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マルシェに向けて数値計画を練る:会計はこう使う|2023スプラウト壱岐商業高校④

7月も気づけば後半戦。7月18日になりました。大学は講義最終週に入り,来週からは定期試験です。高校も今週いっぱいで授業が終わり。なんかそわそわしますね。

そうした中,壱岐商業高校の授業は早くも第4回を迎えました。昨年度と異なり,今年度は全5回の授業+販売実習を行う通常の「スプラウト」のカリキュラムを実施していますので,今回は販売実習前最後の授業ということになります。

そして,今回のテーマは会計。高校生には簿記のイメージが強いかもしれませんが,ここでお話するのはあくまでも会計。しかも,金勘定の話です。

これまでも述べてきましたが,今年度の「スプラウト」,運営側の目標は教材の標準化を進めること。恐らく教材を作っている学生も何をどこまで,どうやって伝えれば良いのか苦労したことでしょう。では,その成果はいかに。さっそく見ていくことにしましょう。

なお,壱岐商業高校でのここまでの授業の様子はこちらのマガジンを御覧ください。

今回の授業内容

今回の授業に入る前にこれまでの復習から。

まず,企業は継続するために利益が必要であり,そのためには付加価値を生み出すことが求められる。ただ何かをするのではなく,それは社会課題の解決であり,どのような未来を創りたいのかを経営理念で表す。

そして,その経営理念の実現に向けて,戦略を練り,具体的に計画を設定すること,さらには組織的に活動を行うことで成果を導くのだから,組織に属する個人が互いの志向性を持って活動しましょうねという話をしてきた。

いつものアントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアスです!

特に組織的に活動するという場面においては,リーダーシップとフォロワーシップが求められることになり,役割は役割として重要だけれども,組織に関わる個々人がそれぞれ持つ能力を発揮することが大事だという話をしている。

そして,その能力を発揮するためには計画が必要!その計画は会計数値によって作られるというお話からスタート!

1限目:経営計画を練る上で会計数値は重要というメッセージ

こうして,1限目の授業テーマである会計についてのお話がスタート。

まず,企業活動を金額で評価する意味について。これだけだと誤解があるんだけれども,まずは自分たちが生み出している経済的価値を測定することに意味があるという説明をする。

「比較」という重要な概念を使って会計を説明する。レベル高い。

しかも,その比較をするのは,過去・現在・未来という時間軸を意識したものになっていて,学生のスライドによれば「帳簿に過去を記録し,現在を知って,未来の進むべき方向を定めることができる」のだという。

日記で過去・現在・未来を比較するって良い説明

それを企業活動に落とし込めば,下記のスライドのような説明になる。

すなわち,会計があることによって,

過去:過去の経営判断の成果を目に見えて理解することができる。
現在:現在の経営状況を知ることができる。
未来:理念の実現・利益の最大化のためにどうすればいいのか,経営計画を立てるのに役立てる。

という。

話の展開がうまくて感動している(笑)

会計学徒からすれば当たり前のことかもしれないが,学生が高校生に対して会計数値を用いて経営計画を策定する意義を説明するには良くできた説明であるように思えた。

アントレプレナーシップ教育=ビジネスを1から立ち上げるという経験が教育効果を発揮するのはこういうところだと個人的には感じる。すなわち,何かを成し遂げるとき,ある目的や目標に向かってどのような手順でそれを創り上げていくかを決めていく。受験しかり,就職活動しかり,プロジェクトしかり,旅行しかり,ライフプランしかりだ。

「やりたいこと探し」はある種の生きる目的探しとも言えるけれども,それがなくても段取りを立てて,限られた資源をかき集めて何かを成し遂げるという行為そのもの自体に学びがある。いや,これこそアントレプレナーシップではないか。最近,各地でさまざまな先生やキーパーソンにお話をする機会があるけれども,実はこれは昔学校でやっていた部活,生徒会,文化祭や体育祭にあった学びであり,今はそれを外で作らなきゃいけない時代になったということなのだろう。

話が脱線したが,計画を作るのに数値を用いるというのは極めてわかりやすいし,近い未来を形作る1つの表現方法として便利だということを高校生にわかってもらいたいということだ。

