課題と学び大きな実践経験を積んだ2日間|2022日田三隈高校×とびゼミコラボ授業③
気づけば8月に入りました。とにかく暑い日が続きますが、みなさんいかがお過ごしでしょうか。
新型コロナウィルスの第7波の影響がチラホラと出てき始めましたが、高大連携で進めているプログラムについては現在のところ制限なしで進めています。この8月は第1週に日田で、最終週に壱岐で販売実習が予定されています。協力してくれている学生にとっても大変な夏休みですが、高校生に少しでも今回の経験が活きるように良い機会を作れればと準備を進めています。
ということで、今回は昨日、今日と行われた日田三隈高校と進めているコラボ授業の実践プログラムについて報告します。日田三隈高校とのこれまでのプログラムについてはこちらのマガジンをご覧ください。
今回の実践プログラムの立て付け
日田三隈高校でのプログラムは、当地で高校生を中心にキャリア教育に取り組んでおられる一般社団法人NINAUの代表、岡野涼子さんからの依頼に基づき、同校の実践的授業の1つである「みんなが社長プロジェクト」の一環として行っている。2021年度は冬に行ったが、今年度は夏休みを活用しよう、高校生に少しでも早く経験を積んでキャリアに対する意識を持ってもらおうということで、この時期に開催することになった。
そこで6月と7月に2回の授業を実施し、8月の頭に2日間の出店、そして9月にふりかえりとして高校生によるプレゼンテーションが行われる。つまり、3回の座学と1回の実践で構成される立て付け。しかも、実践はカフェとアパレルの店舗運営を学ぶ仕組みに。高校生でもイメージしやすいとともに、これまでゼミの活動であったり、活動を支えてくださっている方々のご協力があって、このプログラムは成り立っている。
出店前のミーティング|商品開発と販売戦略を考える
そして、いよいよ出店を迎えた昨日(8/7)。学生のポップアップカフェBESIDE COFFEE STANDでもお世話になっているニコニコ交流館を舞台に、カフェと洋服店がオープンした。
午前中はそれぞれ研修のような形でプログラムが進む。カフェのプログラムに参加してくれた生徒7名は2つのグループに分かれて商品開発。2つのチームにそれぞれ1万円が出資金として渡され、この2日間に販売する商品を1から企画する。
その結果、Aチームはかき氷、Bチームはコーヒーを販売することに。隣接するドラッグストアへ商品仕入れに向かい、それぞれ必要な材料を仕入れたり、かき氷機のテスト運用をしたりと、出店に向けて準備を進める。
一方、アパレルはこれまで飯塚などで出店を行ってきたTANEMAKIのご協力によるもの。各地でプログラム化されてきた取り組みでもあり、テキパキと準備が進む。
彼らの活動は「働き方ワークショップ」という形になっていて、アパレルが好きになってもらいたいだけでなく、若い人たちが自分らしく働ける場づくりをどうすれば良いのか、必ずしもファッションに触れる機会が多いとは言えない地方都市で若い人たちに洋服を選ぶ楽しさを感じてもらいたいという立て付けになっている。
しかし、各地を巡って出店をするのだから、少なからず売上は必要になる。そのための目標管理シートを作成する。その点もしっかりと参加者に説明して出店をされている。単なる販売実習ではない。ちゃんとしたビジネスをやるのだ。
こういう取り組みはここ最近各地で行われているけれども、「アントレプレナーシップ」を学ぶ機会であって、「起業」はゴールではない。この点はアントレプレナーシップ教育研究で得られた知見をもとに、高校生にフィットしたカリキュラムにしている。日本的に言えば「キャリア教育」に近いものとも言えるのかも。
そうこうして準備万端。いよいよオープンを迎える。
1日目|思うように伸びない売り上げとふりかえりによる課題抽出
しかし、8月最初の土日であるにも関わらず、他の土日と全く変わらない人の流れ。日田駅前でお祭りが開催されるから多くの人が来るだろうと見込まれていたけれども、実はお祭りは15時開始だったってことがあとでわかったりと、事前の情報収集が足りていない。
おまけに、事前告知がほとんどなされておらず、来ると期待していた高校生が足を運ばない。日田には高校が4校あり、それぞれに一定数の生徒がいるにも関わらず、高校生の姿が全く見えない。確かにここに来ての新型コロナウィルスの影響は大きいのかもしれないが、それにしてもだ。正直厳しい展開が続く。
お客様が来店されてもどう声をかけて良いかがわからない、注文を受けても商品を間違えるなど、販売を始めて経験する高校生からすると何をどうしたら良いかわからなかったのだろう。実際にふりかえりでも「集客が全然できていなかったから、外を歩いているお客さんへの声かけ方やPOPをもう少しわかりやすいように工夫したい」であったり、「なかなか声かけることが難しい」との声が聞かれた。
