見出し画像

新たな挑戦の始まり|2022女子商×とびゼミコラボ授業①

今年も高大連携アントレプレナーシップ教育プログラム(長い!)の本丸とも言うべき福岡女子商業高校(女子商)での授業が始まりました。2019年から始まったこの取り組みも,4年目を迎えます。

当時は町立から私立への移管,思うように集まらない生徒,進学実績を高めようと高大連携を模索,そして高校にとって最も大きなイベントである「女子商マルシェ」の改革をという中で,校長先生とお話をして「大学生が高校生に授業をする」という同僚の先生が行っていた書くP(書く力をきたえるプログラム)の基本コンセプトを流用して始めたのがこのコラボ授業でした。

そうこうして進めてきた本プログラム。2019年当時1年生だった生徒が本学学生となり,今年から私の講義を受講することになりそうで,時の経つのは早いことを実感しています。映えあるその第1回授業はどのように進められていったのでしょうか。今回はその様子を記していきます。

2022年度の授業カリキュラム

本プログラムの1年目は今思えば気軽なものだった。それは学生に実施している「創業体験プログラム」(創P)のカリキュラムをベースに,経営理念,戦略,マーケティング,損益分岐点分析とふりかえりという構成でカリキュラムを構成していた。記念すべき第1回目の授業がこのような形で動画に残されている。

この頃はまだまだ授業内容の詰めも甘く,毎回修正を加えながら,ようやく何とか授業ができていた。ただ,それまで学年ごとに連携するプロジェクトがなく,タテの関係が構築できていなかったところに,3-4年生の有志をベースに始めたこのプロジェクトによって同じ目的を持った活動を学年を跨いだ関係性を構築できるようになった。つまり,3年生は4年生から教えを請い,4年生は3年生が困っているポイントをアドバイスするという関係ができあがっていった。

2年目から明確にアントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアスをテーマに掲げるとともに,組織的に目的を実現するためのマネジメント・コントロール・システム(MCS)をカリキュラムに取り入れた。少しずつブラッシュアップしてきた講義も改変を進め,いよいよ学年ごとに学ぶ内容が深く,広くなるように設計している。

見づらい2022年度の授業カリキュラム

そして,2022年度は新たにアントレプレナーシップ教育で学ぶポイントを取り入れるとともに,1年生,2年生,3年生とグラデーションを付けたカリキュラムを作った。

例えば,1年生ではアントレプレナーシップ(個人が持つべき姿勢)とコレクティブ・ジーニアス(個々の力を組織的に活用する)を基軸に,企業という組織を通じて目的をいかに実現するかに焦点を当てている。2年生では個人であっても,組織であっても向き合うべきリスクと不確実性,組織を目的に導くリーダーシップ,そして損益分岐点分析と個人と組織を取り巻く概念を拡張する。3年生ではさらに抽象的な議論を進め,即興的組織において成果を出すための考え方であるチーミングと心理的安全性,アントレプレナーシップを発揚させるための考え方としてのエフェクチュエーション,未来の組織のあり方など,彼女たちが大学生,社会人となった時に主流になるであろう組織形態での個人の能力の活かし方を考えるような構成になっている。

このように,今年の女子商でのカリキュラムは教える側の意識が全面に出たものになっている。それも他の高校ではまだ1-2年目で手探り状態であるのに対し,女子商ではカリキュラムを毎年見直していく中で,新たな挑戦をする場所だと位置づけているからだ。ここで実施した授業をさらにブラッシュアップさせ,他の高校でのカリキュラムに反映させていく。3年間継続して授業ができる関係性があるからこそ,できるチャレンジだとも言える。

第1回目の授業計画と授業目標(到達点と及第点)

そして第1回目。今年は7クラスを担当する。1年生2クラス,2年生1クラス,3年生4クラスだ。

2019年は進学実績の向上とロールモデルとして大学生が授業するという高大連携を目的としており,各学年1組に配置された進学クラスのみを授業の対象としていた。それが2021年からは3年生全クラスが加わり(全5クラス),今年はクラス数が増加したことで担当クラスが7クラスとなった。

それもこの4年間で高校の改革がかなり進んだことが影響している。進学実績も向上,女子校の商業高校というニッチな立ち位置,校長先生はなんと32歳という若さということもあり,現在の3年生の倍の入学者数を得ることになった。今年は1年生6クラス。そのうち2クラスが進学クラスということで,わたしたちにとっても嬉しい悲鳴となった。

