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神奈川県におけるコーヒー焙煎豆販売と保健所のこと

明けましておめでとうございます。
本年も、何卒宜しくお願い致します。

今回は、タイトルにある通り、「コーヒーの焙煎豆販売」と「保健所」についてです。
かなり頭を悩まされてしまったので、神奈川県に限らず自家焙煎の豆を販売しようとする方の参考になればと思います。

保健所にまずは確認、したけれど

私はここ北鎌倉に来る前に、東京に暮らしていたのですが、自家焙煎した珈琲豆をオンライン販売していました。
そもそもの始まりはフリマアプリで、「珈琲 綴」という名前がない頃からただの素人個人としてです。
東京では、焙煎された珈琲豆の販売に関して、「飲食店営業許可」などの「許可」のようなものは必要なかったのです。

そして今回は住居兼店舗を前提とした引っ越しだったので、契約をする前の9月頃に保健所へ確認をしに行きました。

「自家焙煎の珈琲豆販売と、喫茶営業をする」という前提で、この物件でこういう状況(住居兼店舗にしようとしていることetc...)で使用しようとしているということを、施設の間取り図面を持参した上で相談したのです。

その最初の相談の時は、住居部分との明確な区別、キッチンやトイレ、手洗いなど必要設備に関することや細かい注意は伺いましたが、それだけでした。

しかし物件契約を済ませて店舗部分の工事に本格的に着工する、という段になった11月中旬頃、もう一度図面を持って工事内容の確認のために保健所に伺うと、衝撃的なことを言われました。

「コーヒーの焙煎豆の販売は『食品製造』にあたるので、店舗のキッチンとは別の調理室が必要。法的に罰則があるわけではないのだけど、『許可』は必要」

これには絶句しました。

「食品製造」にあたるということは、簡単にいうと家庭用でも店舗用でもない、まさに「焙煎室」として別個の区切られた空間が必要になるということで、しかもそこには「手洗いシンク」や「食器洗いのシンク」や「壁や床が耐水性の素材でなければならない」など、いわゆる「飲食店営業許可」と同等の設備が必要になるということです。

家にそんな場所はありません。

工事をすれば出来ないこともないかもしれませんが、持ち家ではなく賃貸であるこの物件に、プラスアルファで数百万円をかけて工事することなど出来ません。
東京ではあり得ないことなのです、喫茶スペースと焙煎スペースを明確に区切って「食品製造」の許可を取らなければならないなど。

しかし9月に確認をした際にはそんなこと言われませんでした。もしそうだとわかっていれば、契約していませんでした。

もう頭は真っ白、気分は最悪、お先真っ暗。
今まで焙煎技術を磨いてきて、鍛えてもらって、少なくとも求めてくださる方もいて。
それなのにもう珈琲豆を販売することが出来ないのか、今まで積み重ねてきたものはなんだったのか。

しかもこの物件自体が癖のある立地でお客さんがたくさんいらっしゃるような場所でもないし、私自身も「笑顔で明るく楽しく営業してます!誰でもウェルカム!」というスタンスでもない、おそらく間口の狭い店になる気がするので、オンライン含めて珈琲豆の販売は経営的にもそれなりに重視しようと思っていました。

思い描いていたものが崩れ去ってしまった。

「許可」と「届出」の違い

数週間打ちひしがれていましたが、気を取り直して動き始めました。
ただ保健所に何度も問い合わせるのは良くないと思いました。
目をつけられてしまうと、喫茶営業自体の許可を取得する時に悪い影響があるかなと思いまして。
考えすぎでしょうか。

まず数少ない私の友人がたまたま「行政法」の専門として大学の先生をしていたので、彼に状況を相談してみました。
すると重大なことがわかったのです。
この手の行政の手続きには大きく2種類あって、「許可」というものと「届出」というものがあるのです。
「許可」は、いわゆる「営業許可」や「製造許可」というもので、「行政の審査を経て許可を得なければ○○してはいけません」というもの。
対して「届出」は、「○○していることを届け出てください」というもので、行政の審査を経る必要がなくて届け出るだけで手続きが完了する、とのこと。

友人曰く、11月に相談しに行った時に言われた「法的に罰則はないけど許可が必要」の「許可」というのは、きっとこの「届出」のことではないか、とのことなのです。
コーヒーの焙煎加工・販売は法的にも神奈川県的にも「許可」が必要だと指定された業種に含まれていないからです。
「現場を知らない頭でっかちの官僚が定めた決まりを現場で適応させられて、職員の方もきっとよくわかっていないのだろう」と笑っていました。

食品衛生法が改正された

しかも同時に今は食品衛生法が改正された直後で、その適応が6月からということもあり、それともごっちゃになっているというのです。
改正内容は、例えば今まで必要のなかった業種等に関して「営業報告」が必要になること、そして「食品衛生責任者」の資格が必要になることなどです。
食品衛星責任者は、昨年東京で講習を受けて取得済みなので問題ありません。
しかし前者の「営業報告書」が今回の話をややこしくさせているようでした。

確かにこの法改正の公的資料を見てみると、「コーヒーの焙煎豆の製造・販売」に関して「営業報告書」を出すべき業種のひとつとされています。
11月に保健所へ伺った時に対応してくださった方は、「食品衛生法の改正があって、来年(令和3年)の6月にこの制度が変わってその許可を取る必要がなくなるかもしれない云々」とも仰っていました。
しかしこの法改正に関しては、来年の6月から11月の間に事業者は報告をしなければならない、とあって制度が変わるなどではないようです。

他方で、この法改正によって1つの施設で2つの許可を取らなくても済むように変更されたようです。
例えば、今まではひとつの施設で「飲食店営業許可」と「菓子製造許可」を取らなければならない場合、これからは「菓子製造許可」を取得すれば「飲食店営業許可」を別途取得しなくても済むようになるのです。