一方、アパレル側も認知が広がっていない影響が大きく、こちらも売り上げが思うように伸びない時間帯が続いた。
そんな中でも、多くの生徒が参加してくれたこともあって、できることから手を打とうと、あれこれと工夫を始める。例えば、商品を使ったコーディネートや店舗内の様子を撮影し、それぞれの生徒がSNSで拡散することだったり、店内の商品紹介のためのPOPを作成するなど、あの手この手が打たれていた。
しかし、事前の告知不足の影響は否めず。初日は苦戦する結果となった。
そして、終了後のふりかえり。恐らく学生も何をどうふりかえれば良いのか困ったことだろう。創業体験プログラムであれば販売当日まで準備し、仮説的な予算と比較した予実分析をすれば良いのだが、今回は勝手が違う。それでいてアラをいくら取り上げて高校生に何もかも押し付けるのも違う。が、学生はしっかりと何を生徒に語れば良いのかを考えていたよう。次のような報告を得た。
あるいは別の大学生は次のようなコメントを残してくれました。
こうして見ると、大学生もしっかりしているなと思わずにはいられません。特にカフェで商品を出している2チームのうち、片方のチームは最初から付加価値の最大化を狙って1つ当たりの粗利が大きくなる商品開発を行っていたのに対し、もう1つのチームは低価格で薄利多売をせざるを得ないのに加えて、その商品を提供するために必要となる機械の利用にかかる固定費が重石になってしまうという対照的な店舗経営になってしまったのだそう。それでいて販売も伸びないから焦るのだろうけれども、大学生は冷静に現状を受け止め、高校生にかけるべき言葉をしっかりとかけていたことに成長を感じる。すばらしい。
また、高校生と何かをする難しさも感じていたよう。
今回のプログラムでも前回同様に、高校生にこちらから販売品目を提示し、自主的な参加を促したのだが、人数が多くなることによるハンドリングの難しさを感じる。本人はそんなことを考えていなくても、コミュニケーションを取る中で学生が見ている視点と高校生のそれが異なっていたりもするので何とも言えないが、あともう1日あれば高校生の動き方も変わったかもしれない。そうしたまだ「働く」経験に乏しく、「働く」をどう捉えて良いかわらかない高校生に対して大学生がしっかりと寄り添いながら学ぶ場を作ろうとしていたことは強く感心した。
2日目|巻き返し。高校生は何を学べたのか。
2日目。この日も暑さが身体に堪える。私も13時頃に店舗に訪れたが、店内はプログラムを受講している店員役の高校生ばかりという状況。それでも、各店舗工夫を重ねて売り上げを伸ばそうとしている。
特に1日目カフェ事業で大きな赤字を作ってしまったチームは買い入れた材料に少し手を加え、粗利が大きい商品を開発し、これが受け入れられたことで売り上げが伸び始める。少しずつ告知も効き始め、いかにも今回店頭に立っている高校生の友人と見られる人や親子連れで来ているお客様が来始めている。
普通であれば意気消沈してしまいそうなのに、高校生たちは健気にPOPを作ったり、ドアが開けば「いらっしゃいませ!」と声をかける。注文が入れば男子生徒が小走りにキッチンに向かい、かき氷機で氷を削り、フロートの注文が入ればかわいらしく彩られたソーダの上にアイスクリームをトッピングしていく。
一方、アパレルも、昨日購入した洋服に身を纏った高校生たちがPOPやSNS用の画像撮影をしながら、応援に来ていた店員さんや大学生と楽しそうにコミュニケーションを取っている。お客様が来れば、遠くで服を選ぶ様子を見つつ、少しずつ店員然としてくる。
こうして時間が過ぎていき、営業終了。完全燃焼し切れたかと言われれば難しいが、思うようにできなかった部分があるからこその課題が出たというところだろうか。アパレル側で関わってくれている大学生はこの日の着地点として次のような点を挙げていた。
もう立派な働く体験を提供できているやん(笑)。高校2年生に対してそこらへんの社会人と同じようなことを要求している(笑)。けど、こういう真剣さが大事。
これは中学校でやるような「職場体験」とは異なる「ビジネスを通じた学び」を得る場。「なぜ、どうして、そんなことをするのか。なぜ働くのか。なぜ稼ぐことが必要なのか」を実際にビジネスを通じて学ぶ。それが学校生活や日常生活に結びついているのだということを体験から理解してもらうことをやっているのだから、これで良い。4月からのこの短期間で学生(3年生)が本当に成長していることを実感する。
ふりかえりとこれからの課題
こうして2日間の実践の機会は終了した。まだ16-17歳の高校生にとってはタフな経験だっただろうが、自分で企画開発したり、お客様に声かけをして商品を買ってもらったりという経験が、少しでも彼・彼女たちの心を動かすものになり、自分の将来のあり方を考える機会になれば良いなと。