その記念すべき第1回授業のタイムテーブルと授業の到達点・及第点は以下の通り。

1-2年生のタイムテーブル

まず,1年生2クラスと2年生。1年生は高校に入学して3ヶ月。ようやく関係性も構築されてきて,商業という新たな科目への学び方も身についてきた頃。2年生は昨年の学びの内容をなんとなく覚えているくらいということもあり,このプログラムの主たる概念である「アントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアス」をテーマにしている。それぞれの授業には到達点と及第点が設定され,到達点が今回の授業の到達目標,及第点は高校生の理解度,授業進度を考慮した上で必要最低限教えて理解を促す目標としている。

3年生各クラスのタイムテーブル

続いて3年生4クラスのタイムテーブル。1組は過去2年間授業を受けていて一連の流れがわかっているところに,さらに新たな知識を入れていくステップ。アントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアスの復習はそこそこに,リーダーシップとチーミングという新たなテーマについて説明していく。どこまで理解が深まるか。一方,2組から4組は同じ3年生であっても初めて大学生の授業を受講する。そのため,基本的な内容は1年生と同じ構成にしているが,これがまた難しい。何が難しいのかということを具体的に書くには憚られるが,進学クラスとはまた異なるミッションがあるようなもの。それはまた改めて言及することにしよう。

今年向き合う高校生たち

続いて今年の各クラスの雰囲気を軽く紹介していこう。

3年1組

これまで3年間授業を受けてきた唯一のクラス。進学クラスとして位置づけられている。

3年1組は欠席者多めで少人数

すでに「アントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアス」は耳にタコができるほど聞いてきているのである程度概念として理解をしている。これまでは1年生,2年生と授業で学んできたことをこれでもかと繰り返し学ぶ時間になっていたが,今年は授業内容をさらに拡張し,新たな概念を教えることになっている。クラスリーダーは本プロジェクト全体のリーダーを務めるNさん。

2年1組

2年目の受講となる2年1組。女子商において最大人数のクラス。昨年は途中からクラスを2つに分割し,異なる学生から同じ内容の授業を受けるというスタイルを取っていた。今年は教室利用の観点から1クラスでまとめて教えることに。

2年1組は女子商最大のクラス

生徒数が最も多いことから,グループに分けてもそこそこの人数を対応することになる。また,昨年は新型コロナウィルスの影響から女子商マルシェが中止になってしまい,2年生なんだけれどもマルシェの経験を持たないクラスになる。なので,1年次の授業内容についてはある程度理解していると想定されるが,実践経験がほぼ無い状況でさらに積み上げの授業を進めていく難しさがありそう。クラスリーダーは本プロジェクト全体のリーダーのもう1人,Fくん。

1年1組

続いて1年1組。2022年度入学でまだクラスになって3ヶ月。制服も一新されて「なにか変わった」を感じさせてくれる。今年から1年生向けの授業は少しダウングレードして,基礎的な内容をしっかりと学べるようにしている。

少し控えめな1年1組

例えば,損益分岐点分析は行わずに,企業活動の成果を測定する会計,中でも収益,費用をいかにマネジメントし,利益を最大化することの意味を伝えることだけに集中する。それは彼女たちが簿記の授業で学んでいる内容とフィットさせるため。焦らず,急がず,丁寧に。クラスリーダーは昨年も2年生ながらお手伝いをしてくれたが,今回初めて教壇に立つHくん。

1年2組

わたしたちが女子商で授業をするようになってから初めて,1年生の進学クラスが2クラスになった。

1年2組は自己効力高め

実は今年は研究の一環で高校生のアントレプレナーシップや心理的要因について調査をさせてもらっており,同じ1年生の進学クラスでもそれぞれ特徴があることがわかっている。特に1年2組はチームで何かをすることが得意=効力感が高いという回答をしており,授業撮影用に使っていたiPadでこんな写真を学生たちと撮ろうとするような快活な生徒たちが集まっているようだ。クラスリーダーは壱岐商業高校とのオンライン授業でも頑張ってくれているSuくん。オリジナリティあふれる授業を設計している。

3年2組

3年2組は女子商に設置されている4つのコースのうち,商業クラスとされている。生徒数は今回担当するクラスで最も少ない。この日は欠席者も多くいたため,さらに少なく感じた。