おそらく職員の方は「コーヒーの焙煎豆の製造・販売」が「食品製造許可」にあたるので、この法改正によって「食品製造許可」を取得すれば「飲食店製造許可」を取得しなくて済む、というようにイメージされたのかもしれません。

ここで一度、保健所にTEL

鎌倉市でのみ「許可」扱いではないことを確認するために、改めて電話で問い合わせてみました。

すると職員の方は営業報告書を提出すること、そして「許可」ではないので、法的には行政的な処分(罰則)をすることはないけれども、常識的な範疇でその製造に問題のない場所であることを確認するために、実際に訪問をする、とのことでした。

本来届出だから行政の審査はないはずなのに現場審査はするのか、とまた新たな発見。

常識的な範疇、というものがどういうものなのか、「菓子製造許可」のようながっちりとした設備が必要なのかを伺ってみると、例えば床が絨毯や畳の部屋はさすがにないでしょう、でも2槽シンクや手洗い用シンクが絶対になければならないというわけでもない、とのことでした。

なるほど、まあ常識的な範疇といえばそうですね。

でもこれでおそらくコーヒーの焙煎豆の製造販売は「許可」ではないということがわかりました。

まだ不安…

また並行して、頼れるお方に頼って、神奈川県で自家焙煎の珈琲屋さんを営んでいらっしゃる方にも「神奈川県の珈琲豆の販売事情」を伺うことができて、その様子というか、ニュアンスというか、知ることができました。
大変参考になりましたし、何よりとても心強かった。
時間を作って早いところお礼も兼ねてご挨拶に伺いたい…。長らくご無沙汰してしまった。

さらにダメ押しで、無料でネット相談のできる行政書士事務所にも連絡を取って「神奈川県もしくは鎌倉市でのコーヒーの焙煎豆販売に許可が必要なのか、法改正も影響してくるのか」を伺いました。
すると、「神奈川県では営業報告書は必要だけれど、『許可』にあたるということはないし、その設備に関しても食品製造同等のものが必要になるということも聞いたことがない」とのお返事を頂きました。

なるほど、もしかするとこの法改正以前から神奈川県に関してはコーヒーの焙煎豆の販売をするには「届出=営業報告書」が必要だったのかもしれません。

情報を整理してみる

ここまでの情報を整理してみると

・コーヒーの焙煎豆の販売は法改正前後に関わらず、神奈川県、鎌倉市においては「許可」ではなく「届出」という区分である
・「届出」は「許可」とは違って、行政審査のようなものはなく、保健所に所定の書類を提出することでその手続きは完了する
・「届出」なので、なんらかの設備的不備があっても、「販売できない」となることはない
・「届出」だが鎌倉市は職員の方が現場確認に訪れる
・販売規模が小さい(大きい何十キロもの焙煎機を置いて豆販売を専門とするわけではない)ということを強調すべし

以上のことが保健所以外の方々から窺い知ることができたわけです。

この状況で想定できる最も最悪なパターンは「鎌倉市は独自の制度で焙煎豆の販売を『届出』をした上で行政審査があってお咎めがあるかもしれない」ということです。
これだけは直接保健所に現場を確認してもらわなければ確信が持てませんでした。

いざ

年末に神奈川県のHPから営業報告書なる届出書類を印刷して記入し、施設図面や製造(焙煎)工程の説明する資料とともに保健所へ持参しました。

何食わぬ顔で必要資料を提出し、いくつか確認のための問答をしてから「製造場所を確認しに行くので日程調整を…」とのこと。

年始めの7日。
保健所の方が我が家にいらして、台所兼焙煎室否焙煎専用室を検査。
どうせなら焙煎の様子がわかった方がいいだろうと思い、直前に焙煎をしていました。
「これが焙煎機ですか?」「これは洗浄しますか?」「食品衛星責任者の資格は持っていますか?」程度の確認をしたあと、お手洗いと洗面所を確認して終了しました。
せっかく竹笊に焼き上げた豆を広げたままの状態だったのに、特に見向きもされず、工程をご説明することもありませんでした。
けっこうあっさり。
「届出」の検査だからでしょうか。

後日証明書のようなものを保健所で頂きますが、何はともあれ、立ち込めていた暗雲は晴れました。

実は、報告書を提出した際に「これは許可ではなく届出なので、既に(検査前に)販売していても大丈夫ですよね?」と一抹の不安もなくすための最後の確認をした際に「まあ、許可ではないので問題はないですけどねえ、許可ではないので」というお言葉も頂戴しておりました。

OKです。

保健所に確認、は最低限必要だけど

飲食店を開業する場合、保健所に確認しなければならないことはたくさんあると思います。
何せこちらは初めてのお店作り、開業で、法律的な決まりも行政的な決まりも何にもわからない。
保健所の方の言うことに従うしかないのです。
しかし保健所の方も間違えることはある。人間なので当然、仕方ないです。
それが今回のように超重要事項であることもあって、あのまま進めていたら必要のない工事を数百万円上乗せして行っていたかもしれません。

だから困ったことがあったなら、保健所の方だけでなくいろいろな方に相談したり、自分でインターネットでしっかり調べてみましょう。
法律に詳しい方や同じ業界の方であればベストかもしれません。
自分の住んでいる自治体だけでなく、近隣の市町村、もしくは都道府県、もしくは国。
無料相談できる飲食店の経営等に詳しい法律事務所。
私は絶望して諦めかけていました。
いろいろな方のアドバイスのお陰様でなんとか謎が解けました。

さて保健所の手続きをようやくクリアしました。
あとは工事などの開業準備に並行して焙煎精度の調整をもう少しして、珈琲豆の販売を再開したいと思います。

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