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ドキュメンタリーが判決を変えている、米国

 2010年代から爆発している米国のドキュメンタリーブーム。その先頭は実録犯罪ジャンルであり、色々問題もあることなんかを書いてきたのですが↓

 2021年には、こうしたドキュメンタリー類が米国の司法判決を変えていく規模になったことを(お硬い政治メディア)Axiosが報じています。

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 まず第一の事例が、Fusion TV制作『マルコムX暗殺の真相』。2020年Netflix配信後、遺族の働きかけもあり、ニューヨーク当局が再捜査を開始。翌年、マルコムX暗殺犯とされた3人中2人が有罪取り消しになりました。55年前の判決が覆されたわけです(参照: マルコムX氏暗殺、2人の有罪取り消し 判決から55年 - BBCニュース)。

 特にセンセーションを巻き起こしたのは、ドキュメンタリー『Framing Britney Spears』で一気に話題になったポップスター、ブリトニー・スピアーズにまつわる#FreeBritney 運動。これについては↑記事を書いたのですが、結果的に、超党派CA議員によって「フリー・ブリトニー法(通称)」立法に至ってます(参照:California #FreeBritney conservatorship bill becomes law | TheHill)。司法機関に影響を及ぼしたスター関連ドキュメンタリーとしては『サバイビング・R.ケリー:全米震撼!被害女性たちの告発』以来の規模かもしれません。

 つづけて、1999年に死刑判決となったジュリアス・ジョーンズも減刑に。彼にまつわるドキュメンタリーとしては、女優ヴィオラ・デイヴィスが制作をつとめたABC『The Last Defense』がありますが、今回大きなムーブメントを牽引したのは、この問題に数年間取り組んでいたキム・カーダシアンによるSNS呼びかけ。ラッパーのJコールも同調し、一週間で14億インプレッションを生んだそうです。

 このように、米国での犯罪ドキュメンタリー発ムーブメントにはセレブリティが絡むことが多いです。大体「ドキュメンタリーがバズる→セレブにも波及→ときに運動などが起こって司法を動かす」流れ。

 「司法判断を動かす新たなるジャーナリズム&市民運動」……みたいな蛮勇でまとめられるかもしれませんが、前出のブーム紹介記事でも触れたように、こうした犯罪ドキュメンタリーブームには問題点もつきまといます。主要プラットフォームはNetflixやHBO Max、そしてPodcastですが、話題にするために誇張っぽい派手な演出も多いのです。

 そもそも「バズる犯罪ドキュメンタリー」x「セレブ」パターンの皮切り作品が問題を起こしています。それは、2016年Netflix配信の『殺人者への道』。当時、人気モデルのジジ・ハディッドが衝撃を連続ツイートしたり、それを見たキム・カーダシアンがわざわざNetflixに登録して視聴して州知事への懇願を呼びかけるなど、セレブ界でもブームになったバイラル・ドキュメンタリーでした(参照: Making a Murderer: Gigi Hadid, Kim Kardashian Tweet About Netflix Show | PEOPLE.com  )。

 雑に説明すると、原題"Making a Murderer"が指し示す通り「悪しき警察が冤罪である男性を殺人犯にした!!」主張で進んでいきます。シーズン2まで制作されたヒット作ですが、2021年には、作中で悪徳警官のようにネガティブに映された元刑事が名誉毀損等でNetflixを提訴(参照: Andrew Colborn's 'Making A Murderer' Defamation Case Can Proceed | Crime News)。
 このシリーズの問題性については、以下Rolling Stone Japan記事で紹介されています。要するに、事件/冤罪疑惑を追うにあたって重要なエピソードが端折られているのです。

エイヴリーの甥であるダシーは、ハルバックさんを襲う叔父に手を貸したとして有罪となった。2シーズンで構成された番組はやや一方的な見方に偏っており、エイヴリーとダシーは卑劣な地元警察の犠牲者として描かれていた。2010年中頃、警察に対する世間の批判が徐々に高まり、視聴者は警察を悪者だと決めてかかろうとしていた。
とはいえ、エイヴリーと彼の仲間は必ずしもドキュメンタリーがほのめかすような悲劇の人物ではない。USAトゥデイ誌によれば、ドキュメンタリーにはエイヴリーの罪を示すいくつかの細かい点が抜け落ちていた。まず、ハルバックさんの車にはエイヴリーの汗が付着していた。ハルバックさんはかねてよりエイヴリーが怖いと上司に語っていたにも関わらず、エイヴリーはハルバックさんが彼の愛車の写真を撮影するよう強く言っていた。さらに彼の自宅付近から、ハルバックさんの所持品が発見された。そして必死の努力にも関わらず、エイヴリーは一度ならず再審請求を却下されている。

未解決事件から誤認逮捕まで、2010年代の「犯罪ドキュメンタリー」を象徴する5つの事件 | Rolling Stone Japan

 また、冤罪疑惑を示すドキュメンタリー類がヒットし話題になっても、司法側が動かないケースもあります(ストーリーテリング&リアルタイム調査報告の実録犯罪ドキュメントスタイルを普及させたPodocats『Serial』、Netflixで配信された『The Phantom』等)。
 ……ということで、すっかり米大衆文化に定着した犯罪ドキュメンタリーは、注意も必要なんですね。何作か記事書いてきてますけど、基本的に話題にすることが(大義達成のためにも)重要なため『アメリカン・マーダー』然り関係者が協力していても刺激的な演出が多いです『マルコムX暗殺の真相』共同監督にしても、ドキュメンタリーブームで競争が激しくなっているからこそポップで速報ニュースになるようなものが売れる、そのため作家側のリスクも大きくなっていっている旨を明かしています。

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