3年2組は商業クラス

昨年度もそうだったが,授業を進めるのに結構手強いクラス(笑)ではあるものの,動機付けて乗せると授業が進められる。しかし,集中力が続かず,説明になってしまうと眠ってしまう生徒も出てくる。そこでゼミ的にはリソースを使って人材を投入し,うまく高校生に働きかけながら授業を進められるようにと工夫をしている。クラスリーダーは全く初めて教壇に立つSaくん。

3年3組

3年3組は情報クラス。比較的真面目な生徒が多いとの話を聞いていた。そこで配置されている学生も比較的真面目でキッチリやりたいという印象。

3年3組は情報クラス

クラスリーダーは壱岐商業高校との授業でもいい味を出してくれているTさん。

3年4組

最後に3年4組は2020年度入学生から設置された「ビジネスビューティーコース」の1期生。美容を入口にしたマーケティングなどを中心に学習するコース。

3年4組はビジネスビューティーコースの1期生

授業を行うこちらも進学先や就職先としてどのような場所を選ぶのかということが十分に見えてはいない。が,入口がハッキリしているだけに,授業内容をうまくアレンジできるとこの授業の学びが最も生かされる可能性がある。クラスリーダーは,こちらも初めて授業を担当するゼミ3年生のムードメーカーたるEくん。

さあ、いよいよ授業が始まる

いよいよ2022年度の授業が始まる。

が,ただでさえコミュ障なゼミ生たち。前週の大学でのミーティング時にうるさく言ったのはアイスブレイクの重要性。どれだけ授業を一生懸命やっても,大学生との接点がこれまであまりなかった高校生からすれば「誰かが来て授業している」になってしまう。そこで,今年は2コマの授業のうち1コマ前半をしっかり使ってアイスブレイクをするように求めた。

学生たちはそれぞれの方法でアイスブレイクを始める。高校生が話しやすい内容はなにか,ランダムに来る質問を楽しむためにルーレットを使ったり。その中でも特に大盛りあがりだったのが1年2組のこのお題で話す内容だった(笑)

まずは高校生とのアイスブレイク。これ大盛り上がり。

もう初恋などというものを忘れてしまったおじさんには全く思い浮かばないようなお題。が,これが思春期の女子にはバカウケ。おまけに女子だけだから,いろんな話が出るわ出るわで,それが先程の写真にもつながったようだ。

みんな初回だから緊張するし,真面目にやろうとし過ぎてたのだろう。これくらいハッチャケても問題はない。良い事例になったように思う。

そして,いよいよ本題に。1年2クラスと3年2組から4組はほとんど同じカリキュラムで授業を実施。特に今年は担当クラスが多いこと,他の高校で実験的に試したケースをうまく導入しながら,授業準備は極力最小に,授業内容はできるだけ濃く理解を促せる構成にするようにしている。

こうするとこれまでの授業の横展開ばかりが強調されるとともに,他のクラスのリーダーも自分で作った授業ではないがゆえに理解が不十分な点が出てきてしまう。この点は授業をすすめる3年生に対してアドバイザー役になっている4年生からフォローが入るが,再現性のない1回きりの授業だけに,いかに準備したことを出し切るか。学生には常に「準備した以上のことを出せるほど経験がないのだから,しっかり準備して,それを出し切る」ことが重要と伝えている。

桃太郎で学ぶアントレプレナーシップ

が,蓋を開けるとそれぞれのクラスがそれぞれでしっかり準備をしている。題材は同じでも,説明するためのスライドや言葉遣いを少しずつ替えている。高校生にどこまで伝わっているか,理解ができているかをどう確認するかには課題があるが,とりあえず授業を行うという意味では良いスタートになった。

アントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアスをジブンゴトに落とすところが今回の難所

が,こうして桃太郎やONE PIECEなどの題材を活用して教えたアントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアスも,ジブンゴトとして腑に落とすプロセスになるとなかなか苦戦する。これは昨年女子商でのあるクラスでの授業で気づいたが,彼女たちの限られた経験の中では十分に関連付けができていないがゆえにワークにならない可能性があるということだ。

さまざまなワークを仕掛けようとするが…

というのも,教師による一方的な知識の詰め込み=理解しているしていないに関わらず授業を進めることが可能だが,Project Based Learning(PBL)はそうはいかない。反転学習のために事前動画を丁寧に作ったとしても,単に動画をタレ流しにする(教員が気づいているはずなのに),生徒がそもそも課題をやってこないということに直面すれば,授業の前提そのものが崩れる。しかも,自分の経験を関連付けてワークをしなければならないから,彼女たちの中に言語化された何かがなければどうにもならない。授業がスタックする。

