジュールを設計し,成果の実現を図ることができるか。実は大学生側にもこのプログラムを通じて高校生に何を伝えたいのか,自分たちが壱岐とどう関わっていくのか,どのような仲間を呼び込んで高校生のサポートを行うのか,こうしたことをジブンゴト,圧倒的当事者意識で考えられるかどうかが鍵なような気もする(というか,人に授業をしていながら,実は自分たちのプロジェクト・マネジメント能力を高めようというのがこのスプラウトにおける大学生への教育目的。いや,プロジェクト形式で進める授業ってのは本来そういうものでもある)。頑張ってくれているのは言うまでもないが,このあたりが心配になるのは親心というか,単なる老婆心というところか。

果たして大学生はこのプログラムの「ありたい未来」をどのように計画しているのだろうか。それに向けて何をしようとしているのだろうか。授業ができるようになるだけでは不十分。マルシェを成功に導き,このプログラムの講義目標を形にするところまでが大学生側の「スプラウト」に関わる目的である。昨日のふりかえりの際にも話があったけど,今年は壱岐商業の受講生の中に本学商学部を目指している学生がいる。そういう意味でもロールモデルとしてバッチリやりましょう!

さ,今週末は「ひとよし球磨起業体験プログラム」の第3回講義。テーマは同じ内容だ。すでに大学生と高校生の間で役割分担が進んでいるとのことだが,果たしてどのような授業が行われるのだろうか。期待している。

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