諸般の事情でカフェ側のふりかえりしか参加できなかったが、高校生たちは口々にそれぞれの視点での学びを語ってくれた。特に望むような成果が得られず、赤字になってしまったチームの生徒も、1日目から2日目に売り上げを伸ばすことができたこともあって、失敗から学んで巻き返すという経験ができたことが大きかったようだ。利益を得るための売価設定、商品企画、原価のマネジメントなども含め、会計教育という視点からも学べたことが多そうだ。
このあと、高校生たちは9月中旬に行われる最終プレゼンに向けて準備を進める。そのため、大学生と高校生はオンラインでコミュニケーションを取りながら、プレゼンの準備を行う。高校生は夏休み、大学生はこれから壱岐での同様のプロジェクトに向けた準備があるため、どこまで精緻化されたプレゼンになるかはわからないが、ここでのふりかえりの深度が高校生の理解度となり、プレゼンに表れることだろう。大学生はきっと高校生のフォローをしつつ、今回学んで欲しかったことを言葉にできるようにサポートするだろう。期待しています。
なお、今回の出店をTANEMAKI側からサポートしてくれたゼミ生のnoteはこちらに。
今後の課題は挙げ始めるとキリがなさそう。これまでは授業中心で考えていれば良かったが、実践的なカリキュラムまでこちら主導で組み立てるとなると課題だらけ。事前の告知、当日の不測の事態への対応、学生への連絡などなど。予測されていたことなのに、やってみて初めてわかることが本当に多い。これは8月末の壱岐・勝本浦での出店に向けて、運営側の学びが非常に大きかった。
あと、個人的には今回の実践経験が高校生の起業家的マインドセットにどう影響しているかが気になるところ。これまで4つの高校でサーベイ(アンケート)調査を実施し、アントレ教育実施前であってもこうした授業を受講する生徒とそうでない生徒との間には一部の項目で差があることがわかっている。それが授業に参加しようと思っている生徒固有のものなのか、たまたま得られた傾向なのかがわからないが、まず1校で実践経験が終わったので、次回最終回の授業後の調査を実施して新たな発見があることを期待したい。
とにもかくにも、営業が無事終了して良かった。高校生、大学生、そしていつも温かく支えてくださっている皆様に改めて感謝。
また、日田三隈高校の校長先生や先生にもご来店頂き、生徒さんの学びの様子を見て頂きました。本当にありがとうございました。
余談
今回の出店の中で得た余談を2つ。
1つ目は、別の校区に行くときには制服で行くことが義務付けられているらしいというお話。以前からお世話になっている方から「駅前の祭りに浴衣姿の高校生と制服を着た子しかいないの不思議だなと思ったんですよね。それって日田だけかもしれないけど、そういうルールがあって」というお話。それであれば、中高生がおしゃれして街を歩くなんてことはない。もし、これが本当のルールなのだとしたら、なぜそんなことになっているのだろう。どこかで中高生が悪さしてもわかるようにするため?そこまで学校が監視しないといけないの?どうなんでしょ。真偽をご存じの方、教えてください。
2つ目は最後まで残ってくれた高校生との会話。「今回やってみて、やっぱり大学生いいなと思いました。福大行きたいなぁ」って言ってくれました。実はその子は、ニコニコ交流館に商品を納めていらっしゃる農家さんのお嬢さんで、昨年夏に大学生が大挙して伺ったお宅の子。たまたま日田三隈高校の生徒で、今年になって本プログラムに参加してくれたのだそう。まだ2年生だし、「本学にはさまざまな入学の方法があるからしっかり勉強しましよう」と。わたしたちの活動の目的の1つに「高校生のロールモデルとなること」がありますが、大学生と高校生の交流がこうした形になっています。
実際にオープンキャンパスやゼミ面談、そのほかの授業をやっていると、最近は学生がnoteやSNSで発信した記事や投稿を見たという高校生や学部生が増え始めています。大変ありがたいことで、発信はするべきやと。私がやっていることなのでどうしても荒っぽいことはたくさんあるのですが、こうして取り組みの成果の萌芽が見られることは本当に嬉しいことです。
結果が出ないと挫けてしまいそうだし、色々と言う人もいるのでしんどいのですが、こうして期待してくれている人がいる限りは頑張ろうと。どこまで行けるかわかりませんが、あと1年半は頑張ります。その後のことはまだ考えていません。でも、こうして若い人が学ぶ機会を創出できていることに希望を見出しています。
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