そこまでの話は無いにしても,商業高校の生徒だということを割り引いても,そのあたりの理解がスムーズに進んだのは,学生作成の事前動画をしっかりと観て予習してきたことが要因として挙げられるだろう。

その上で,(企業が存続するための原資となる)利益の最大化を図るにはどうしたら良いのか。ここでも稲盛和夫氏の教えそのままに授業を進めていく。

そう。収益最大費用最小だ。

利益の最大化のためには当たり前のことながらこれしかない。

なので,授業でも収益最大,費用最小を実現するための考え方を伝えていく。これも当たり前と言えば当たり前なんだけど,いざお客様のために値付けをしようと思うと難しい。これは学生が学園祭の模擬店を擬似会社として運営する「創業体験プログラム」でも毎年経験していることでもある。

ポーターのフレームワークは便利

そして,ここで登場するのがマイケル・ポーターの競争戦略論だ。ご承知の通り,ポーターは競争戦略論の中で企業の戦略は3種類ある。すなわち,差別化,コストリーダーシップ,集中だと言うのだが,集中はセグメントの絞り方の話なので,大きく言えば差別化するか,コストリーダーシップを取るかという話になる。

ただし,その言葉だけでは高校生が十分に理解することはできないので,それぞれの考え方について触れたあと,具体例を用いながら授業を進めていく。

スライドの作り方が上手いなと感心している

例えば,コストリーダーシップ戦略はこんな感じ(競合優位ではなくて競争優位なんだけどな)。この内容は繰り返し授業やゼミで話をしているから,学生は空で言えるようになってきているのではないだろうか(笑)。

こっちは「競争優位」になってる。

差別化戦略もこんな感じで「付加価値」をどう付けて高価格でも納得して買ってもらえる仕掛けづくりの重要性について述べている。

いずれにせよ,学生自身は戦略を立て,それを実行するための計画づくりがいかに難しいかを自らの経験として身体的に理解しているから,ここは力の入れどころということもあるのだろう。非常にしっかりとした説明で,高校生が一度聞いても理解できるような内容になっていたように思う。

その上での事前課題がこちら。

今やドトールをコストリーダーシップと言って良いか問題はあるけれども。

スターバックスとドトールコーヒーを競争戦略論から分析するという,もう20年くらいやっていて,高校生にも馴染みがありそうな内容。この内容であれば,Web上にいくらでも記事があるし,島内にスターバックスやドトールがなくても(いわゆるチェーンはモスバーガーしかない)高校生は調べることができる内容になっている。

そして,高校生から価格帯や「サードプレイス」というキーワードが出てきたり,フラペチーノあるよね的な話もしたところでチャイムが鳴り,1時間目が終了した。

2限目:壱岐エテマルシェの経営計画を作ろう

2時間目。

ここまでの会計数値の重要性と利益・付加価値を生み出すための仕組みづくり=差別化orコストリーダーシップの話を踏まえて,この時間は高校生自身がこのマルシェをどんな場所にしたいのか,前回,前々回に設定した経営理念をベースに具体的にどんなイベントにするのかを考える時間に。

壱岐は4地域から構成される。今回の舞台,勝本は北端に位置する。

議論をする前に壱岐がどんなところなのかを改めて確認。人口約2.5万人,南端で最大の人口を持つ郷ノ浦は約9千人であるのに対し,勝本は4,825人と半分程度の規模。しかも,勝本はこの10年で25%ほど人口が減っていく急激な過疎地域。市全体でも65歳以上が人口の40%を占めており,高齢化,人口減少が島の課題になっている。そういうこともあって,長崎県では離島振興に力を入れている。

そうした背景を踏まえて,勝本で行う高校生によるマルシェの今年のコンセプトは夏祭り。昨年1年間で2回実施したマルシェの経験を活かして,洋服,カフェ,パン屋に加えて,高校生が地元商店街から発掘してきた綿菓子機を使用した綿菓子や地元漁協の協力によるイカ焼きも登場する。

そこで今回の収益(売上)目標はどのように設定するか。高校生が考えるワークの時間になった。先程の時間の戦略(差別化 or コストリーダーシップ)を使って計画を立てることができるか。学生の誘導で議論が始まる。

売上計画を作るのにまずは来場者数と客単価に分解。

ある生徒は「差別化戦略」が良いと思うと発言。それは理念を踏まえて,壱岐の人に壱岐の魅力を知ってもらおうとするのであれば,多少高くても価値があるものだと知ってもらう方が良いだろうと。

しかし,ある生徒は「コストリーダーシップ戦略」が良いという。高校生に来てもらうのだとしたら,できるだけ安い方が良い。たとえ理念があっても,お客様に来てもらえない,買ってもらえないのだとしたら…。

いろいろな議論が錯綜する。

そこで,状況をブレイクするために私から質問を投げかけた。

綿菓子1つ売るとしたら,いくらにするの?で,目標売上は?欲しい利益はいくら?