言語化して表現することが難しい

「やべぇ,しんどい,面倒くさい,眠い,つまんねぇ」と,何かを言葉にすることを止めてしまい,特定の言葉だけを使って自分の状況を口にしてしまうのでは,そこで思考が止まってしまう。だから,教員と高校生では築くことのできない斜め上からの関係性を大学生と作ることで,高校生の言語化をサポートし,学ぶ楽しさ,気付く素晴らしさ,知ることで見える世界の広がりを体感して欲しいのだ。

実は大学生が果たすべき役割は極めて大きいのだ。しかし,このことは授業を担当する大学生にも同じことが言える。彼・彼女たちが持つボキャブラリーの範囲でしか何かを語ることはできない。この授業をするためには相当の学びを学生には課すことになる。ゼミでは何度も聞いた言葉だし,自分たちでも理解はしているつもりだとしても,いざ授業をするとまた違う。このプログラムのキーワードに"Learning by Teaching"を掲げているが,わたしたち大学教員がそうであるように,彼・彼女たちも教える=概念化し,言語化したものを言葉を使って正しく伝えることを通じて,改めて学びにつなげていくことがこのプログラムの醍醐味とも言える。

だから,大学生が「授業ができる」ことが主眼にはない。それはアタリマエ。もっと目線を高く,高校生が「授業を理解できる」ように大学生が授業を行うことを求めている。

そうしたことを伝えてきたこともあるのか。少なくとも第1回の授業としては大きな問題もなく,順調に終えることができた。大学生,よく頑張りました。

授業後のふりかえりと顕在化した課題

さて,授業後のふりかえり。約30分間かけ,今回の授業のふりかえりと次回9月末に実施する第2回授業に向けて取り組むべきことについてを話し合った。それぞれのクラスで当初の予定通りにできたこと,できなかったこと,想定内のこと,想定外のこと,さまざまあるが,概ね何とかできたという評価だったように思う。

しかし,そうしたふりかえりを聞きつつ,ここで満足してはいけないという悪いスイッチが入った私は,もう少し高い目線で,より高校生に良い授業を提供しようとある話をした。

毎度毎度の具体と抽象の話だ。

今回の授業テーマは,実は全5回の授業で最も抽象度が高く,大学生も高校生もよく理解できていない概念を扱っている。アントレプレナーシップやコレクティブ・ジーニアスをジブンゴトとして理解している人などほとんどおらず,誰も正解を持っていない。しかも,この概念だけを教えようと範囲を閉じ込めてしまうと失敗してしまう可能性がある。

抽象的な概念を理解するために具体例ばかりを出すけれども,その具体例も彼女たちが知っているものでなければ,しかも知っているだけでなく体験しているものでなければ恐らく理解ができない。抽象的な言葉だけを説明しても,それが一体ナニモノなのかを大学生が説明できなければ,高校生には伝わらない。1回で理解させようとしてはいけない。5回の授業が終わったときに「あの言葉ってそういう意味だったんだ」と理解できればOK。

だから概念と概念を関連付けて考えることが必要だというアドバイスをした。例えば,1年生のカリキュラムでいけば,次回は経営理念,戦略あるいは組織を中心とした話になる。では,なぜ経営理念が必要なのか,なぜ組織を構成して経営目的を実現しなければならないのか,戦略とはいかなるものか,それぞれがどう結びついているのか、関連づいているのかを理解する。

そのために,具体的な事象を(理論を用いて)抽象化し,その概念を用いて構造化し,少なくとも伝えるべきことを抽出しておくこと。そこから具体例を用いて説明できるようになれば、よりポイントを押さえた授業になっていくはずだ。

まさに具体と抽象の行き来をすることで,大学生自身の理解を深まるだろうし,言葉を与えることでクッキリと成すべきことが見えてくるだろう。日頃から概念を曖昧に扱い,「やばい」「面倒」「うざい」という言葉でしか自分の感情や置かれている状況を説明できないのでは,到底こうしたことは教えられない。

すでに4年生は3年次に読み終わっており,3年生は今まさに読んでいるテキストに書かれていることを理解し,実践できるようになると,夏休みを経て9月末の授業がより良いものになっていくだろうと期待している。

以上,2022年度前期における高大連携アントレプレナーシップ授業は終了。次は8月末に飯塚高校と壱岐商業高校での授業までおやすみ。学生たちは定期試験へ。私は諸々の雑務へ。より良い学びのために,この夏休みはさらに有効な時間を使っていきたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?