高校生の目つきが変わる。議論が活発になる。ただ,こういうとき必ずと言って良いほど,議論は売価スタートになる。

200円。

そこで質問をする。綿菓子1つの原価っていくら?

高校生から50円としようと発言が出る。となると,粗利は150円。

学生から10円だよと言われて,再計算。さらに,何個売るの?と聞くと。200個と言う。

しかし,それで行けば高校生10人分の日給はわずかしか出ない。「それで良いのかなぁ?」と聞いたところで,ようやく高校生がハッと気づいたようだった。

そこで,質問を変えてみた。

今回のマルシェ全体の目標売上高はいくら?何人くらいに来て欲しいの?

そこで,高校生からは昨年の数字も参考にしてある金額が目標に定められた。そして,目標来場者数が設定されたので,具体的な集客戦略へと話が変わり,ようやく具体的な計画を作ろうという段階にシフトした。

しかし,ここでタイムオーバー。計画を作る入口段階で授業が終了することになった。

ふりかえり

こうして第4回授業は終了した。

高校生の様子を見ていると授業の内容はわかったけど,計画を立てるってどういうこと?という感じ。恐らくここまでは正直お客さん気分で,「自分たちがやることになってるけど,最後は大学生と先生たちがどうにかするんじゃない?」的な空気感があったけれども,だんだん火が付きそうな雰囲気。

昨年まではこちら発案でプロジェクトを進めていたこともあり,地元店舗との連携はすべて大学生側で引き受けていたが,今年はプログラム実施の枠組みからして高校に主導権を握って頂いている。

ただ,そのおかげもあって,高校側でかねてより開発していた新製品を販売しようという動きや,マーケティングの授業でポスターを作ろうだとか,それぞれの課題研究の授業テーマに沿った提案が出てきているようだ。

となると,あとはそれを高校生の手でより価値のあるものに仕上げることができるか。これは土曜日に訪問した松浦での話に通じるところでもある。

「スプラウト」を各地で展開をしてきて感じることは,生徒がどれだけジブンゴトとしてプログラムやマルシェに取り組むことができるかに成否があること。当然と言えば当然だが,それをどこまで動機づけられるかは,私たちがお伺いすることによってブーストがかかって高校生がやる気になる場合もあれば,日頃学校でどんな風に過ごしているかにも大きく影響するものと思われる。その日だけそれっぽく取り組んでいても,簡単に成果は出ない。

そういう意味で私たちがコントロールできることは今年度で言えば限られているのだが,それでもたった1回のマルシェを通じて少しでも高校生に学び多きものにしたいから,大学生も限られた時間の中で一生懸命準備をして授業に臨んでくれている。

互いがどこまで本気になれるか。

高校生だから知らないこと,気づかないことはたくさんあるだろうけれども,高校生最後の夏を思い出深いものにするためにも,一歩踏み出す勇気を持ってチャレンジして欲しいなぁと感じたのでありました。

(余談)
今年は授業スライドを各回パートを分けて作成しているが,ここまで4回の内容はどんどんブラッシュアップされているように感じる。それは当の学生たちも成長しているし,理解度が高まってきているからだろう。5月以降,壱岐商業と福岡女子商業(女子商)と2箇所で授業を実施してきたことで,高校生の反応を想像しながら準備できるようになったことも挙げられるだろう。

前期の授業はこれで終わりだが,8月に入れば宮崎・日南の「にちなん起業体験プログラム」と飯塚高校での授業が始まる。ここから秋に向けてさらに忙しくなるので,この夏休み中に学生といろいろと作戦を練ることにしましょう。

とりあえず,みんなお疲れ様でした!引き続き宜しく!

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